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”物語の中から現実の誰かに届く”Official髭男dismの言葉力

Official髭男dismの歌詞を、”ファンというほどではないけど最近聞き始めて「いいなぁ…」と思ったHIPHOPヘッズの門外漢”がオススメしたい。

そういう記事。
さ、いきましょう。

アンタ髭ダンの何なのさ

冒頭から「ファンというほどではない」なんて失礼な話ですね。
というのも僕は、押しも押されぬ大ヒット曲「Pretender('19 5月)」がチャートを席捲したときには、まだ「なんか流行ってるよね。」くらいの関心度。
そのあと、髭ダン好きの友達から強く勧められたのが、同10月リリースの「Traveler」収録曲から先行配信されていたイエスタデイ並びにビンテージ。
バキバキのラブソングには近頃あまり触れていなかった僕ですが、「なんかいいな」から聴いていくうちに「あれ?この人(作詞・Vo.の藤原さん)すごくない…?」となり、最近Laughterを聴いて完全に喰らってしまった。
そういう感じが僕の髭ダンとの距離感です。
(ていうかこの記事の為にリリースタイミング調べたけど、めちゃくちゃコンスタントにヒットしてるじゃん…。え、すっご。)

タイトルにもしましたが、髭ダンの歌詞に共通している視点、すごさ。
それが、”物語の中から現実の誰かに届く言葉””痒い所に手が届く角度””歌唱力でもって演じて見せた”ことだと思うんです。

物語の中から現実の誰かに届く言葉

髭ダン曲(僕がハマって聴いた中でですが)の、一番僕が喰らった部分がここです。(僕は好きな寿司ネタは先に食べるタイプです)

基本的に、人が物語を楽しむとき。
登場人物に感情移入をするわけですが、殊主人公へ感情移入できるかどうかという点はその作品の満足度にも直結するような部分になってきます。
映画の感想でもよくありますよね。
「主人公に感情移入できなかったからなんかあれだったなぁ…」とか。
髭ダンの歌詞に登場する人物視点はかなり主観的だったり、状況的に切迫している。(Pretender、イエスタデイ、ノーダウト等)
もしくは、主人公とその想いを向ける対象が1対1、つまり二人だけの時間に対しての視点(115万キロのフィルム、ビンテージ、犬かキャット~等)だったり。


誰にでも気軽に話せることじゃない想いを抱えていたり、誰かただ一人をその瞬間に強く想っている人が主人公なわけです。


そーーれは!みんな感情移入しやすいですわ!!ねぇ!そんな!ねぇ!!!
それに、そういう感情はきっとみんなが抱えたままあまり人には話さない類だと思うんですよね。「私のことだ。」って思った人には深く深くオーダーメイド感が残っていく。

物語の主人公への没入度≒物語世界への没入度なわけです。
そこが本当に素晴らしい視点感覚でもって主人公たちが生み出されている。
これってなかなか難しいと思う。
作詞者の自分の話だったり、普遍性の為にもっと広くボヤっと多くの人の心当たりをカバーする歌詞ってのは結構たくさんあるけれど、「ここ!!!」と言わんばかりに主人公の視点をぶっ刺しに来てる。

そのぶっ刺さった主人公に藤原さんは声をかけるような展開を用意するんですよね。それはぶっ刺さったリスナーの心に浸透していく。

痒い所に手が届く角度

これに関しては前の章で結構触れてしまっていますね。
よく聞くラブソング論に”『愛してる』を言わずにいかにそれを表現するか”というものがありますよね。その秀逸さ、面白さ。
藤原聡という人は、稀代のパンチラインメーカーです。

「僕は君を隣で見続けていたい」を
「主演は君で僕は助演で監督でカメラマン。目の奥にあるフィルムの話さ。~中略~フィルムは用意したよ一生分の長さをざっと115万キロ(115万キロのフィルム)」と言い換えて、最後にタイトルの種明かしをしたり

イエスタデイでは
「何度失ったって取り返してみせるよ~中略~君の笑みを 
例えばその代償に誰かの表情を曇らせしまったっていい」とかなり強い表現で対象への『愛してる』を宣言したかと思えば、「本当はいつでもだれもと思いやりあっていたい」と逡巡させ、その後それよりさらに強い表現でもって、それらの迷いを振り切って想いを遂げようと動き出す主人公を描く。
この”気持ちの揺れ”があるのとないのとでは没入度は全然違ってくる。

