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読了した作品の感想記事を書きます。作家が作品に込める哲学、思想、主義などを出来る限り汲…

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読了した作品の感想記事を書きます。作家が作品に込める哲学、思想、主義などを出来る限り汲み取ろうと努めています。記事をご覧になる方にとって、作品と出会う切っ掛けになれば幸いです。

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  • シェイクスピア作品感想リスト

    シェイクスピア作品の感想をまとめました。気になる作品があれば、ぜひご覧ください。

  • 名刺がわりの小説10選

    「名刺がわりの小説10選」の感想記事をまとめたページです。気になる作品を選んで読んでみてください。

記事一覧

『デカブリストの妻』ニコライ・ネクラーソフ 感想

こんにちは。RIYOです。 今回の作品はこちらです。 十六世紀より続いた皇帝(ツァーリ)による専横政治によって、ロシアでは上流貴族(ブルジョワ)による封建制と、地主…

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4日前
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『深い河』遠藤周作 感想

こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 第二次世界大戦争を経て、それまで隆盛していた日本の文学は大きく変化しました。空襲によって与えられた凄惨な経験と…

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11日前
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『終わりよければすべてよし』ウィリアム・シェイクスピア 感想

こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 この作品は1601年から1606年の間とされており、一般的にシェイクスピア作品のなかで「問題劇」と呼ばれる『トロイラス…

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2週間前
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『ヴェローナの二紳士』ウィリアム・シェイクスピア 感想

こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 ヴェローナの紳士であるヴァレンタインとプローテュースは、互いに固い友情を交わし、何事も隠し事のない強い絆で結ば…

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2週間前
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『タイタス・アンドロニカス』ウィリアム・シェイクスピア 感想

こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 ウィリアム・シェイクスピア(1564-1616)は、劇作家として活躍する初期の1588年から1593年の間にこの劇を書いたと考…

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2週間前
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『幽霊たち』ポール・オースター 感想

こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 十九世紀末から二十世紀にかけて隆盛を極めたモダニズム文学は、それまでのリアリズム(写実主義)を否定するように作…

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3週間前
5

『いさましいちびのトースター』トーマス・M・ディッシュ 感想

こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 第二次世界大戦争後、あまり戦禍を被らなかったアメリカでは特需景気が巻き起こり、資本主義的に世界を牽引するように…

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1か月前
5

『春にして君を離れ』アガサ・クリスティー 感想

こんにちは。RIYOです。 今回の作品はこちらです。 1944年の英国、すでに推理小説作家として文壇に揺るがない立ち位置を築いていたアガサ・クリスティー(1890-1976)は…

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1か月前
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『アンナ・カレーニナ』レフ・トルストイ 感想

こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 十九世紀ロシアを代表する二人の偉大な作家、フョードル・ドストエフスキーとレフ・トルストイ。内なる感情の劇的な興…

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1か月前
4

『不思議の国のアリス/鏡の国のアリス』ルイス・キャロル 感想

こんにちは。RIYOです。 今回はこの二作品です。 ルイス・キャロル(1832-1898)は、軍事や聖職者を多く輩出する家系に生まれ、彼自身も聖公会(Anglican Church)に所属…

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1か月前
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『生まれいずる悩み』有島武郎 感想

こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 有島武郎(1878-1923)は、東京で大蔵官僚として成功を収めた元薩摩郷士である父のもとに生まれました。幼い頃より恵…

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2か月前
9

『若きウェルテルの悩み』ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ 感想

こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 十八世紀におけるドイツ(神聖ローマ帝国)では、西ヨーロッパでの啓蒙主義の影響を強く受けていました。従来のキリス…

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2か月前
10

『しんどい月曜の朝がラクになる本』佐藤康行 紹介

こんにちは。RIYOです。 今回は書籍のご紹介です。 現代日本の社会において、組織の中に身を投じて働く人々は、少なからず月曜日(もしくは休み明け)を迎えることに憂鬱…

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2か月前
3

『バガヴァッド・ギーター』聖仙ヴィヤーサ 感想

こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 紀元前後に編纂された壮大な叙事詩『マハーバーラタ』は、バラタ王族に起こった同族戦争を描いたもので、世界最古の戦…

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2か月前
8

『マドゥモァゼル・ルウルウ』ジィップ 感想

こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 十八世紀のフランスでは、ルネサンスによって興った人間解放という思想が宗教に及び、永く続いていた封建社会における…

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2か月前
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『タイム・マシン』ハーバート・ジョージ・ウェルズ 感想

こんにちは。RIYOです。 今回の作品はこちらです。 ハーバート・ジョージ・ウェルズ(1866-1946)はロンドンで商人をしていた父のもとに生まれました。しかし、立地や商…

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2か月前
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『デカブリストの妻』ニコライ・ネクラーソフ 感想

