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リターン情

 帰宅すると玄関先でゴキブリが整列して出迎えていた。
「以前あなたに見逃してもらった者です。今はこれだけ家族が増えました」
 わざわざよかったのに。人の情けを信じてしまったゴキブリのことを、君は哀れに思った。それはとても気まぐれなものなのだ。キッチンを抜けてリビングに入ると扉を閉めた。
 今見たものは、もはや現実かどうかわからない。
 あらゆる扉は世界を分断する。

 君は冷蔵庫の扉を開けた。開けることのできる一番近くにあった扉だったから。痩せた人参と目が合った。君は扉を閉めることができない。電力が無駄に放出されていく。無駄にこぼれた冷気に触れて折句の扉が開いた。かきつばた。野菜とタッパーとチーズの隙間を縫って言葉があふれ出てくる。

かび臭い、枯れ果てた、通い合う……。きりんに引かれ、北の国より、厳しい君の……。続かない、月の愛、通過する……。

かえせないきみのなさけにつぶされて
はためいわくな誕生日会

 まだ疑問はくすぶっている。彼らはどこであんな礼儀を学んだのだろう。謎は、悪意を持てば恐怖になり、好意があれば関心になる。
 どちらだろうか。
 君はまだ自分の態度を決めかねていた。

永遠と隣り合わせの寝室で
駆除と叫んでさしたスプレー


#詩 #小説 #短歌 #ゴキブリ

#折句 #かきつばた #江戸仕草



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