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マーケティングレンズ vol.6 - お客様に寄り添うブランドになる取り組みを学ぼう

こんにちは!マーケティングレンズ運営の太田です。

有志が集まってマーケティングを多面的に学ぶマーケティングレンズ。
今まで顧客のインサイトを見つけ、企画に落とし、実行の計画を立てて、チームを巻き込んで実行へ移していくという流れで勉強会を実施してきました。
今回取り扱うテーマは、カスタマーサクセス。三宅正さんをお招きして実施した第6回目のイベント「お客様に寄り添うブランドになる取り組みを学ぼう」をレポートします。

過去のイベントレポートは、以下からご覧ください。

vol.1: Marketing Lens キックオフ
vol.2: 商品やプロモーションを考えるきっかけを捉えよう
vol.3: 「ファンがつく企画」ができるまでを学ぼう
vol.4: アイデアを実行する段取り方を学ぼう
vol.5: 他者とのうまいコラボレーションを学ぼう

三宅さんのプロフィールはこちらです。

三宅 正さん プロフィール
三宅マーケティング事務所代表。専門分野はマーケティング/マネジメント/デザイン思考。昨年春にシリコンバレーにてデザイン思考の研鑽と実践を行い、夏には現地法人向けイノベーション支援業務にて再渡米。現在は日本にて企業や個人に向けた新規事業企画、組織作りコンサル、各種WSやセミナー登壇、パーソナルコーチング等を行なっている。他方でストリートダンサー/インストラクターとしての活動も行なっており、ダンサーネームの「FOOMIN’」はビジネス分野でも定着している。詳細プロフィールはこちら

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カスタマーサクセスとは?

カスタマーサクセス(Customer Success, CS)は、もともとアメリカのソフトウェア会社Salesforceが実践し広めた、「お客様の成功を第一に考え、顧客体験全体を設計していく」という考え方です。

Salesforceは、ソフトウェアがハードウェアにインストールされている状態が当たり前だった時代に、「クラウド型」ツールを月額課金制の「サブスクリプション」形態で提供をしたことで注目を集めました。(SaaSの文脈でもよく取り上げられますね。)

そのSalesforceが「上場のわずか一年後」というタイミングで、なんと月間解約率が8%もあることが発覚。このままの解約率だと1年以内に現在の顧客が全員いなくなってしまうという危機感から、既存顧客の成功を第一に考えることで流出を食い止める(解約率を下げる)という方針でカスタマーサクセスという概念を導入したのが始まりと言われています。
クラウド型、サブスクリプション型のビジネスが主流になっていくとともに、「カスタマーサクセス」という考え方は一気に普及し、今では顧客体験を考える上での一般概念としてかなり定着してきました。

詳しいことは『Customer Success』という網羅的な本(「青本」と呼ばれています)があるので、そちらもおすすめです。
※ちなみに『Customer Success』の日本語版は、こちらのイベントスペースを運営されている英治出版さんから刊行されています。

もともと顧客への対応を表す言葉としては、「カスタマーサービス」という言葉が広く使われていました。なにか不具合があった時にコールセンターで顧客対応を受け付ける、あのイメージですね。ただ、カスタマーサービスは、なにか不満を感じたお客様しかそもそもアクセスしてこないですし、発生してしまった不満に対する対症療法的なアプローチになってしまう。

カスタマーサービスが「守りの顧客対応」だとすると、カスタマーサクセスは「攻めの顧客対応」。あらかじめ顧客の成功を定義して顧客体験を設計することで、自社サービスに対してそもそも不満を感じさせずに、心理的ロイヤルティさえ創り出すことも可能です。

自社サービスの機能的なベネフィットだけで気に入っている顧客は、他にそのニーズが満たせるサービスがでてくると簡単に浮気してしまう。でもカスタマーサクセスの考え方に則って、感情的に好きになってもらえるよう顧客体験を設計することで、サービスにに惚れ込んでいただくことができる。いわば、ファンマーケティングの一種とも言えるかもしれません。

社内で「カスタマーサービス」と呼ばれる部署は、従来、人件費を発生させてしまうコストセンターとして捉えられてきました。しかし、カスタマーサクセスの考え方を取り入れることで、LTV*の最大化を目的とする組織として、「プロフィットセンター(人件費だけ発生するコストセンターの逆概念として、積極的に利益を生み出す部署)」へと進化を遂げることができます。
このように、顧客の成功を第一に考え、顧客体験へと反映し、自社の利益へと貢献する考え方や価値観をカスタマーサクセスと呼ぶのです。

*LTVとは?
Life Time Value(ライフ タイム バリュー)の略で、「顧客生涯価値」と訳される。顧客が、自社サービスを契約してから離脱するまでの期間内にどれだけの利益をもたらしたかを数値化したもの。

カスタマーサクセスを組織として実現するためには?

