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東独の抵抗の芸術



ライプツィヒを歩いてたら、こんなブロンズ像に出逢いました。いったい何を意味しているのでしょう?

 まっすぐ伸ばした右手はナチス式敬礼、右脚は前方に突き出した兵士の行進、左手は拳を握った社会主義のシンボル、左足は赤いラインの入ったソ連軍将校の軍服です。足も手も勇ましいのですが、なぜか頭は胴体の中に埋もれ、胴体の中心は切り裂かれています。

 作品のタイトルは『世紀の歩み』。これは戦争や独裁者や社会主義政府のイデオロギーに翻弄され、モラルや哲学や人間性を踏み躙って歩んできた、思考をやめた20世紀の人間の像です。

 これは旧東独の有名な画家、グラフィックアーティスト、彫刻家のヴォルフガング・マットホイヤー (1927〜2004年) の作品で、1984年に制作されました。

 マットホイヤーは東独で最も成功した芸術家でしたが、70年代になると次第に表現の自由を認めない東独政府のイデオロギーに辟易し、80年代になると政府への憤懣が作品に見られるようになります。驚いたことに、この作品は東独時代には展覧会に出展され、設置されていたのです。つまり、社会主義の拳は「ファシズムに打ち勝つ正義」として政府の芸術担当者は解釈し、東独政府を批判するものとは捉えなかったのです。しかし、芸術愛好家たちは言わずと知れた作者の思いに感動したといいます。

 こういった「暗黙の了解」は、東独の絵画、彫刻、歌、詩などに多く見られ、芸術家は政府への怒り、自由への希求を政府に睨まれない程度に表現し、市民はそこから共通の思いを見出そうとしました。実際にはやり過ぎて刑務所で何年も過ごすことになったアーティストもいましたが。

 ところでこのマットホイヤーの『世紀の歩み』ですが、1988年の西ドイツの展覧会「DDR(ドイツ民主共和国)の13人の画家展」でも展示され、話題を呼びました。あるジャーナリストは「東から西への跳躍を意味している」と解釈をしているのも興味深いです。この展覧会の翌年にベルリンの壁は崩壊しています。

 この像は現在「現代史フォーラム・ライプツィヒ」の入口で見ることができます。1999年にオープンしたこの博物館は、東独の歴史を、当時の物と写真と動画で丁寧に説明してくれる素晴らしい歴史博物館です。入場無料、英語の説明書きもあります。ライプツィヒに行かれたらぜひ訪れてみてください。


現代史フォーラム・ライプツィヒ

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