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URA TLO 新規案件アサイン後のキャッチアップ方法

 URAやTLOの業務では,自分が全く知らない技術や業界の案件にアサインされることがありますよね。しかもアサインからすぐに稼働するようなケースもあり、「は?そんな短期間でクライアント(研究者や企業人)と話できるようになる訳ねえだろ」と思いつつも、URAやTLOたるものこの場合でも第一回の打ち合わせから専門家と喧々諤々議論が出来ることが期待されています。
 URAやTLOの業務で少々特殊なのは、カウンターパートが教授や研究員等、大学の研究者であることです。このため、業務内容的に近しいコンサルの業務コンサル案件や経営コンサル案件と比べても、より一点集中でディープな内容の議論に入っていくことが多いです。この前提で案件をキャッチアップしていくには、どういう事前インプットが必要か、という点について記事にしてみました。



前提として:MECEに囚われすぎない

 社会人として既に自立している方の場合は、基本思考としてMECEが備わっていると思います。ロジカルな皆さんは、調査に当たっては事前にMECEに論点を洗い出してから、各論の調査(勉強)に着手することが当たり前になっているでしょう。しかし、URAやTLOの案件においては、これに囚われすぎないことをおススメします。なぜなら、案件で扱うテーマというのが、突き詰めるとかなりピンポイントな技術であることが多く、その技術に素人である我々が頑張って用意できるMECE骨子は、抽象度が高くなりすぎて意味をなさないことが多いからです。例を挙げると、とある電池材料に用いられる材料に付与するドーパントの効率的なドープ方法についての技術がテーマの場合、電池材料業界を一生懸命勉強しても、直接の成果にはつながらないことが多いです。また、そのピンポイントに焦点を絞り込んでMECE骨子を作れた場合でも、それが正しいかどうか壁当てできる相手は結局クライアントの研究者しかいません。であれば、キャッチアップ・勉強ではなく、最初からクライアントへのヒアリングとして設計してしまった方が早い訳です。
***もちろん、骨子をなんら検討すらせず手ぶらでヒアリングすればいい、などど言っている訳ではありません。若かりし頃それをやって何度も呆れられました。



キャッチアップの目的は二つ。「目次を得ること」と「ここまで調べたんです」

 さて、新規案件についてキャッチアップしていくための究極の目的は、その案件を通じて切れ味鋭い示唆を出し、例えば売上向上等の結果を出していくことなのは間違いありません。しかしながら、これでは少々粒度が粗すぎて具体的に何をしたらいいのか分かりませんね。
 私が新規案件に入る前の事前勉強で意識していることは、「その業界・領域についての目次を得ること」「ここまでちゃんと調べたんです」と言えること、という二つです。


目次を得る

 これはURA/TLO業務に限った話ではありませんが、事前調査にアホみたいに長い時間を費やしてはいけません。その時間コストがかかっています。そもそも、専門家はクライアント側であり、クライアントが我々URA/TLOに求めているのは専門的な知識を教授してもらうことではなく、客観性を持って情報を整理し、それに基づいた行動を行うことです。このためには、対象案件内で出てくるキーワード・キーインフォメーションの位置づけと、それを深堀しようとした場合に何を調べればいいのかが分かる程度、つまり辞書のコンテンツではなく、目次だけ出来ていれば十分です。
 とはいえ一方で、「お前、コンサルタントならもっとちゃんと自分で事前勉強しろ」「調査量が足りなさすぎる」と叱責されることもあり、新人のうちは中々いい塩梅が難しいですよね。なので、先輩や案件毎にマネージャーがいる場合には細かく報告や質問をし、必要十分なラインを探りましょう。


「ここまで調べたんです」

 少々消極的な考え方ですが、事前勉強を行う目的の一つには「ここまで調べたんだから許してね☆」という予防線を張ること、というのがあると思っています(というか、小心者の私にはこれが何より大事だったり)。ある程度まで勉強しておけば、クライアントから愛想をつかされることもありませんし、分からないことは教えてもらえばいいのです。
 ということで、記事の残りの部分では私が普段行っている「ここまで調べたんだから」の「ここまで」と言えるだろうと感じている情報源と方法を紹介します。

  1. 国立国会図書館 リサーチナビ

  2. 業界地図

  3. 秀和システムズ 図解入門業界研究

  4. 日経クロステック

  5. クライアント研究者の論文

  6. クライアント研究者およびその周辺の特許検索


1. 国立国会図書館 リサーチナビ

 国立国会図書館が、調査支援としてリサーチナビというサイトを運営してくれています。キーワード検索をすることで、関連書籍や「調べ方」などの情報を得ることが出来ます。私は、これを使って検索した後、出版日で絞り込む等し、10~20冊くらいの本を読むようにしています(もちろん、精読するのは2,3冊です)

出所:国立国会図書館 リサーチナビ


2. 業界地図

 皆さんご存じ業界地図です。私はデジタル版を利用しています。業界構造がどのようになっているのか、どういうプレーヤーが存在するのかを一目で理解することが出来ます。また、「オススメ情報源」という項目があるため、こちらも併せてチェックすることをおススメします。

出所:業界地図デジタル(ぼかし加工済)
出所:業界地図デジタル(ぼかし加工済)


3. 秀和システムズ 図解入門業界研究

 秀和システムズが、各業界について入門に必要十分な情報をまとめた書籍を出版しています。平易な言葉でわかりやすく構成されており、いつも大変お世話になっています。秀和システムズのHPからキーワード検索することで、その業界についての出版があるかどうかを調べることが出来ます。


4. 日経クロステック

 技術系のニュースが広く扱われているサイトです。アサインされた案件に出てくるキーワードで検索し、ヒットした記事には目を通しておくようにしましょう。比較的、工学寄りの記事が多いようです。自身が担当する領域を扱っているこういったサイトは、一つ二つは登録しておくことをおススメします。


5. クライアント研究者の論文

 アサインされた案件のカウンターパートとなる研究者の論文には目を通しておきましょう。できれば、クライアント研究者の論文については全文読みをおススメします。特にイントロの部分に、その業界の課題や常識のようなことが記載されていることが多く、上述の目次理解に役立ちます。また、その研究者の複数の論文が引用している論文にも目を通しておきましょう。


6. クライアント研究者およびその周辺特許

 特許情報を調べることで、さらに詳しくクライアント研究者の技術を理解することが出来ます。また、関連する特許を調査しておくと、その技術領域に存在するプレーヤーを知ることが出来ます。特許検索の方法論は巷にあふれていますが,業界動向把握目的での特許文献活用については下の記事にまとめてみました.


まとめ

 以上、今回は新規案件にアサイン、又は新規案件を獲得した直後に行うキャッチアップの方法論について記載してみました。URA/TLOとして働いている方は知的好奇心の旺盛な人が多いため、皆さんにとってもこの作業は意外と苦にならないかもしれませんね。


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