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「日本の図書館を創造する」 岡本真さん 〜モトヤフインタビュー〜

-本日はよろしくお願いいたします。最初にお名前を教えてください。

岡本真(おかもと・まこと)です。現在49歳(1973年7月1日生)です。

-お生まれはどちらですか、また現在どちらにお住まいですか。

生まれは東京ですが、生後1ヶ月で横浜に引っ越しているのでほぼ横浜生まれ・横浜育ちです。大学入学からヤフーの六本木移転までは都内在住でしたが、いまも横浜在住です。

-生粋の“ハマっ子”ですね。実は私も横浜生まれで横浜育ちです。
ではこれまでのプロフィールをご紹介いただけますか。

1997年に大学を卒業し、最初は編集者をしました。ですが、出版産業の将来に危惧もあったのと大学院進学の気持ちもあり、1年で退職。その後学士入学を目指すも試験そのものが中止になり再就職を模索。パートタイムやフリーランス、業務委託を経て1999年5月にヤフーに拾ってもらいました。そして2009年7月にヤフーを卒業しアカデミック・リソース・ガイド株式会社(arg) を起業して現在に至ります。

社名のアカデミック・リソース・ガイドは同名のメールマガジンに由来します。インターネットの学術利用をテーマにヤフー入社以前の1998年7月に創刊したものです。ヤフーに入社する1年ほど前です。

-ヤフーに入ったきっかけは何でしたか?

学術的な紙の出版物はやがてwebに置き換わるだろうといった出版業界の変化の可能性を感じていたのと、同時に事実上の第二新卒状態の私を採用してくれるのは、ヤフーのようなベンチャー期のウェブ企業しかなかったという現実的事情がありますね。

-ヤフーでのお仕事はどんな内容でしたか?

前半5年は今はなきサーファー職を、後半5年はプロデューサー(企画)職を務めました。サーファーとしては「社会科学」「各種資料と情報源」等のやや硬めのカテゴリを中心に担当しました。メールマガジンで発信していたことが結構役立ったという実感がありました。プロデューサーとしてはYahoo!知恵袋を主に担当しました。他にガイドライン室や産学連携も兼任していました。

ヤフー知恵袋については、その哲学として「誰もが何かの専門家」という思想があって、素人であっても必ず色々な分野に専門家と呼べるレベルの人はいるはずだという世界観に立って作り上げていました。またこれはなにもサービスだけに限ったことでなく、自分の仕事ぶりにおいてもいえることで、全部自分でやろうとせず、もっと優秀な人を捜し当てて任せることも重要だいうことだと思いますし、当時のヤフーの経営トップや上司もそうした形で下に任せることが多かったと思います。

-ウェブメディア記事サイトの記事検品に自分は以前係わったことがあるので、それに関連したご質問があります。新聞における記者と記事校正者の関係だったり、雑誌・書籍等での執筆者と編集者の関係では、誤りを直したりブラッシュアップしたりする側面があるかと思いますが、ウェブメディアにおいてはその点が希薄な印象があって、それがその品質にも影響しているように思うのですが、この点はどのようにお考えでしょうか。

ヤフーに入ったときから自分も含めてウェブメディアの品質の問題を重要と感じている方はいたと思います。同じサーファーだった吉川さんや奥村さんは出版や新聞といった既存メディア経験がありましたから、同様の意識だったと思います。そんな問題意識から、例えばカテゴリ毎にサイトを登録してコメントを付けるという作業に際して、用字用語を統一するために、新聞用語集を全サーファーに配るとかはやりましたね。このアクションが検索品質にも直結するという点もあり、その結果としてヤフーのQuality Assuranceのレベルは格段にアップしたと自負しています。

一方で、Yahoo!知恵袋などのユーザー自身が作り上げていくようなサービスでは、その発信情報の内容品質に関していえば、書き間違いや日本語表現の不備等があったりします。しかしこうした不備や不完全な内容であっても、ウェブ検索技術の機能向上といったテクノロジーの進化により、検索には影響を与えなくなったことがあり、また多くの人に発信の場を開放し、彼ら彼女らの才能を解き放ったという大きな意義を評価すると、これはこれで良かったのかなと思っています。

知恵袋を企画した2003年頃に校正提案機能の実装というテーマの企画案もあって、当時は技術的な課題もあってまだ実現はしていなかったのですが、最終的に企画を進めなかったんです。この背景には投稿コメントを校正をしてしまうこと自体「お節介」で「失礼」な行為であって、人の気持ちに寄り添うことにプライオリティがあるという、ヤフーとしての強い価値観があって、この点は社長の井上雅博さんも当時気にされていた点だったと思います。

尤も受益者(=利用者)の視点、作る側の視点、ヤフーとしてかくあるべきという視点のどこに軸足を置くべきかというテーマに関しては、ある意味で引き続き永遠の課題だなと思います。

-このご質問にも関連しますが、誤った情報を発信してしまうことのリスクについては、どのようにお考えでしょうか。

確かに貴重かつ専門的な情報発信の中に潜む地雷のようなリスクをどう考えるかですが、この点では「上書き機能」というものが一つの鍵だと思います。知識としての正しさを担保できるというメリットも認識しつつ、上書きを許すと「編集合戦」が起きるという点を懸念し、検討の結果として知恵袋では上書き機能は実装しませんでした。

一方ウィキペディアは履歴も残しながら上書きをさせるというスタイルで20年間存在し続けてきました。Yahoo!検索にウィキペディアも組み込もうというアイデアもあった中で、この点は我々はウィキペディアを過小評価し過ぎていたかも知れないという反省があります。

