コンサル必読 業界動向把握手法 -特許文献の利用法-
今回は、特許文献は業界動向のさわりを簡単に把握するのに使えるよ、という話をします。
特許文献を読み慣れている人にとっては、こしあんよりも粒あんの方が美味しいよ、というくらい当たり前の情報しかなく、物足りないと思いますがご容赦ください。
この記事には具体的な作業ステップを記載しており、すこし間延びしてしまいましたので、結論を先に書いておきます。
結論:特許文献から得られる業界動向の一例
前提知識:特許は発明のご褒美ではなく技術発展のためにある
さて、あまり今回の記事とは関係ない話ですが、特許権というのは特許法という法律で定められた財産権です。皆さんは特許ってどういうものだと認識していますか?
もちろん、特許というのが他の人に真似されないための権利であることはご存じでしょう。では国は何故そんな権利を作ったのでしょうか?何か新しいものを発明した人に対するご褒美だと思ったあなた、おめでとうございます!20点です!
実は、特許法には、その法目的が下記のように定められています。
お分かりの通り、産業の発達が主目的であり、そのために(しょうがなく)発明を保護している、という構造です。このため、特許法は、特許文献を広く世に公開し、それを読んだ人が更に技術を発展させる、というサイクルを作ろうとしています。つまるところ、特許文献を動向把握に用いるという使い方は、至極真っ当な使い方だということを覚えておいてください。
特許文献による技術動向把握の概要
さて、では早速特許文献を読んでみましょう。多分初めて見る人は、理系の人であっても5分で眠くなります。独特な記述や文章構造になっていて、しばしば特許文学と揶揄されるほど読みにくいです(これは特許文献が権利書としての役割ももっていることから、致し方ないことなのです)。このため、全部読もうとしてはいけません。それは弁理士や研究開発担当がやればいいことです。今回は、あくまで特許文献から業界動向のさわりを抽出しようという目的なので。
特許文献は大体、①~⑤の構成になっています。
①背景
②既存技術
③課題
④課題解決方法(発明の内容)
⑤実施例
このうち、①~③を読みましょう。そこには、その業界の常識的な内容と、既存技術とその課題が記載されているため、今その業界で何が行われているかが見て取れ、これが業界動向のさわりを把握するのに役立ちます。もちろん、これだけでは情報に厚みがないので、ここで得た知識をもとに、さらにその他の手法で深堀調査は必要になります。
具体的なステップ
事例
ここでは、自動車のステアリングを作っているメーカーをクライアントとする案件にアサインされたとしましょう。完全自動運転化が叫ばれて久しいですが、その場合、一見不要となるステアリングはどうなっていくんでしょうか?
ステップ1:J-PlatPatにアクセスしてみよう
日本の特許文献は、特許庁が運営するJ-PlatPatというサイトで見ることが出来ます。省庁のサイトにしては使いやすく作られているので、色々いじって慣れてみましょう。
ステップ2:関連技術領域の「FI」を特定する
特許文献は、「FI」と呼ばれる分類コードによって分類されています。まずは自分の調べたい業界(正確には業界ではなく技術になりますが)がどのFIに属するのか特定しましょう。
図のようにキーワードで検索を進めると、どうやらFIがB62D1/00であることが分かります。かなり端折ってすみません(笑)。このあたりは特許検索手法として山のように情報がありますのでご容赦下さい。記事の最下部にも特許文献調査についてのオススメ書籍を紹介しています。
ステップ3:ヒットした文献から示唆を抽出する
次に、特定したFIとキーワードを使って、特許文献をヒットさせます。ここでは、「自動運転でステアリングはどう変わるか?」を知りたいので、キーワードとしては「自動運転」を使います。
さて、何件か特許文献がヒットしたかと思いますので、二つほど見てみましょう。
この文献には、上記のような記述があり、なるほど自動運転時代においては運転者がステアリングを把持しているか否かを判定する需要があり、それには静電容量式のシートが使われている/使われそうだ、ということが分かります。ということは、ステアリングメーカーへのサプライヤーとして静電容量シートメーカーが新たに参入する可能性が見て取れますね(あくまでこの事例に合わせた考察で、実際には昔からそうだったかもしれません、不勉強ですみません)。
このほかにもステアリングに静電容量式センサーを備えるような記載のある特許文献はいくつも見つかり、他方で圧力センサを用いるようなものもあるようですね。こういった部品メーカーとの連携も強まるのかもしれません。
次に、こちらの特許文献を見てみましょう。この特許文献は従来のステアリングとは異なる形状の操舵装置を提案しています。どうやら、自動運転時に使う、操舵以外の機能をも持たせたいというモチベーションが背景にあるようです。
このような形状の操舵装置が主流となってくると仮定すると、これまでPC用マウスを扱ってきたメーカーに分があるかもしれません。ただし、自動車の操舵装置は安全性への要求が高く、これらのPC用マウスメーカーが直接完成車メーカーに納入するよりは、もともとステアリングを扱ってきたステアリングメーカーのサプライヤーとしてサプライチェーンに参加する方が無難かもしれませんね。
まとめ
以上、簡単な例ではありますが、特許文献を上手く活用することで業界動向について示唆が得られるという点について触れました。繰り返しになりますが、ここから得た情報だけでは深みが足りませんので、実際にはこれら得られた示唆について深堀作業が必要にはなってきます。
この作業に有用性を見出してくださった皆様は、是非一度特許検索について学ばれることをお勧めします。オススメ書籍を1冊置いておきますね。
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