【夏の香りに思いを馳せて】仕舞い込んだほのかな香りと。【エッセイ】
その時私は大学4年で。
Webデザインに興味があって、
2時間かけて隣県のとあるスクールに通っていた。
夜間コースにはさまざまな人がいる。
学生もいるし、社会人もいて、年齢もさまざま。
だけど、それぞれにやりたいことがあることだけは共通していて。
やる気のなさそうな同級生たちよりも、
ずっとずっと輝いて見えた。
当時の私はコミュ障だったと思う。
大学には友達がいない。
だけどここは妙に居心地が良くて、
言葉少なくうまく話せない私も、
ちゃんと迎え入れてくれる。
その中で、同じく大学生の男の子。
人懐っこくて、誰とでも気さくに話せて、
顔に気持ちがすぐ出ちゃうからわかりやすくて。
だから話すのが苦手な私も、自分から話しかけることができた。
それを恋と呼ぶには、
ほのかすぎるかもしれない。
いつも先に席について、
パソコンで作品を作っていたり。
時折講師の先生と熱い話で盛り上がっていたり。
みんなで話す時は表情豊かで、笑いを取ったり。
なんだか目が離せなかった。
唯一のアナログなデザイン講座でロゴを作る時、
私はいつも前の席にいる彼の背中を見ていた。
スケッチブックに真剣に向き合うその背中。
鉛筆を握る、ごつごつとした大きな手。
真剣な後ろ姿に、私の何かが動き出す。
ロゴが苦手で放り出したくなる私に、
やっぱりもう少し考えて頑張ろうって、
背中を押してくれた。
そうだ、私はやりたいことがあるからここにいる。
適当に仕上げてその場を凌いでる場合じゃないんだ、って。
逃げる理由を数えるのは簡単だけど、
そういうものをたくさんもらった。
帰りの電車、途中まで一緒の私たちは、
終電でまばらな車内で隣に座り、
ぽつりぽつりと話をする。
とりとめのない会話はあまり続かない。
歯がゆいけど、居心地がよい。
暑さの和らいだ夜の電車は眠気を誘う。
真っ暗な車窓にぽつぽつ街灯が現れて、
平行線をたどっては消えていった。
彼には、気になる女の子がいた。
彼の視線や話し方でそれとわかってしまう。
最後の飲み会、サワーを5杯飲んで。
特に酔わなくて、強いね、って言われて、
何も言わずにみんなと別れた。
終電はひとり。
ギリギリだったので走り、酔いが回る。
気持ち悪い、吐く、、、
うずくまったものの、なんとか持ち堪えて、
座れる席を探した。
私はほのかな気持ちを吐くことのないまま、
もうここに来ることはないかもしれない。
さようなら、というにはまだ蕾でさえなかった。
クーラーの風が私の額を撫でていき、
窓の外を賑やかなネオンが通り過ぎていく。
見えないけど、つかみたいもの。
たとえ違う道になったとしても、
そこには確かにそれぞれに積み上げてきたものがあった。
あの時置いてきてたことを、今書きながら思い出す。
私は記憶の中で、丁寧にほこりを払って拾い上げ、
書き記すことで、私というものを見つけ出していく。
見つけ出したものをギュッと抱きしめて、
丁寧にまた仕舞いこんで。
そうして今日は幸せな眠りにつこう。
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