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姫野カオルコさんの『彼女は頭が悪いから』本当に頭悪いのは誰なのか?

ずっと読みたいと思いながら購入していなかったこの本を買い、読了いたしました。

ここに貼り付けるために、amazonサイトを開いたら、kindle Unlimitedに入っていて若干のめまいが…
気を取り直してこの本について、です。

実際にあった事件がモチーフ

実際に起きた事件をモチーフにしています。東大生5人による女子大生へのわいせつ事件。
裁判で一人の東大生が言った言葉「彼女は頭が悪いから」が、タイトルとなっています。

丁寧に書かれた背景に現実味が

事件の背景を姫野さんは丁寧に書いています。被害者・加害者ともに中学時代からさかのぼって、家庭環境や友達との関係、考え方の形成。
さらに、東大に入ってからも東大生同士のマウントの取り合いのような会話も細かく分析しながら、書いておられます。面白いです。
まずは加害者については、東大に入ったことで「東大ブランドに女子が群がる」と勘違い(そういう面があることは否めないにしても)、自分自身のクオリティが上がることではなく、東大という蓑を着ることで価値が上がっていることを最大限に利用しています。価値観もそこが中心です。

被害者に対しては、決して同情的だけではない

被害者については、東大に近い立地だが偏差値は低いという女子大生という設定です。ただし、価値観として東大がすごいとかは、東大生の期待ほど思っておらず、それはまた純粋に無知が故という面もありまして、そのあたりが読み方によっては愚鈍とさえも映ります。また、恋愛などでも苦労していて、自分を安く見積もっている面が出てしまうということが、もう少しなんとかならないのかと、読んでいて思います。

東大生ということだけでつながるアイデンティティー

加害者たちは、それぞれのバックグラウンドが異なり、そのなかでも微妙なピラミッド構造がありながら、外に向かっては東大という一枚岩の影に隠れて結託するという体質があります。

ネットによる中傷

さらに、勝ち組へ至る道のりのなかで、他者への想像力を育てることをしなかった人たちでもあります。裁判になってからの保護者達の愚かさが、その背景を厚くしています。誰一人として「自分の子どもを張りたおす」ほどの怒りを持つことはせず、「たいしたことないのに」「その女の子が悪い」という論調です。
そこにネットも追い風となります。自作自演もしたり、です。
ですから、被害者の大学の教授が、加害者の母に言い放つ言葉、そこのみが読んでいて溜飲が下がる部分です。

正直、ネットの反応は予想されます。誰もが持つ嗜虐性がそこに現れるのです。鉄槌はなぜか被害者に向きがちなのです。

これらのことが、現実のごとく目の前で繰り広げられ、気持ちの良いものではありません。

上野千鶴子先生の祝辞でも

さてここに、2019年の東大入学式での上野千鶴子先生の祝辞を貼ります。
平成31年度東京大学学部入学式 祝辞 | 東京大学 (u-tokyo.ac.jp)
これを読むと、東大の女子、いえ女子が世の中に出ていく壁がまだまだ厚いことがわかります。

私が高校受験の時も、行きたいと思った高校は、女子は男子より15点高くないと入れませんでした。勝負に出ることもせず諦めましたが。
公然の事実だったのです。それでも行く女子はいました。優秀です。

まとめ:本当に頭が悪いのは誰?

話がそれました。この本に描かれている、「頭が悪い」のは「東大生」でした。事件の時に、被害者が泣きます。それすらも「なぜ泣いたのか理解できない」のです。想像力がないのは、どの大学に通うとか関係なく、あほです。頭が悪いです。頭が良いというのは、先見性と想像力の賜物です。
もちろん異論があることは認めます。

この本は、さまざまな部分を切り口にして、いろいろと考えることができる小説でした。


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