幽霊


子どもの頃は、クリスマスプレゼントにもらった日記帳を使い始めるのが新年の楽しみだった。年が変われば何かがリセットされ、目の前に真っ白な頁が現れるような気がしていた。でもそんな瑞々しい感性は向こう側に置いて来てしまったようで、特に感慨もなく日付をとび越え2016年の世界にやってきてしまった。

毎晩深酒をしている。何かを忘れようとするかのように。立てなくなるまで酒を浴びても記憶だけが残り続ける体質のせいで、結局苦い感情がこびりつくだけだったりする。
過去を切り離し遠ざけることはどうしたってできないのに、何もせずとも確実に緩やかに遠ざかっていくのもまた過去だ。実家で過ごしていると、死んでしまった過去の私の幻影がいたるところに霞んで見える。悲しみはもうここにはなくとも、悲しみの影を見つけては悲しくなってしまう。
大人になってしまったということ、期限を知らされぬままに人生が延々と続いていくことについて思う時、遣る瀬無く、何かに抗いたい気持ちになる。

三が日に一年で最も丁寧に日記を書き記していた幼い私を思い出す。その年の抱負についてうきうきと考えたりしたものだ。
今の私には、抱負は書けない。歩いては立ち止まり、歩いては立ち止まることを繰り返す日々だから。手にした地図が間違っているのではと訝しんで、足が進まなくなる。そうしているうちに、迷子になってしまった。

時が通り過ぎていくのをただ眺めている。幽霊になりたい、とよく思う。人生という箱の外に出て、なお眼を見開いていられる幽霊に。
だけど、夢は続いてゆく。歩き疲れたとしても、時は待ってくれない。