見出し画像

#5 ある日、「突発性難聴」になった話。

5日前の午後4時ごろ。

家で仕事をしていると、左耳の耳鳴りがしばらく続いていることに気づいた。

あれ、なんか長くない?

とりあえず仕事を続ける。
待てば止むかと思ったけれど、1時間がすぎ、2時間がすぎ、ついには就寝時間になったけれど耳鳴りは止まない。
その間にも、キーンと高い機械音のような嫌な耳鳴りは、無視できない程に大きくなった。なんだか音も聞こえづらくなった気がする。
ネットで検索してみると、耳鳴りが続くようならば早めに病院に行ったほうが良いらしい。

そういえば先週はダイビングに行ったことを思い出した。
イヤフォンで音楽はよく聴く。その音が大きすぎたのかしら。

原因を考えてみたけれど、なぜ突然耳鳴りが始まったのか全く分からない。

病院もしまっているし、今は寝ることしかできなそうだ。

寝たら治るといいんだけど。
電気を消して布団に入る。
枕に耳を押し付けると、余計に耳鳴りが気になり眠れなかった。

翌日。

キーンとした耳鳴りは続いていて、耳に水が厚く入ったような不快な感じも始まった。耳鳴りが頭の左半分で鳴り響いていて、すごくうるさい。
耳鳴りのせいで、健常なはずの右耳もよく聞き取れなくなった。

こんなことは今まで経験したことがない。
そもそも、何をしたらいいのかわからない。

とりあえず会社に行くことにした。

電車にのると、車内アナウンスや駅のホームの音が左耳から全く聞こえないことに気づいた。耳鳴りが頭の半分に鳴り響いて、人が多くて、めまいもしてきた。
急に、状況が現実味を帯びてきた。

なんとか会社について席に座るが、電車の音が全然聞こえなかったショックで、もう仕事ができる気がしなかった。
全然元気が出なかったので「あ、もうやめよう」と早々にギブアップし、会社の人たちに事情を話す。
とても驚かれ、すぐに帰って診てもらった方がいいと言われて早退する。
会社の人の知り合いに「突発性難聴」になった人がいて、「耳の不調は一刻も早く診てもらったほうがいいよ」と言われた。

結局診断が受けられたのはその日の夕方だった。

まずは聴覚検査をする。
まずは健常な右耳から行い、次に機械を左耳につけて検査を始めた。
全く聞き取れない。
音振動がブルブルと耳周りの骨に伝わるような大きな音になって初めて「あ、今、音がしてたんだ」という感じだ。
耳鳴りがキィーンとしているので、聴覚検査の高音と混ざって良く分からなかった。

診断は突発性難聴だった。
突発性難聴は、突然音が聞こえづらくなったり、耳鳴りが聞こえ続けたりする耳の異常症状だ。人によってはめまいや吐き気、頭痛なども一緒に起こる。
30〜40代の年代に多くみられ、ストレスや生活リズムの乱れなどからよく引き起こされることも多いらしい。
でも私のような20代でも起こることも珍しくないようだ。

私たちの耳の内耳に、蝸牛(かぎゅう)というかたつむりの形をした器官がある。
蝸牛の中には有毛細胞という「音の振動を感じ取る毛」を持つ細胞があり、耳に音が伝わるとその毛が震える。
毛の揺れによって有毛細胞が興奮し、細胞からの電気刺激の放出が聴神経を伝って脳に情報を送り、私たちの脳は音を認知するという仕組みらしい。

その有毛細胞が、騒音や年齢など何かのきっかけで傷付いたり破壊されると、音が電気信号にうまく還元されず私たちは聞き取ることができなくなるのである。
有毛細胞が破壊される原因として、血液が行き渡らない血流障害や、ウィルス感染によることもあるが、まだまだわからないことも多いらしい。

病院では、ウィルス感染の炎症を抑える効果があるステロイドと、血流をよくする薬、耳の細胞の回復を助けるビタミンB12、そしてステロイドにより引き起こされる胃炎や胃酸の分泌を抑える薬を処方された。
とりあえずその日は薬を飲んで、「早く治りますように」と念じながら早々と布団に入った。