で、次はビンテージ
「綺麗とは傷跡がないことじゃない 傷さえ愛しいという奇跡だ」
いやもう……言う事ないでしょ。勝ちよ勝ち。こんなもん。
こんなパンチライン、思いついたら夜中でも「きた!!!俺天才!!」って叫ぶだろ。黙々と書いてたら許さないぞ。ガッツポーズしろ。祝い酒しろ。

あと、そもそも「犬かキャットかで死ぬまで喧嘩しよう!」というタイトル。すごくない?!
「ずっとくだらないことでも喧嘩しながら一緒にいましょうね」を具体性をもって、示すことで頭に浮かび上がる映像の画質が別物になる。
しかも「犬」と「キャット」、これ価値観の違う二人で言い合ってるというのを、表現しつつ言葉面の違和感で印象を強くする効果も生んでる。

エーーグイワードセンス!勝ちたい広告代理店!藤原聡を雇え!!!笑


物語世界を演じて見せる歌唱力

まぁもうこれはいわずもがなというか。
何をいまさらって話ですよね。

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口喧嘩なんかしたくもないから
最新の注意を払って生きてた
率先して自分のことをけなすのは
楽だけど虚しくて

悲しい過去なんか1つもないのが
理想的だって価値観を持ってた
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冒頭のここ、聞いてみてください。
「口喧嘩なんか”し”たくもないから」と
「”率”先して自分のことをけなすのは」
ここの ” ” 内の音聞いてください。
意図的に声の要素を減らして息を強くしてるんです。
ここを強く協調して、他の部分のおだやかな発声と差別化することで
「したくもない」「率先して」ここへの想い…こだわりの強い自身を振り返って心からそうしていたなぁというニュアンスが強くなる。
で、これと同じ手法でそのあとの
「悲しい過去なんか1つもないから」の「ひとつ」も同じ
「ひとつたりとも、ただのひとつも!」という悲痛なまでの気持ちが籠る。
辛かろうその人の恐れや執着や後悔が冒頭のこの発声で強く演じられる。
その後の展開は聴いてみてください。
これだけそのこだわりに縛られていた人が”君と出会って気付かされた”となると、この冒頭のニュアンスの大切さがお分かりいただけるはず。

Laughterの冒頭もちょっとだけ行ってみましょう

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鉄格子みたいな街を抜け出すことに決めたよ今
それを引き留める言葉も気持ちだけ受け取るよ
どうも有難う
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この「決めたよ」の伸びやかにタメを取って
「今」の爽やかなファルセット。
「どうもありがとう」の涙声。
これらで”揺るがないこの場を飛び立つ決心”と
「本当にその気持ちは受け取って、それでも行くんだ。」という心情を
一気に感情表現をしているのも印象的。
ちなみに、藤原さんはこの喉を少し締めて感情を表現する「涙声」を効果的に多用しています。
イエスタデイは特に凄い使い方してます。聴いてみてください。

まとめ:パンチラインメーカーOfficial髭男dism

かなり、足早に語ってきましたが、僕のすごいじゃんと思ったところ
おわかりいただけましたでしょうか。もうすでにファンの方なら「んなこたぁわかってるよビギナー!」かもしれませんが。

「言葉の力を音楽で、リスナーの心象風景と一体化させる。」
これがどれだけ難しいことか。
でも、それをやり遂げていることには本当に驚かされる。
直接その人がリスナーに言葉を語る音楽ももちろん素晴らしいし、
僕は元々好きなのはそういう感じのものだけど。
一度リスナーが自分の中に落とし込んでから自己治癒のような感覚で言葉を染み渡らせていくのも、ひとつ音楽の素晴らしい力なのかもしれない。

これだけ語りはしましたが、髭ダンについて曲以外ほとんどしらない門外漢。普段HIPHOPばっかり聴いてるみたいな僕にも、しっかりと刺さる確かな技量と歌詞の面白さを、感動そのままに記事にして残しておこうと思った次第です。

てかもう、十分ファンなのでは…?



いやいやそんな。ねぇ。

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