見出し画像

【産学連携と技術移転の話】営業とマーケティング①

読書感想?と書籍紹介

 ファミリービジネスのための産学連携のススメ,という本を読み,頂いた刺激と視点を元にした読書感想としての記事です.毎度のことながら,読書感想といいつつ自分の言いたいことを書いているだけになっていて,感想内容と本の内容が乖離している点,ご容赦ください笑.
 この本は,産学連携を成功(=企業の技術と大学の技術を融合したユニークな製品の開発と上市に成功)した経営者と,その経営者と大学の仲人として活躍したコーディネーターが活動について語っている本です.ファクトブックとしてではなく,現場で起こったありのままが書かれており,産学連携分野でのこういった書籍は珍しく,大変参考になります.



以下読書感想

産学連携とルート営業化

 いわゆる通常の企業での営業をイメージすると,一般的にルート営業の方が開拓営業よりも成約率が高く,効率的である.開拓営業にて獲得した顧客がルート営業先として定着するには,買ってもらった製品や担当者を含めた信頼関係の醸成が必要であるが,ここで産学連携について同様の考え方を当てはめるとどうか.
 産学連携が開始する発端は様々だが,実際に大学の研究者と連携した結果,信頼関係を醸成した場合に継続的連携や別テーマでの新規連携に至るという流れは,通常企業での営業ルートと同様である.通常の企業と比べ,産学連携が少々特殊なのは,大学間は基本的に競合関係に無いという点である.もちろん,同様のテーマの研究を行っている研究者間で競争関係があることは承知しているが,大学側から見て顧客である企業がある産学連携テーマを提案され又は想起した場合に,複数の大学間で相見積もりをとって比較するというのは聞いたことがないし,あったとしても極めて稀であると思う.であれば,大学間で顧客の取り合いということは起きない訳で,上述のルート化のための信頼醸成というのは産学連携という「業界」全体で行えば規模の面で効果的である.
 産学連携担当の側から(一方的に)見ると,企業というのが①産学連携に前向きなルート企業群,と②産学連携には興味がない/知らない企業群に2分される訳で,①産学連携に前向きなルート企業群を各大学間でシェア出来れば非常に効率が上がる
 ちなみに②産学連携には興味がない/知らない企業群をどうやって①にしていくかというスタートの話については話が逸れてしまうので別の記事にしたいが,これも二分法でA.大学で生まれた特定の技術を売り込んで興味を引く,B.「産学連携」という商品を売り込んで興味を引く,と考えた場合に,現場レベルの私は,B.「産学連携」という商品を売り込んで興味を引くという方が効果的・効率的であるようにも感じる.このためには,紹介した書籍内でも紹介されている通り,大学の最先端機器を使うことができる,大学ブランドを活用することが出来る,優秀な人材を獲得することが出来る,といった利点を押し出すことが大事で,とすると産学連携担当の営業トークも変わってくるはずである.

開拓営業とルート営業の工数最適配分

 小見出しにしていて恥ずかしいくらい当たり前のことだが.産学連携にむけた営業活動を行うのに,仮に上記の業界全体でのルート共有化が進んだ場合には,当然効率の良いルート営業の方に各大学の工数が流れ込む.すると,開拓営業が行われなくなり,産学連携活動も縮小化していくという未来も見える.従って,やはり継続的に開拓営業にも工数を割いた方がいいというのも当然の考え方であり,それは業界全体として最適な工数比率が見えてくると良い.(大学単位でなく業界全体と述べたのは,とある大学は開拓営業をさぼって他の大学が作り上げたルートを使うだけ,となるようなタダ乗りが許せないという矮小な考えである.)この点は,下のブランディング・マーケティングと一貫性を持った制御が必要だと思う.

将来を見据えた「ダサくない」ブランディング・マーケティング

 一方で,大学というと何となく高尚な印象があるのはおそらく一般的な話かと思っていて,もしかするとゴリゴリと開拓営業をせずに鎮座している方が実は成果につながるという可能性もあるようにも感じる.その分,ルート化して進行している産学連携プロジェクトを成就させ,それを広告として打ち出す努力をすると,上記②産学連携には興味がない/知らない企業群もこちらを向いてくれるようになるかもしれない.このためには大学としての産学連携視点でのマーケティング施策が必要で,産学連携部隊単独でどうこうという話ではない.批評家のような口ぶりをご容赦頂けるなら,大学の産学連携ページの多くはお役所おじさん臭が鼻を突き,とても見ていられないと思ってしまう(制作者の方々,申し訳ございません).こと制作ツール(アプリ)とSNSネイティブの世代が意思決定者になっていく近い将来,大学の産学連携ページなど加齢臭が移るから訪れたくない,という未来も恐ろしい.そういえばつい最近,鍛造工場をスマート化して「オシャレ」な印象をつけることで若者の興味を惹くといったニュースがあった[2].大学の産学連携が,古風な職人肌しかよりつかない「鍛造工場」化するのは,個人的にはあまり気が乗らない(注:私自身はメーカーにいたこともあり,鍛造工場にこれでもかと詰まっている技術,業,そして時に3Kと揶揄されるがものづくり一途なあの雰囲気が大好きで,今でもこの上なく尊敬していることは注釈しておく).


まとめ

 ファミリービジネスや中小企業との連携は,スピード感や手触り感や産学連携担当としてはとてもエキサイティングである.こと中小企業との連携は意志決定が早く,適切な企業・人と適切なタイミングで話が出来れば進捗も早い.こういった企業・人というのはリピーター,ルート化する可能性も高く,ルート化した企業は産学連携業界全体で共有できるとよいと思う.
 さらに,ルート営業と開拓営業のバランスを把握したうえで適切に配分し,開拓側においては特定技術ではなく産学連携自体を売り物にすること,また,将来に向けてマーケティング・ブランディングの必要性について記述した.


参考・引用

[1] 坂井貴行,忽那憲治(2021/10/1)ファミリービジネスのための産学連携のススメ,中央経済社
[2] テレビ大阪ニュース(2023/7/3)戦後日本を支えた「鍛造」…今や自動化と”オシャレ化”で人材確保

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?