薬を飲んだ翌日。

目覚めると、耳鳴りが少し小さくなっている気がした。何よりも、「水が耳に入った感じ」がだいぶ抜けてわずかだが音が聞き取りやすくなった。
しかし、TVの音が鳴っていることを認知することができるが、まだ人が何を話しているかまでは理解があまりできない状態だ。
回復の兆しが見えたのでちょっと安心したが、耳鳴りの音は「キィーン」と常に聞こえたり、「ジィー」と低いセミのような音で聞こえたりで相変わらず鬱陶しい。午前中はテレワーク、午後はお休みをとっていたので「寝て起きたら治ってないかなぁ」なんて思いながらお昼寝をしたが、お昼寝ではあまり変わらなかった。
夜は、佐村河内 守の記者会見動画をみて寝た。

4日目の朝。

朝の静けさの中で、耳鳴りは非常にうるさい。
起きた瞬間に「あれ、なんか耳鳴りがまた大きくなってないか?」と思った。
どうしよう、今日は金曜日。明日から土日休みだ。
先生に「必要なら紹介できるよ」と言われた大きな病院は休日はしまってしまうらしいので、土日に何かあっても相談や精密検査ができない。
今日は会社に行くつもりだったけど、もし土日になにかあったせいで、一生回復せず難聴のままだったらどうしようと不安が膨らんだ。
会社に電話をしてもう一日休ませてもらうことにした。

朝一で病院に行く。
病院につくとまず、聴覚検査を受けた。
高温の「キィーン」という耳鳴りこそまだ続いているけれど、数値を待たずしてかなりの回復を自分でも実感できた。
診察では聴覚のグラフを当初のものと比較し「聴力がしっかり回復しているので、これなら問題がないです」と言われた。
これならば大きな病院に行く必要もないです、とキッパリと言われた。
「でも先生、耳鳴りが止まらないんですが、、」というと、先生は丁寧に説明してくれた。
耳鳴りは、聴力の回復が落ち着いてから止むものだから、今の治療で聴力の回復があるならば心配しなくていい。耳鳴りの原因は、蝸牛で音から電気への還元がうまくいかないと、不必要に放電してしまい耳鳴りがする。つまり蝸牛の機能が正常まで回復すれば、耳鳴りも止む。ということらしい。

まあ、要するに私は大丈夫なようだ。
先生もきっぱりと言ったので、ホッとした。
引き続き薬は処方されるが、ステロイドの量は減らしていく。
ビタミン剤はしばらく続けるらしい。

その日は午後から出社した。
突発性難聴になって初めての会社での仕事は、確かに耳鳴りは少し気になったりもしたが、何かに集中したり、適度な音(ラジオや周囲の会話など)があればそこまで目立たないと感じた。
とにかく大丈夫らしいと分かったので、夜は焼肉に行ってお祝いをした。

そして今日の朝。

正直、朝の耳鳴りが一番わずらわしいかもしれない、と思う。
静かな中に耳鳴りがあると、「ああ、今日もまた耳鳴りは続いているのか」と落胆する。
でも確実に音は小さくなっている。

これから耳鳴りが完全に治るかは、現時点ではまだわからない。
突発性難聴は、早期の治療で患者の40%が完治し、40%がなんらかの回復を見せる。残りは聴力が戻らないらしい。
それだけ耳は繊細で複雑な器官だということだ。
もしもしっかり耳が回復したら、イヤフォンで大音量で音楽を聞いたり、TVの音を大きくして聴くのは控えようと思った。

以上。

以下後書き。

まさか私が突発性難聴になるなんて思いませんでした。
突発性難聴がなんなのかさえ、かかる前は全く知りませんでした。
この症状は未だ分からないことが多く、必ずの完治が約束されていない症状なので、かかってしまった人は不安も大きいと思います。
突然の耳のトラブルで悩む誰かの不安が少しでも軽減できるかもしれないと思い、記憶が鮮明なうちに、今の心情描写や経過を細かく書いてみました。
長文になり大変失礼しました。