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【戦術白書】レガネスの3陣形。対バルセロナ包囲網の攻略法。

コロナ明け、実感としてやはりペースが早い。つい先日のマジョルカ戦の余韻をまだ引きずっている。

残留がかかるという意味で、マジョルカ戦と同じような強度を想像していたら、徹底された守備陣形を目の当たりにすることになった。

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この試合でスタメン上のかみ合わせを確認する意味はほとんどない。組織的守備でゾーン気味に守るレガネスを、バルセロナの工夫と発想でどう打破していくかにかかる。

①レガネスの守備陣形3パターン

ブライスワイトとエンネシリの2大エースを失ったレガネスは、現在いる選手の今季総得点がわずか12点しかなく、対強豪戦ともなると得点できる見込みがほとんどない。

そうなれば1失点が致命傷ということになる。守備だけは徹底しておきたかったのだろう。
アギーレは、局面を3つに分けた。

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パターン①は相手陣地でのチェイシングとプレス。メインはゲレーロの特攻とエラーソのコース切り。
この動きを攻撃力に転換しようというのが本筋ではなく、最優先は自陣へ放られてくるロングパスの精度と最終ライン経由でのサイドチェンジ成功数を確実に下げ、バルサのリズムを崩すこと。
精度が下がったロングパスが飛んだ先で4~5枚も守備がそろっていれば、イレギュラーバウンドを考慮してもボール保持へ移行できる可能性が高くなる。
前線で奪取できればもちろん御の字、狩れずともビルドアップがうまくいかなくなる。

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もし上記をかいくぐってきたら、パターン②へ移行する。
5バックは敷いておくとして、2列目に4人配置し、1人は特攻する動きでアンカーと上がり気味のSBにプレッシャーを与え続ける。開始10分間、ブスケツとアルトゥールは狩られ続けた。
バルセロナの中盤+メッシに支配権を持たれれば即詰みなので、当然のごとく中はゾーン気味でタイトにケアする。あとは残りのエリアを潰すのみ、という形だった。

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このパターンで、2列目の飛び出し方は絶妙に鬱陶しかった。
一人飛び出してくるタイミングもさることながら、躱そうとレーンを移してもすぐに次が飛び出してくる。しかもマーカーの受け渡しで2列目が崩れないため、遅いパス交換では意味をなさない。スペースを作るまいと、スライドとスイッチを機械的に繰り返しながら、選手間距離を一定に保ってくる。

厄介だったのは8番のレシオである。飛び出して陣形を整えるまでを彼が指をさしながら大声でコーチングし、2列目のみならず最終ラインとのバランスまでコントロールする。仮に2列目を越えてもその先で引っかかるよう仕向け続けられ、バルセロナは開始5分間でリズムを作れず、このあと前半を通して攻めあぐねた。

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パターン②は、レガネスにとっても攻撃に転じやすい。ゾーン2で奪える上、バルセロナの守備ラインが中途半端に上がっている。
レシオを起点に少ないパスで何とか前進できれば、10分40秒にあった決定機のようにエラーソが裏をかいて抜け出し、ゲレーロがトドメを刺す形まで持っていける。(ここを決められないのがレガネスたる所以なのだが・・・)

驚異的だったのはパターン③である。
アルバが居なかったこともあって本来の破壊力ではなかったが、バルセロナは左SB・WGのハーフレーン侵入とメッシのバイタル侵入が必殺パターンである。これを予期して、エイバルの守備はバイタルに差し掛かったところでさらに圧力を増す。

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サイコロの5の形に陣形をとるのが完成形、中央の選手が間に合わないとしても4人で囲ってスペースとパスコースを消しに行く。これを両サイドで徹底した。スペースがあまりに狭く、圧力が高いためバルセロナは不意に外から入る以外フォローに行けず、ボールホルダーは突破もできない。
前半早々、アルトゥールが解決案として中央の選手を背負い、アンス・ファティをワンツーで抜け出させる連携を披露したが、この5人の塊ごとアンスを追いかけてきた上に、最終ラインも連動しながらスライドしてパターン③へ移行された。状況はほぼ変わらなかった。