こんにちは。RIYOです。 今回の作品はこちらです。 十六世紀より続いた皇帝(ツァーリ)による専横政治によって、ロシアでは上流貴族(ブルジョワ)による封建制と、地主貴族による農奴制が基盤となった社会が続いていました。国家は農奴たちを負担から逃がさないように罰則で土地に縛り付け、法的な土地緊縛を確立させていました。結婚の自由もなく、裁判権は領主に委ねられ、罰則は領主によって執行されるという、まさに奴隷的な処遇でした。また上流貴族(ブルジョワ)は、専横政治そのものに不満を抱き、

『深い河』遠藤周作 感想

こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 第二次世界大戦争を経て、それまで隆盛していた日本の文学は大きく変化しました。空襲によって与えられた凄惨な経験と、戦禍によって与えられた精神への強烈な苦痛は、文学という形を通して新たな思想や哲学となり、第一次戦後派という思潮を生み出しました。その後、復興に伴い流れ込んできた西欧の文化や芸術に感化され、戦争を生き抜いた人間が新たに構築した思想や哲学を打ち出す西欧型の長編小説を量産した第二次戦後派が生まれます。このように西欧化

『終わりよければすべてよし』ウィリアム・シェイクスピア 感想

こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 この作品は1601年から1606年の間とされており、一般的にシェイクスピア作品のなかで「問題劇」と呼ばれる『トロイラスとクレシダ』及び『尺には尺を』などと共に括られています。三作どれもが、暗く苦い笑いと不愉快な人間関係を軸に描かれており、これはシェイクスピアの喜劇時代に執筆された『十二夜』や『お気に召すまま』のような幸福感が表現されている喜劇とは明確な違いが見られます。本作『終わりよければすべてよし』は喜劇でありながら、

『ヴェローナの二紳士』ウィリアム・シェイクスピア 感想

こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 ヴェローナの紳士であるヴァレンタインとプローテュースは、互いに固い友情を交わし、何事も隠し事のない強い絆で結ばれていました。しかし恋愛についての考え方は正反対で、ヴァレンタインはそのようなものに関心を持つことができず、見識を広めたいという思いからミラノ公爵のもとへと旅立ちます。反してプローテュースは恋人ジュリアのもとを離れる気が起きず、ヴェローナに残ることを決めて遊学を見送りました。しかし、社会を学ばせて立派な紳士とさせ

『タイタス・アンドロニカス』ウィリアム・シェイクスピア 感想

こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 ウィリアム・シェイクスピア(1564-1616)は、劇作家として活躍する初期の1588年から1593年の間にこの劇を書いたと考えられています。『タイタス・アンドロニカス』は、彼の作品のなかで最も暴力的で血生臭い作品の一つであり、名誉の力と暴力の破壊的な性質を題材として描かれています。 執筆当時のエリザベス朝時代では、ラテン文学と称されるオウィディウス、セネカなどによる古典的な悲劇が非常に人気がありました。復讐、惨殺、残

『幽霊たち』ポール・オースター 感想

こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 十九世紀末から二十世紀にかけて隆盛を極めたモダニズム文学は、それまでのリアリズム(写実主義)を否定するように作家の思想や意思を表現していきました。それまで文学として求められていた「あるべき流れ」を否定し、複数の対立意識を双方に存在させ、事物の曖昧性や不確定性を肯定しようとする文学運動で、ジェイムズ・ジョイスやフランツ・カフカ、ヴァージニア・ウルフやアンドレ・ジイドなどが代表作家として挙げられます。この前衛的な文学運動は世

『いさましいちびのトースター』トーマス・M・ディッシュ 感想

こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 第二次世界大戦争後、あまり戦禍を被らなかったアメリカでは特需景気が巻き起こり、資本主義的に世界を牽引するようになります。娯楽や歓楽が賑わう一方で、音楽や文学などの文化的発展も著しく成長しました。そのなかでも、娯楽作品として認識されていた「サイエンス・フィクション」という文学区分は、戦争という経験によって大きく進化します。化学と戦争の関連性、空想でしか有り得なかった荒廃的な世界、ファシズムの持つ恐怖など、現実体験によって刺

『春にして君を離れ』アガサ・クリスティー 感想

こんにちは。RIYOです。 今回の作品はこちらです。 1944年の英国、すでに推理小説作家として文壇に揺るがない立ち位置を築いていたアガサ・クリスティー(1890-1976)は、長年のあいだ構想を続けていた作品の執筆に取り掛かりました。この作品は謎解き小説とは一味違った雰囲気の「ロマンス小説」なるもので、ミステリーを期待する先入観を持った読者には望ましい印象を与えない可能性がありました。そのため、本作『春にして君を離れ』を含む六作のロマンス小説はメアリー・ウェストマコットと