では、自社の利益に貢献する「カスタマーサクセス」の考え方を顧客体験へ反映し、組織的に実現していくためには、何をすれば良いのでしょうか?

ヒントとなりそうなのが、当初は不可能だと言われていた靴のECを実現した「ザッポス」や百貨店の「ノードストローム」の事例です。

ザッポス:
アメリカで設立された靴のECサービス。カスタマーサクセスを意識した圧倒的なサービスで一躍有名となり、後にアマゾンが買収した。顧客が探していた靴が自社になかった場合に他社のサイトを複数探してお伝えする、生前ザッポスの靴を頼み逝去したお客様の娘さんに無料返品の箱とお悔やみの花をお届けするといった事例や、深夜にピザを食べたくなった顧客がザッポスへ連絡をしてピザを注文してあげたといった逸話も。
ノードストローム:
アメリカの大手百貨店。現場がお客様の成功を最重視した事例として、お客様が求めているものが売り場になかった場合、接客した人間がわざわざ隣の競合デパートでその商品を買ってくる、といったエピソードがある。

こういった顧客体験を生み出すためには、カスタマーサクセスの考え方を企業方針として示した上で、顧客と直接接する現場へお客様対応の全権を委ねるという姿勢も大切です。また、現場の一人ひとりの行動を引き出すためには、カスタマーサクセスの概念が社内全体に浸透していることがそもそも大前提となります。

またこのような至上の顧客体験が積み重なっていくことによって、顧客の意識が「ただお金を払う」ことから「応援するためにお金を渡す」ことへと変容していくこともあります。「ただユーザーとしてお金を払い、サービスが履行されなかったら不満が発生する」から、「サービス自体に惚れ込み、そのサービスが継続・改善されることを応援するためにお金を払い続ける」ことへと意識変容を促すことが、カスタマーサクセスの真の成功かもしれません。

カスタマーサクセスをうまく事業に生かすには?

では、三宅さんはカスタマーサクセスの考え方をどのようにして事業に組み込んできたのでしょうか?ここでは3つの事例を伺いました。

事例1 顧客インサイトをサービス改善へつなげていく
海外個別手配旅行の予約サイトの事例。
・当時の一般理解として「パッケージツアーではなく自分で海外航空券と宿を探す人は、値段を徹底的に比較して安いところを利用するため、特定のサービスには定着しない」と思われていた。
・しかし、海外旅行口コミサイトやQ&Aサイト上にある情報をくまなく調べたり、旅行系アルファブロガーの座談会を開くなどしていくうちに、個別手配旅行派である顧客のインサイトは「旅慣れているが、それでもまだ知らない経験をしたい」ことや、他方で「自分の豊富な経験を人に役立てたい」と思う人が多いと分かってきた。
・そこで、サービスそのものへの改善要望を顧客にアンケート調査し、寄せられた要望や顧客の声をWebサイトにそのまま掲載改善の進捗も公開した。また、顧客から寄せられた旅の情報をWebサイトに反映したり、メルマガを「お得な商品紹介」ではなく「旅行会社ならではのノウハウ」の読み物形式にしたことで、Webコンテンツ自体へのファン化も進めた。
・このような「顧客と一緒にサービスやコンテンツが成長している」姿勢や、海外旅行に行かない時でも定期的にサイトを訪れたくなるきっかけ作りなどを通じ、結果的にカスタマーのサクセスを実現した。
事例2 データを活用し、カスタマーが本当に求めている情報を提供する
クーポンサイトの事例。
・こちらもかなり価格重視の顧客が多く定着しない傾向が強かった。
・そこでCRMの原点にたちもどり、顧客の購買データを徹底的に分析。RFM(recency, frequency, monetary)にもとづいてセグメンテーションを作り込んだ。
・セグメントに応じて、例えば広告のリターゲティングをハックして顧客ごとのニーズに合わせた広告配信の仕組みを手動で設計したり(マーケティングオートメーションツールでも可能だが、あえて人の手を介すことでより精緻な「1 to 1マーケティング」に近づけた)、顧客の退会を防ぐために最適なタイミングでリワードを提供する等のデータマーケティングによって、顧客の「いま◯◯が欲しい」に先回りの提案をした。
・また「単に安いだけではない」クーポンとして、高級エステや有名レストランのクーポンを提供。結婚式の準備や記念日、親の定年といった家族の節目の行事にクーポンを利用するという新たな用途を提案しPR施策も展開することで、顧客の感情にうったえかけた。
・こうして顧客ひとりひとりの生活や人生のサクセスに寄りそうことで心理ロイヤルティを醸成。安さだけを求める顧客が集まりがちなクーポンサービスにおいて、独自のカスタマーサクセス戦略を実現した。
事例3 カスタマーの声から、チーム全体が自社の理念を再認識する通信インフラサービスの事例。
・プロバイダーは、繋がらなかった際に初めてサービスへの認知が顕在化するという特徴があり(繋がらないという不満がある際に、どの会社だっけと思い出す)当時は携帯電話会社の通信セクターへの参入などが理由で解約が相次いでいた。「では、どうしていくべきか」と自社で検討しているなかで過去の顧客情報を紐解いてみると、利用歴の長い顧客ほど「先進性のあるサービスである」と認識していることが分かった(実際に社内ヒアリングを進めると創業期には常に新しい機能を提供していたという事も判明した)
・また自社のビジョンに関する膨大な資料の中に「お客様と伴走する」との記載を確認するなど、顧客の声がきっかけでサービスの強みを再認識することとなった。
・こうして再認識された自社の本来の強みやブランド理念に基づいて新規事業の検討メンバーが集められ、強固なチームビルディングが達成された。また新規事業の検討を通じて、あらためて顧客が本当に求めているサクセスを再び実現しようという社内の機運も高まった。