この3パターンを徹底されたおかげで、前半を半分消化してもバルセロナはシュート0本。攻め手が足りないというよりも徹底した守備で選択肢を限定されていたせいだろう。
セットプレーでの得点と、マジョルカ戦で見せたようなハーフレーンからのクロスボールでの解決が頭をよぎったが、パターン①②でリズムを崩された状態、かつ対人守備でコースを切られ、中長距離パスの精度が上がらない。

ほぼ術中だったと言っていい。

②アンス・ファティの伏線と狙った穴

組織的に攻めあぐねている中、前半を通して3つの攻め方を個人的に試していた選手がいた。アンス・ファティである。

立ち上がりから前半を折り返すあたりまで、アンスファティは隙あらばドリブルを仕掛けようと継続してステップを踏んでいた。対人守備に来たマーカーのリズムをステップと強引な突破で確認しながら、自分のリズムを調整しているように見えた。
それだけをやっているとチームの歩調を乱しかねないが、彼は周りとの連携を図ることを念頭に置いていた。先述したアルトゥールとの連携が最たる例だが、崩すための動きで突破の可能性を探る。
それでもやはり突破できない。

25分あたりだろうか、動きながら気づいたのか指示があったのか定かではないが、アンスは大外からハーフレーンへ1つ内側へ移動して前線で待つようになった。この移動により、フィルポがより深部へ侵入できるようになり、レガネス両サイドバックをピン留めする役割からアンスが解放された。

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攻撃参加の人数が増えたことで、アンスはハーフレーンで動けるようになった。ただ、守備の間でボールを受けるも前を向くのはやはり難しい。
一方この動きをし始めたあたりから、xGが上向きになり始める。

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41分、アンス最後の修正が入る。ブスケツからメッシへボールが入った瞬間、パスコースになり得る縦の位置にいたアンスはさらに中央へ移動した。

自分がメッシから受けるのではなく、アルバの代わりに必殺の型を作れるフィルポにパスを通すためパスコースを確保した。メッシは一度大外にいたフィルポへパスを出してリターンさせ、フィルポを走らせた。
マジョルカ戦のデジャヴである。

フィルポは折り返し損ねたが、エリアに侵入してしまえば数的同数である。意地でもアンスに渡した。
レガネスDFのリズムをステップとデュエルで確認していたアンスは、体を開いた状態でワントラップし、ゴールへ体勢を向けた瞬間に足を振りぬいた。FWにおける基本中の基本の動きを完全に洗練した体捌き。
虚を突いたタイミングで地を這ったシュートは全守備陣の裏をかいてゴール右下へ吸い込まれていった。

さらに45分、左サイドで持ったアンスが2タッチで守備網を突破する。守備の戦型はパターン②だったが、一気に縦へ行かれたことでレガネスの対応は後手に回った。

前半終了直前、このアンスの縦突破1回で2つの攻略法が見つかった。

一つは個人突破で打開する方法、
もう一つは守備戦型移行中の隙を狙う方法。

個人突破は言わずもがな、先述した縦の動きを不意に行う、あるいは後半のメッシのように強引にエリアへ入っていき、潰す動きが敬遠される場所で暴れる。
移行中の隙を狙うのは、個人突破と混ぜてもいいが、目的は縦への侵入である。なので、必然的にパターン②以前の段階で実施しなければならない。パターン③で包囲されれば打つ手が限られてしまう上に縦もクソもない。
アンスの個人突破の場合はこの二つが同時に起こった。

つまり試合の流れ上、縦突破を以て②→③へ急に移行させ、戦型が整う前にフィニッシュまで行くことが活路になる。

後半、フィニッシャーのグリーズマンがオフサイドになって取り消されたが、メッシのスルーパスから始まるセメドの縦突破はパターン②が敷かれる位置で起こった。あとは得点屋が機能してさえくれれば、中に放り込んだ時点で得点見込みがある。

