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ドイツ旅行2016:デュイスブルク北・景観公園(Landschaftspark Duisburg-Nord)

2016.09.20

Landschaftspark Duisburg-Nord
直訳するとデュイスブルク北・景観公園となる。実際どんな場所かというと、閉鎖された製鉄所を保存して一般公開している公園だ。
景観と言うと急に小難しく感じるしそれだけでは廃製鉄所を保存している場所という実態は伝わってこないが、それでもなお景観という言葉を名称に付けているのは、「地元の人にとっていつも眺めていた(目に入っていた)製鉄所の高炉」「ルール工業地帯の産業を支え、地域の風景を形作っていた製鉄所の高炉」がある日突然なくなってしまうのではなく、工場閉鎖後も日常の風景の一部として(景観として)保存し続けようという意志が込められているということだ。

概念としては産業遺産に近いのかもしれないけれど、産業遺産と言った場合は産業史や技術上の遺産価値を見出す必要がある。
産業景観と言った場合は、もっとより広く、景観に対する人々の記憶を維持することに価値を置いている概念になるだろう。産業史的にはありふれた工場であっても、その景観が人々に愛着を持って受け入れられている場合もあり得るだろう。そうした場合でも、景観とすることで地元の愛着性=アイデンティティのために保存するという考えも成り立つ。
それは、今の世代の記憶に寄り添うという意味で保守的(30年後、次の世代が見た時、それは最初から公園として保存された姿であり「現役時代を知らない」人々の記憶はまた違ったものになっているはずだから)な考え方ではあるが、廃工場をそのまま残すために社会的な合意を形成するための一つのロジックであることは確かだと思う。

なお、Landschaftspark Duisburg-Nord では「景観」概念の中に製鉄所立地前の農業景観だったり自然景観(いわゆる「原風景」)も含意していて、廃工場を放っておいた場合に朽ちて自然に還っていく遷移過程や土壌についても着目しているようだが、さすがにそこまで含めると観点が広がりすぎるので、私は廃製鉄所として楽しませてもらうことにした。

Landschaftsparkについて調べる際にwikipediaも参考にしたが、日本語版には全く情報がないのに対して、英語版では「記憶の重要性」 "Importance of memory" が立項してあってLandschaftsparkの設立理念について明確に説明してあった。
同じく英語版では"Industrial nature"という項で製鉄所立地前の農業景観や自然景観についても言及している。

ここが公園の入口。
入場料は不要。公園なので誰でも自由に入れる。しかも24時間いつでも入れる。夜はライトアップや光の演出がある(他の人の写真を見るとこれがまたカッコいい)ので、1日の中でも時間を変えていくのも楽しそうだ。夜はほんと行ってみたい。

ガイドツアーもあるようだが、基本は公園なので自由に見て回ってよい。
閉鎖された製鉄所がそのまま保存されているので見どころはたくさんあるのだが、まずは、一番の見どころである5号高炉 Hochofen 5 を見て行く。

高炉の基部から見て行くが、とにかく質量感に圧倒される。この質量で、現役時代はこの中に2,000℃を超える溶けた鉄が煮えたぎっていたのだ。
手前の屋根が架けてある部分が溶けた銑鉄を高炉から取り出す場所で Gießhalle と呼ばれる。

とにかく配管がすごい。

口が2つあるから、水冷用の水の循環口かな。
炉内温度が2,000℃にもなる高炉の内側には耐熱煉瓦が貼ってあるが、そこにさらに水を循環させて水で冷やす仕組みもある。これはそのためのものだろう。

調子に乗ってどんどん昇っていく。特に立ち入り禁止の表示もないので自由に昇ってもよいのだが、こうした工場設備の中を自由に歩き回るという経験がないものだから、なんとなく不安になる。
それに、工場見学をした人ならわかると思うが、工場施設に入る時はヘルメットをかぶって注意事項の説明を受けて案内役の社員の方に引率されてというのが普通だ。でもここでは、そういったものは一切ない。階段と通路があって、行けるところまで自分でぐんぐん進んでいくタイプだ。不安になりながらも、徐々に自由探索の環境に慣れてきて、ゲームのダンジョン探検のような感覚で面白くなってくる。
第4層に到達。高さは51.65mだ。ずいぶん昇ったな。
そろそろ足元がむずむずしてくる高さだ。

ここが炉としての高炉の最上部になる。高炉の最上部などというのは早々見ることができるものではないが、ここでは見学自由である。高さは54m。

炉の上にはさらに櫓が組んであって、様々な施設が載っている。
そして、ここが建物としての高炉の頂上になる。高さは70mだ。眺めも良いのだが、手摺りもそんなに高いものが付いているわけではない。正直足がすくむ。
写真の滑車は、鉄鉱石やコークス、石灰石といった原材料を高炉に投入するために、引き上げるためのもの。確かにこの施設は高炉より高い位置にある必要がある。

バケットに入れられた原材料がここを引き上げられてくる。つまり、70m下まで通じている穴だ。

高炉のてっぺんだけあってまわりが良く見える。製鉄所内の設備を観察するにはもってこいの場所だ。
このつくしのようなものは高炉に送り込む熱風を作り出す熱風炉だ。高炉の中に空気を吹き込むのも、普通の空気を送り込むよりも熱風を送り込んだ方が効率が良い。熱風と言ってもドライヤーで髪を乾かすような熱風ではなくて、1,200℃にもなるような高温の熱風を作り出している。せっかく溶けた鉄で煮えたぎっている高炉があるので、高炉で発生したガスを送り込んで、それで空気を加熱するというエネルギー回収を行なう仕組みになっている。これはさらに追加で燃料を燃やして加熱する外燃式という形式のもの。

5号炉の頂上から見た2号高炉(手前)と1号高炉(奥)。それぞれ熱風炉を3基ずつ伴っている。
この2基は、5号炉よりも先に1982年に廃炉となっている。

原材料の貯蔵バンカーと搬入用のクレーン。四角く区切られていてジュエリーケースのようだ。上から入れた原材料は、地下に搬出用の設備があって、下から出して高炉に投入する仕組みになっている。

高炉の排ガスを利用した施設のようだけど、何だろう。発電所かな。

バンカーの施設跡。上部構造は取り壊されて、基礎だけが残されている。ロッククライミングができるらしい。

原材料の荷下ろし用の橋形クレーン。その形はドイツでもワニに喩えられていて、Krokodil というニックネームが付けられている。

下水処理場の冷却ファン

写真左の緑色のタンクは直径45m、深さ13mあり、中には水が貯められていて、タンク内でダイビングを楽しむというアクティビティも用意されている。

溶けた銑鉄を運搬するためのトーピードカー。実は駐車場から入っていくと一番最初に「展示」されているのだけど、やっぱりまずは高炉の紹介からしたかったので、順序的に記事の終わりでの紹介になってしまった。
トーピード(torpedo)とは魚雷のことで、その形が魚雷に似ていることがそう呼ばれている。日本語では混銑車と名付けられている。
内側には耐熱煉瓦が貼られていて、銑鉄が偏って固まらないように回転させながら運搬した。
破棄されて30年経ち苔むしている。

手前の坩堝のような形をした車両は溶けた鉱滓(不純物)を運搬するためのもので溶鋼鍋台車と呼ばれる。こちらはカスなので扱いが雑になっていて、オープンエアで運搬する。
こちらも台車に草が生えている。

トーピードカーと連結して展示してある。


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