『アンナ・カレーニナ』レフ・トルストイ 感想

こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 十九世紀ロシアを代表する二人の偉大な作家、フョードル・ドストエフスキーとレフ・トルストイ。内なる感情の劇的な興奮やその明暗に渡る高揚を、奥の奥まで突き詰めたドストエフスキーに対し、トルストイは当時の社会そのものを詳細に描きながら思考の流れや意識の動きを初めて読者に提示しました。トルストイは、大作『戦争と平和』の後に生み出した本作『アンナ・カレーニナ』で、主要な登場人物の心の声を通して、置かれた立場から揺れ動く思考を情景描

『不思議の国のアリス/鏡の国のアリス』ルイス・キャロル 感想

こんにちは。RIYOです。 今回はこの二作品です。 ルイス・キャロル(1832-1898)は、軍事や聖職者を多く輩出する家系に生まれ、彼自身も聖公会(Anglican Church)に所属して、幼い頃より裕福な環境で育ちます。熱心な信者でアングロ・カトリック(英国国教会を肯定する高教会派)に傾倒し、その運動の基盤となったクライスト・チャーチ(オックスフォード大学)へ通いました。持って生まれた数学者としての才能を存分に活かし、優秀な成績を修め、そのまま数学の大学教員の資格を取

『生まれいずる悩み』有島武郎 感想

こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 有島武郎(1878-1923)は、東京で大蔵官僚として成功を収めた元薩摩郷士である父のもとに生まれました。幼い頃より恵まれた環境で育ち、隅々まで教育を与えられてきましたが、常にどこか心が晴れないような心持ちで日々を過ごしていました。札幌農学校へと進学しましたが、内村鑑三に影響を受けてキリスト教の洗礼を受けると、渡米してハバフォード大学の大学院へ、さらにハーバード大学へと進んでキリスト教とともに西欧の哲学や文学に触れていき

『若きウェルテルの悩み』ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ 感想

こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 十八世紀におけるドイツ(神聖ローマ帝国)では、西ヨーロッパでの啓蒙主義の影響を強く受けていました。従来のキリスト教に基く封建的な考え方に対して反発するように起こったもので、人間の理性を重視して合理的な幸福社会を目指そうとするものでした。哲学者イマヌエル・カントなどが提唱し、人間性の解放を促すもので、思想面でフランス革命の基礎を築いたものでもあります。民衆の精神を理想的に導くように考えられたこの啓蒙主義は、その反面で「個の

『しんどい月曜の朝がラクになる本』佐藤康行 紹介

こんにちは。RIYOです。 今回は書籍のご紹介です。 現代日本の社会において、組織の中に身を投じて働く人々は、少なからず月曜日(もしくは休み明け)を迎えることに憂鬱を感じる人が大多数であると言います。休みにしたいことが多すぎる、趣味の時間をもっと長く持ちたいなど、比較的前向きな悩みで休みを求める人は「憂鬱」とは少し違う不満の感情があると思います。そうではなく、仕事の日々が訪れることに対して「気が重くなる」という人々が本書の対象です。 本書では、仕事が「しんどい」と感じる大

『バガヴァッド・ギーター』聖仙ヴィヤーサ 感想

こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 紀元前後に編纂された壮大な叙事詩『マハーバーラタ』は、バラタ王族に起こった同族戦争を描いたもので、世界最古の戦記とも言われています。このなかの一章を抜粋したものが本作『バガヴァッド・ギーター』です。「神の詩」という意味が込められ、神クリシュナと王子アルジュナの対話によって綴られます。稀代の武人であったアルジュナは両軍が全面的に激突する直前、なぜ親族と争わなければならないのか、なぜ同族を滅さなけれぼならないのか、同族と争う

『マドゥモァゼル・ルウルウ』ジィップ 感想

こんにちは。RIYOです。 今回はこちらの作品です。 十八世紀のフランスでは、ルネサンスによって興った人間解放という思想が宗教に及び、永く続いていた封建社会における王権や教皇の絶対的な権威が薄れ始めていきます。時流に後押しされるように生まれたヴォルテールやジャン=ジャック・ルソーなどの解放的な思想が直接的に世相へ影響を与え、アンシャン・レジーム(旧制度の階級社会)が行き詰まり、虐げられ続けた第三身分たちによる権利の主張を呼び起こし、フランス革命が勃発しました。この革命の初期

『タイム・マシン』ハーバート・ジョージ・ウェルズ 感想

こんにちは。RIYOです。 今回の作品はこちらです。 ハーバート・ジョージ・ウェルズ(1866-1946)はロンドンで商人をしていた父のもとに生まれました。しかし、立地や商材に恵まれず、父は庭師をする傍らでプロのクリケット選手として不安定な収入を得て暮らしていました。下層の中流階級に位置していた家庭は、決して裕福ではなく、ウェルズ自身も早々に呉服屋や科学者の見習いなどで働くという、厳しい生活を強いられることになりました。このような中で、彼を夢中にさせたものは、図書館に並ぶ書