正義感の欠如 【短編小説】

正しくないことが嫌いであった。
それがいつのころからか芽生えているのかは正確には覚えてないが小学生の頃だったように思う。

満員電車に毎朝大勢の人が乗り込み自らの職場に向かう。
大変だろうと思いこんでいたその行動が僕にとってあたりまえのつまらない日々になるのはそんなに時間は掛からなかった。
その大変さをさして考えずに横にやりながら僕は職場に着いて、
「サトウさん、おはようございます。」
「アマイくん、おはよう。」
先輩に挨拶と交わして他の先輩達にも挨拶をしていく。
こうすることによって
「礼儀正しいね。」
と言われる、これで礼儀正しいと言われると礼儀とはなんだろうと思った。挨拶というのもなんだろうと思う。
それを誰かに教えられることなくここまで来たのだ。

今日の業務をこなしていく。
とはいっても新人だからそこまでたいしたことはしてないのだろうけれど、
同期の人たちが叱られているのを傍目に見ながらまた今日が過ぎ去っていく

仕事を終えてそろそろ帰るかと帰る準備を整えながらある先輩が通りかかるのでこの人の名前はなんだったかなと想起しながら声をかける
「カタイさん、お疲れ様です。」
「……あぁ アマイくん、お疲れ。もう帰る感じかな」
「そうですね。仕事終えたのでそろそろ帰ろうかなと思ってました。カタイさんは帰らないんですか?」
「僕もちょっと一仕事終えたら帰るよ。」
「そうことなら、お先失礼します。お疲れ様です。」
そういってから、僕は帰る準備の終えていたカバンを手にとってまだ明るい道に出た。
何か買って帰ろうかなとそこらを少しがてら散策していると途中でケータイがないことに気づいた。
やばいとかなり思いながらどこらへんにありそうかなと頭の中で候補探りながら元来た道を遡っていく。
街中で落としてたらどうやっても見つからないだろうし、カバンにケータイを入れていたのだがそこから出した記憶はない。
希望的観測を込み込みで自分のデスクの上に置き忘れていないかと思う。
そんなことを考えながら職場に舞い戻る、もう誰もいないかなぁと予測をたてながらエレベーターが開き自分のデスクへと向かう。
そこで誰かがいるのが分かった。
その人は節電のためかなんなのかわからないがかなり薄暗いところにいたので遠目からだと誰かは分からなかった。
とはいえ自分のデスクをちょっと確認するだけなので誰かとかいいかと思い近づいたとき軽く声だけかければと自分のデスクに向かってる途中でその誰かが気づいたのか。
顔を素早くこちらに向けた。
大変驚かしてしまったらしい、その人は何か危機が迫っているような感じであった。
その人はカタイさんであった。
「お疲れ様です。カタイさん、ちょっとケータイが見当たらなくて戻ってきたんですよ。」
となんだか言い訳がましい感じで言った。
その後変な間があったがあまり気にせずにお仕事結構時間かかるんですね、と聞いた。
「そうだね、思ったより時間がかかってね。」
これまた変な間があった気がしたがカタイさんは穏やかな声でいった。
このとき頭の中で何か手伝いますかと言おうか、言って何かできることがあるか、むしろ邪魔にならないかと思ったが、
「でももうすぐ終わるから、アマイくんは気にしないで」
と言われた。
頭の中でのことは吹きとびそのままお言葉に甘えることにした。
さしてカタイさんのことを手伝いたいという気持ちが強かったわけではないのもあった。
と思う頭の中の先のことは社交辞令的な何かでしかない逡巡であったと思った。
ついでに言うならカタイさんが僕にここにいて欲しくないような気がした。気がしただけで特にそれに意味はないのだろうけれど
「ではまたお疲れ様です。」
「お疲れ様。」
僕に気づいた時の反応と変な間とやけに穏やかすぎる声に違和感があったが気にしないようにした。気にしないでいたほうがいいことのほうが多いそんなことがたくさんある人生だった。


数日後、カタイさんは姿を消した。
理由は公表はされなかった。
理由なんてないのだろうと推量した僕にはどうでもいいことだった。



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