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もう女子テニスの楽しみ方がわからない  2021全仏オープンテニスまとめ #3

絶対的な女王セリーナ・ウイリアムス(39歳)の力に陰りが見え始めて久しい女子テニス界。彼女に引導を渡したのは他でもない大坂さんだと私は思っていますが。ところで、絶対的な存在がいないとなんとなく楽しみの焦点が絞れないということに最近気づきました。それでも思わぬ楽しみを見つけた今回の全仏女子でした。

今女子は誰でも優勝できる?

全仏においては2016年以降は毎年違う選手が優勝し、複数回優勝した選手はいません。今の女子テニス界はランキング20位以内なら誰でも4大大会優勝のチャンスがあると私は思っていますが(今回優勝したのは33位の選手)、選手にとってはいい事のようですが、ファンにとってはちょっと楽しみにくいことでもあります。

それは楽しみの一つに「予想」があるからです。ちなみに今年1月の全豪オープンが始まる前、伊達さんはWOWOWの番組で優勝予想を問われ、「男子はジョコ、女子はわからない」と答えました。この時私は「伊達さん偉いな」と思いました。なぜなら「予想」と「希望」は別物だからです。「希望」なら大坂さんと答えたでしょう。でも女子の状況を冷静に見た時に「大坂さん」とは「予想」できなかったのです。それでも普通なら「大坂さん」と言ってしまうところを「わからない」と。真面目です、伊達さん。

では男子ではどうかと言うと、今の楽しみはズバリこれです「ビッグ3と呼ばれる現役レジェンドに若手がどう向かっていくか?」。ここでいう若手とは20~25歳くらいの選手です。錦織くんやその次の世代はもう含まれていません(そのことは以前にも書きました)。事実、男子の決勝はまさにその通りの戦いになりました。

女子の優勝候補は誰だったのか?

今大会で女子の優勝候補はいたのでしょうか?ちなみに大坂さんでないことは確かです。ここでは触れませんが、今回の会見拒否→棄権という騒動を抜きにしても今のところ大坂さんに全仏優勝のチャンスはありません。

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 👆オーストラリアのアシュリー・バーティ―(25歳)です。2019年の全仏チャンピオンで今回も第1シード。総合力の高い選手で簡単には負けない印象です。しかしケガで2回戦で棄権。これで大坂さんも合わせて第1と第2シードがいなくなりました。

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👆ポーランドのイガ・シュヴィオンテック(20歳)です。昨年の全仏チャンピオンで今回も回を重ねるごとに強さを確信させる勢いがありました。準々決勝が始まるまでは間違いなくこの人が優勝すると関係者も思い始めたようでした。

ちなみに準々決勝を戦った8人のうち一桁ランキングはこの人だけ。ノーシードの選手も2人いました。またちなみに8人のうち私が完璧に顔と名前が一致するのは2人、なんとなくわかるのが1人でした。それくらい「よく知らない選手が勝ち上がってくる」わけです。

そしてその「何となく知っている」この選手がシュヴィオンテックをストレートで破りました。

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ギリシャのマリア・サカリ(25歳)です。筋肉すご過ぎです。同年代のいいコーチに出会ったとかで、そのコーチが相手選手の分析と作戦立案能力に長けているそうで、今回の活躍です。そんなこんなで優勝候補は、多分バーティーかシュヴィオンテックあたりが妥当な線だと思われていたのではないでしょうか?ところが結果は・・・

いつも気になる、選手の国籍

年々、上位に来る選手の国籍が多様化しているなぁと感じているのですが、今回の女子ベスト8の国籍を並べると・・・スペイン、スロヴェニア、ロシア、カザフスタン、ポーランド、ギリシャ、チェコ、アメリカの8か国です。ちなみに男子は7カ国。男女合わせた16人のうち多かったのが、スペイン3人、ギリシャ2人、ロシア2人、あとはどこも1人でした。スペインとロシアの層が厚いのは周知ですが、ギリシャというのが今大会のトレンドかも知れません。ギリシャの人口ってどれくらいですか?2015年くらいに国の経済が破綻したんじゃなかったですか?ベスト8に男女一人ずつですぞ。

ノーシードのこの選手の物語にびっくりした

さて先ほどのギリシャのサカリを準決勝で破り、決勝でロシアのアナスタシア・パヴリチェンコーヴァ(29歳)を下して優勝したのはなんとノーシードチェコバルボラ・クレイチコヴァ(25歳)。二人共一回聞いただけでは覚えられない名前です。

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白状すると、準決勝が終わるまでノーシードで大会当時ランキング33位のこの人のことは名前も知りませんでした。しかしサカリのマッチポイントをしのいで激戦を制したコート上でのクレイチコヴァのインタビューを、内田暁氏(スポーツライター)がツイートで紹介したことで一気に印象付けられました。「ここまで来れたのはあの人のおかげ。きっと見てくれている。大きな声で感謝を伝えたい。」

敗者が最も愛されたあの日

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1993年、ウィンブルドンの表彰式の一コマです。初優勝にもう指がかかっているところからの逆転負け。勝者はシュテフィ・グラフ(ドイツ)。負けたヤナ・ノヴォトナ(チェコ)は表彰式でケント公夫人の肩で泣き崩れました。私は当時社会人一年生、テレビで「ノボちゃん!いけー!」と応援していました。つかみかけた勝利がノボちゃんの手からするりと落ちていくのを彼女の立場になって体験しました。今思い出しても泣いてしまう忘れられないシーンです。あの時誰もが次は彼女に勝たせたいと思ったはずです。その後はたして彼女はウィンブルドンで勝てたのでしょうか?それは本題ではないので置いておきます。

さて、クレイチコヴァは伸び悩んでいた18歳の時同じチェコの英雄であったヤナ・ノヴォトナの自宅に半ば押しかけるように訪問し教えを乞うたそうです。そこからノヴォトナはクレイチコヴァのコーチになりますが、3年後の2017年に癌で亡くなります。病床でノヴォトナは「テニスを楽しみなさい。そしてグランドスラム優勝に挑戦しなさい」という言葉を残したそうです。そしてクレイチコヴァはグランドスラムシングルスの決勝に初挑戦で勝利したのです。そしてなんとダブルスも優勝という快挙です。

今回あらためてノヴォトナの経歴を調べてみると、どうでもいい事ですが、私と同い年でした。こんな風に楽しめた全仏の女子、来週6月28日から始まるウィンブルドンはどうなるのでしょう。ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


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