-最近chatGPTが世の中の話題をさらっています。岡本さんがカテゴリ検索・知恵袋などのお仕事をヤフーでされてきて、また現在図書館プロデュースの仕事で「調べることをサポートする」立場にある中で、このオープンAIのサービス登場については、どのような感想を持っておられますか。

インターネットを通じたQ&Aサービスが登場し、かつ自分もそのサービスに関わり20年が経ちましたが、ここに来てとうとう自然言語をインターフェースとするサービスが登場したことに感動しています。Yahoo!知恵袋の登場前にも検索窓に自然文を入力する方は少数ながらいましたし、これはある意味自然なことと当時感じていました。

むしろ自然文を概念化して一つのキーワードにすることの方が高度な要求スキルで、そうしたサービス自体はインクルーシブではないサービスであったといえます。そういった意味でこのchatGPTに関しては既存のサービスに与える影響も極めて大きく、これからも益々目が離せません。

-ヤフー時代のお話に戻りますが、ヤフーで学んだことはどんなことでしたか?

「スピードをもってやり遂げること」と「成功に手が届くまで自分が諦めないこと」「そのためにも数値で測れるように務めること」あたりでしょうか。USで学んだVMSO(Vision、Mission、Strategy、Objectivesの4点からサービスの理念や戦略、指標を示すこと。グローバル開発をしていたYahoo!知恵袋ではこのVMSOを定めることがYahoo Inc.から求められていた)も大きな学びでした。

-当時のエピソード等ありましたらご紹介ください。

やはり社長の井上雅博さんの意向でYahoo!知恵袋が何度も開発停止になりかけたことと、それをあの手この手で阻止して一定の成功に至ったことでしょうか。いまだから言えることも多いですね。

-辞めたから分かるヤフーの良さというものはありますか?

2003年の東証一部上場あたりからでしょうか、会社全体でスタッフの総合的な能力がダントツに高くなったことですね。より大きくなった今は一層だと思います。ヤフーの常識は世間の非常識という、良い意味でのこの違いは痛感するところです。

-ネクストキャリアを選んだ決め手は何でしたか?

ヤフーに入社する際、新卒3年目なのにヤフーが転職先4社目という当時としては転々としているキャリアに対し、有馬さんが「すぐ辞めるなよ」と私に釘を刺したんですね。またヤフー知恵袋は当時、社内トップの累積赤字を積み上げていたことから、井上雅博さんからも「辞められないだろ」と言われていました。その言葉を強く守って10年は続けようという考えがありました。でも一方では10年の節目で辞めようという強い意思もありました。退職・起業は強く決めていたので、この先は自分のやりたいことをやる、そのための環境を造ろうという思いが決め手となりました。

-現在のお仕事は具体的にどんな内容でしょうか?

図書館やミュージアム、市民センターといった文化施設や交流施設をデザイン&プロデュースする事業です。

私自身はヤフー時代に「カテゴリ」「知恵袋」といったサービスに係わる中で、「調べることをサポートする」ということにずっと取り組んできたという自負があります。

そうした意味では、今やっている仕事でも「調べることをサポートする」というテーマがベースにあって、それを具現化するためにソフト的にもハード的にも係わっていくということが多いですね。

-現在の仕事の面白いところや素晴らしいところを教えて下さい。

私としてはヤフー時代と実は変わりなくつながっているのですが、「人が知らないことを知る」「その環境を整える」というのが非常にやりがいのあるところです。

-今、特に力を入れていることは何ですか?

そろそろ50歳になるので、切り拓いてきた場所を後進にいち早く渡し、次のフロンティアを開拓することです。ここは結構こだわって意識・行動しています。これは宮坂さんや志立さんの影響も少なからずありますね。

-ご家族以外で尊敬している方がおられたら教えて下さい。

学恩ある方々でしょうか。大学時代の恩師もそうですが、最近逝去された長尾真先生(元・京大総長、元・国会図書館長)はヤフー在職中からご縁がありましたが、起業後も目をかけていただきました。

-ところでご趣味は何でしょうか?

結局、仕事が趣味ですが、コロナ禍でパンダにはまっています。

-あっ、そう言えば岡本さんの今日のZoom背景はパンダですね。実は私のZoom背景も上野動物園のパンダのシャンシャンです。もう既に中国に帰ってしまいましたが。
ところでこれからチャレンジしたいことは何ですか?

ライフワークといえるほどのものでもないですが、25年間続けているメールマガジンでしょうか。このメールマガジンがヤフーへと続く道を拓いてくれたともいえます(ヤフーの面接担当だった方々が既に当時読者だったのです)。

-イマヤフに伝えたいひとことをお願いします。

IT、ウェブ企業ならではのサービスを生み出してほしいですね。ビジネス開発も意識しながら、しかしサービスとして圧倒的に知られ使われるものをつくりだす喜びを味わってほしいです。ときどき大学で授業をしますが、学生たちの生まれたころにリリースしたサービスについて語るのは気恥ずかしいものですが、とても光栄な体験です。

-モトヤフに伝えたいひとことをお願いします。

特に同世代の方々はいい年齢になってきたので、くれぐれも健康に留意しましょう(最近、私もそういう出来事があったので)。

-読者に伝えたいひとことをお願いします。

特に若い世代にとってはヤフーはもうウェブ企業では老舗に見えると思います。ですが、所詮まだ30年に満たない社歴です。これからが面白いところです。ぜひ、世の中の価値観や習慣・慣習を変えるサービスを、ヤフーに積み上げられた信用と財産を生かしてつくってください(そのためにもヤフーに入ってみてください)。

-岡本さん、本日は大変ありがとうございました!

(本日のインタビューは川村英樹が担当しました)

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