カスタマーサクセス時代に意識すべきこととは?

最後に、カスタマーサクセスの考え方が一般的となった今、マーケターが意識すべきことを伺いました。

1. カスタマーのインサイトにもとづいたサクセスを設定する。
従来の「戦略思考的」なアプローチだけでなく、ユーザーインタビューやそこで得た共感を重要視し、企業やカスタマー自身も自覚してない「真のサクセス=インサイト」を発掘する。顧客を深く洞察することからアイデアを発案しプロトタイピングで検証する手法を使っていく、デザイン思考的なアプローチも非常に有用。

2. テックタッチにおいて緻密な設計を行い、サクセスを分類する。
テックタッチとは、カスタマーサクセスにおいて全ての顧客に手厚いサポートができないなか、メルマガやチュートリアルなどのテクノロジーを使って一度に広範囲の顧客に対してサクセスの実現を支援する考え方。顧客データの分析を通じて、「ハイタッチ(個別対応を行う一部の優先顧客)」における1 to 1のカスタマーサクセスに極力近づけていく。

3. チームやステークホルダーのサクセスも同時に達成する。
顧客の声に耳を傾けることによって、顧客からチームが学ぶことも大きい。顧客・自社(組織や個々の社員)・商品それぞれにサクセスがあり、その三方よしを実現できるかを意識することも肝要。

「クラウド型」「サブスクリプション型」のビジネスは、売ったらそれで終わりの「売り切り型」ビジネスと比較して、顧客側に主導権があり、購入した後の顧客体験が非常に重視されます。

顧客とその成功を定義し、顧客の声に耳を傾けて、サービス体験の全体を向上させていく。カスタマーサクセスは、単なる流行り言葉や手法ではなく、企業にとって、またマーケターにとって、非常に本質的な考え方と言えるでしょう。

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インプットをいかして、今後に繋げる

マーケティングレンズは、インプット編に加えて実戦形式のアウトプット編もご用意しています。今回は、三宅さんから学んだカスタマーサクセスの考えかたを用いて、自社の商品のサービス化や、カスタマーが真に求めている成功の定義を行いました。

「カスタマーサクセス」を自社に取り込むためには?
1. 自社の商品はなにか?
2. 自社の商品をサービス化すると、どのような形になるか?
3. 顧客が真に求めているものはなにか?

毎度ながら、この勉強会に訪れるかたの業界や職種は様々。それでも、ワークショップで実践し、発表しあうことで「人に話すことで、アイディアがもらえてよかった!」「ユーザー視点は意外と忘れがち。思い出せてよかった!」といったようなお声をいただきました。

カスタマーサクセスは、まず小さく試して徐々にサービスへ反映できることが利点です。お客さんがわざわざ伝えてくれた不満に対処していくのではなく、先回りして成功までの体験設計をあらかじめ行うことを意識して、今後の仕事にいかせればと改めて思いました。

三宅さん、ありがとうございました!

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次回のマーケティングレンズ実施に関しては、facebookページでご案内しますので、ぜひ「フォロー」いただけると嬉しいです。

今後もマーケティングレンズを、よろしくお願いいたします。

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