結果、絶対に倒れない仕様のメッシが強引に縦へ突破し、PKを誘発してトドメを刺した。

③アクシデントと危機感

後半15分、ピケのすねにスパイクの裏が入った。
負傷してすぐ戻ったが、結局リキ・プッチ投入のタイミングと同時にウムティティと交代した。
セティエンは会見で「怪我のリスクを回避したい」と言っていた以上、そこは不安視していなかったが、懸念はもう一つあった。

ウムティティ‐ラングレのコンビの連携は実際のところどうなのか。

マジョルカ戦ではピケ-アラウホのコンビで攻撃に対応した。アラウホを使う以上は、当然ピケがサポートに入ったという意味合いが強い気がしている。ラインコントロールのコーチングなどもあっただろう。ただ、それを考えてもアラウホは及第点以上の動きだったのではないかと個人的には思っている。

では今回の二人はどうか。

クリーングブレイク明けから5分間は問題がなかった。このままいけばリキ・プッチ久々の登用にワクワクしながら残り時間を楽しめると思っていた矢先、81分、恐るべき対応をウムティティは繰り出す。
ゴールキックから再開し、飛んできたボールをクリア、相手の中盤にわたってしまう。百歩譲ってここまではよかった。

しかし彼は競り勝ったマーカーがどこにいるのか、またラングレはどこに立っているのかを全く確認しないままボールウォッチャーになった。

そのまま団子状態になって一度最終ラインからボールが弾かれた。依然相手ボールではあるものの一瞬ラインを確認する時間ができた。ここでプレスを中盤に任せ、彼はオフサイドラインを管理すべきだったが、絶対殺すマンと化したウムティティはなぜか飛び込み、カリージョに裏をかかれてシュートまで持っていかれる。

さらに82分、左サイド、明らかに間に合わないタイミングでパスの受け手にスライディングで突っ込み、足に一撃を食らわせてイエローカード。これでセビージャ戦は出られない。
過密日程下、自分と交代したピケの怪我がいかほどかわからず、(こんなやつでも)いなくなればCBの層は薄くなる。チームの状況を分かっていれば、慎重になってもいい場面で謎の交戦を繰り広げないでほしい。

83分、今度は空中で競ったラングレが肘を入れてイエロー。今季、既に2回退場しており、守備がよかったこともあってここは気をつけたかった。

85分、ビルドアップ時、ウムティティの位置取るレーンがフィルポとモロ被りになりながら前進。このときラングレは定位置のため、選手間距離が一瞬異常に広がる。
「ビルドアップって知ってる?」と小一時間問い詰めたい。
案の定30秒後に思いっきり裏をとられ、ゾーン2まで出てきたテア・シュテーゲンが処理。

すんません師匠、そこはウムティティの担当です。

86分、ウムティティ、前進しながらリキ・プッチへショートパス。
クライフは言った。「ボールを走らせろ」と。
なぜ体ごと向かっていくんだ。結局出した後半身になりながら戻ったからフィルポのバックパスを裏取って受けたみたいになっとるやんけ。前向いて受けなさい。

88分、ウムティティ、テアシュテーゲンへバックパス。ラングレはペナルティエリア真横でパスを受けられるよう移動して展開を狙う。
ウムティティはテアシュテーゲンにプレスをかける選手の背後で待つ。
そこは通らんぞウムティティ。小学生でも知っておる。
GKに股を抜けと申すのか、選手ごとぶっ飛ばせと仰せか。

後半終了間際、ウムティティ、左サイドで1on1。相手のFWが後方でフォローしてくれていた味方とスイッチし、エリア内へフリーラン。
ウムティティ、マークの受け渡しをせず、結果中へ入れられたボールをグリーズマンが、グリーズマンが処理。

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まだまだ試合は続く。何とか乗り越えて欲しい。

…ピケ、元気そうやな?


データ引用元:understat.com

使用ツール:TacticaLista

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