2023年度立命PENクラブ『新人賞』講評

 皆さんこんにちは!
 立命館の文芸サークル、立命PENクラブです。

 今年度も、冬季期間(~1/27)においてサークル内で新人賞を企画し、提出された作品の中から、受賞作を選ばさせていただきました。
 当記事では、新人賞選考における講評を掲載いたします。

(新人賞・・・前年度の新人賞後にサークルに入られた方を資格者とし、三つのお題を元に一万字以内で書かれた短編小説を選考対象とし、受賞作を決める企画です。)

 受賞作・候補作共に、四月に配布する『Libro.79』に掲載しておりますので、興味を持った方はぜひご連絡ください!

お題

日光、亡霊、期限

応募作品(順不同)

今井みそ『太陽は出ているか』
嘘呑真下『地球熱砂化』
海九里静月『太陽の下、陰の中』
佐倉秋『8時間の支配者』(受賞
村田輝圓『湖畔』

各作品講評

今井みそ『太陽は出ているか』

主人公の友人であり、難病を患っていた少年が亡くなった。その後しばらくして、友人の母親から、彼が闘病生活最後の一か月に書き記した日記を見せられる。読後、主人公が辿り着いた結論とは……。

・他作品と比べて文字数の少なさが目立ったが、それ故に短い中でギミックを成り立たせたことは評価できる。
・文章は読みやすく、平易だが情緒もある。
・タイトルから結末までの雰囲気、読後感が良い。
・伏線が弱く、作者の本領を発揮できていない感がある。
・全体的に急いで完成させた様態で、作り込みの浅さが気がかり。
・短い。

嘘呑真下『地球熱砂化』

舞台は、太陽から隔離され宗教団体に牛耳られた地下世界。主人公の炭鉱夫の少年・ラモは、トンネルを掘り進める最中、なにかに突き動かされる感覚に襲われ、ある場所へたどり着き……。

・題材を逆転させた発想力、冒険譚としてのクオリティが評価できる。
・非現実的な舞台を映えさせる良い表現が多々あった。
・エンタメ性の中に、力強いメッセージ性を内包できている。
・無駄が多く、作品内で物語が完結しきれなかった感覚がある。
・会話、展開に作為性があり、不自然さが昇華できずに残っている。
・グレンラガンのよう。

海九里静月『太陽の下、陰の中』

主人公・真樹(まき)は、心霊やオカルトを中心に扱う茜未(あかみね)探偵事務所の探偵助手。真夏日、彼らの元に「黒猫に呪われている」と主張する依頼人の男性がやって来て……。

・題材の調理が上手く、キャラも立っていた。
・三題を反映したモチーフが個性的で、面白さがある。
・物語の流れは丁寧で、その中で文章表現に対するこだわりも追及しており、評価できる。
・現実的な価値観と乖離した土台と、それに基づく結論が、作品中で掘り下げきれなかったように見えた。
・先行作品の力に頼った部分が多いように思われる。
・西尾維新のよう。

佐倉秋『8時間の支配者』

主人公・宮本は警察署刑事部捜査三課に所属する刑事。署内では、連続殺人犯「ヴァンパイア」が拘留されていたが、依然犯行理由などを沈黙し続けていた。宮本は取り調べに参加することになり……。

・口語体の文章が、ライトさを感じさせつつ読ませる力があった。
・刑事ものとしての土台が真摯に作られており、引っ掛かる箇所が少ない。
・印象的なキーワードや、右肩上がりに面白くなる構成などから、エンタメ性を高く評価できる。
・ミステリ要素には詰めの甘さを多々感じた。
・キャラクターの心情描写にやや無駄があるように思われた。
・受賞作。

村田輝圓『湖畔』

主人公はあるニュースを耳にして、十数年前の摩訶不思議な出来事を思い出す。盆休み、友人に誘われて当時噂になっていた怪談の発生現場に向かった主人公は、真夜中に山の湖に辿り着き……。

・古風で完成度の高い文章が評価できる。
・内容全体にまとまりの良さ、安定感がある。
・主要人物に固有の名を与えず、描写も簡潔だが、その中で上手く描き切れている印象がある。
・綺麗な作りだが、そのせいか後半は盛り上がり不足を感じた。
・心情描写などの薄さもあり、結末の凡庸さが目立った。
・明治。


総作品講評

 今年度は、全体的に文章力が高く、どの作者も魅力的なキャラクターを作れていましたが、一方、影響を受けた作家・作品の影が色濃く見えてしまう作品が多かったように思われました。
 その中で、プレーンな作りで、かつエンタメとして構成能力に目を見張るものがあった『8時間の支配者』が、これからの活躍に期待できる作品として新人賞受賞となりました。

 応募して頂いた部員の皆さんには、ここで感謝いたします。
 ありがとうございました。

 また、次年度の部員の皆さんと、その作品に期待しております!
 当サークルに興味を持った方は、下記リンクよりDMでご連絡ください!

             (了)

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