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掃き溜めの猫

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詩集Ⅱ
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夏の消失

窓を開けるとこぼれ落ちる
夏の破片を詩集にはさみ
あの人の鞄に忍ばせた

聴こえてくるのは幻か
記憶のなかに取り残された
白い音楽は鳴り止まない

波間に浮かんでは揺れる
冷たい光に手を伸ばし
砂に埋もれた夢の残滓を
秘密の小瓶に詰め込んで

生ぬるい夜に絡め捕られ
身動きがとれないまま
蛍はもう死んだのか

レモネードの底に沈む
私の夏は消えた

家出娘

気まぐれな雨に濡れた
ブランコに腰かけて
スカートの襞を濡らす
彼女の知る孤独

覚えたての煙草と
不似合いな前髪の
拒んだ愛情が
潜んだこの街で

赤い鉄棒
青い滑り台
すべては他人事

痩せた手の中に
つよがり隠して
涙をこらえても
迎えはまだ来ない

掃き溜めの猫

少女は馬車に乗って
夜の虹を探している

目蓋を持ち上げれば
それは消えてしまう

誰もいない冬
僻地に降る雨が
微睡みながら
彼女を夢見ている

廃屋の暗がりには
蜘蛛の巣がめぐり
湿った木の葉を
時が腐らせる

雨はかなしい
遠い日に恋した少女は
もういないのだから

掃き溜めに迷い込んだ
行く宛てのない仔猫が
そっと雨を舐める