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【後編】「1985年6月15日 国際青年年記念 ALL TOGETHER NOW」を濃密に振り返る

※前回「1985年6月15日 国際青年年記念 ALL TOGETHER NOW」を濃密に振り返る【前編】」からの続きです。

ロックさん
「さてここでこのイベント最大の目玉である、13年振りに再結成のはっぴいえんどが登場する。今でこそ、はっぴいえんどといえば日本語ロックの始祖として最上級レジェンドの位置付けだけど、このALL TOGETHER NOWの時はまだ再評価ブームの前で、少し唐突感があったというのが当時の雰囲気だったんだ。
私も、はっぴんえんどの再結成に喜んだというよりは、大滝詠一・細野晴臣の2大巨頭が並び立つ姿とか、そこに松本隆・鈴木茂が加わったスーパーバンドを楽しむような感じだったよ。」

ロールくん
「はー、なるほど~。ステージの方はどんな感じでした?」

ロックさん
「これが実は賛否両論で。とういうのも、『12月の雨の日』や『風をあつめて』などの代表曲を演奏したのだけれど、85年当時の流行の、ちょっとニューウェーブっぽいピコピコしたアレンジで演奏したので、オールドファンにはかなり違和感があったみたいだね。私は先入観が無かった分、割とすんなり受け入れたけど。
興味深かったので、後に御本人たちが色々な媒体でコメントした内容を追っていたんだけど、大滝さんと細野さんの間で、不仲とまではいかないけど、若干ギクシャクしていた部分があったみたい。
これは想像だけど、細野さんはすでにYMOで大成功を収めた後で、大滝さんは不遇の70年代を乗り越え『A LONG VACATION』という大傑作アルバムを作り上げ少し遅れて復活した流れもあり、もしかすると大滝さん側が気負った部分があったんじゃないかと邪推しているんだけどね、
でもそもそもが知性と品位に溢れた方々なので、そんな感情はまったくオモテに出すような事はなく、スマートに再結成ライブをこなしたカタチだったかな。
とにかく、個人的には4人が一緒に演奏してくれたこと、特に人前にめったに出てこない、生の『動く大滝詠一』を拝めたことは、一生の思い出になったね…..」

再結成したはっぴんえんどのステージ

ロールくん
「今となっては4人はもう揃わないわけですからね…」

ロックさん
「そうだね。その意味では、次に登場する、この日限りのサディスティック・ミカ・バンドならぬ『サディスティック・ユーミン・バンド』も、
今となっては再現不可能なスーパーユニットだ。
加藤和彦・高橋幸宏・高中正義・後藤次利の第2期サディスティック・ミカ・バンドに、坂本龍一が加わり、ボーカルは松任谷由実
これ以上ない豪華なメンバーなんだけど、まだあまり売れていない70年代から、それぞれのレコードに参加して一緒に作品を作ってきた旧知の間柄なんだよね。
でも、ユーミンはミカ・バンドに強い憧れがあったらしく、1曲目は自分の持ち歌『ダウンタウン・ボーイ』だったにもかかわらず、緊張で声が震えているのがハッキリわかったよ。
その後は緊張もほぐれて、メンバーそれぞれ1曲ずつメドレーを披露したんだけど、ミカ・バンドの代表曲『タイムマシンにお願い』では、なんだか同窓会でもやっているような、終始楽しそうな雰囲気が印象的だった。
そして最後は、小田和正・財津和夫を呼び込んでの『今だから』のライブ演奏。このイベントに先駆けてユーミン・小田・財津の3人が作詞作曲、演奏はこのミカ・バンド+坂本龍一でレコーディングされ、シングル盤で発売された曲。ちなみにいまだにCD化されていない曲でもある。権利関係が色々あるのかな。」

サディスティック・ユーミン・バンド(加藤和彦・高橋幸宏・高中正義・後藤次利・坂本龍一)+小田和正+財津和夫のステージ

ロールくん
「この豪華さと希少な感じは、さすがに僕にもよく分かりますよ。」

ロックさん
「はっぴんえんど~サディスティック・ユーミン・バンドの2つのステージは、さながら70~80年代半ばまでの、日本のロックを総括するような、圧巻の流れだったよ。

そしてこの日の実質的なトリとして登場したのが、佐野元春 with THE HEART LAND。80年のデビューだけど、82年の大滝詠一・杉真理との『NIAGARA TRIANGLE Vol.2』と『SOMEDAY』、日本でほとんど知られていなかったラップを大胆に導入した84年の『VISITORS』で台頭してきていて、このALL TOGETHER NOWが開催された時点では紛れもなく新世代を代表するアーティストだった。
しかも85年2月には国際青年年のテーマ曲として『Young Bloods』を発表していたので、佐野元春がトリを務める事は全く違和感が無かったね。」

ロールくん
「なるほど。ALL TOGETHER NOWへ至る流れがよく理解できましたよ。」

ロックさん
「しかも、このステージに、当初出演者として発表されていなかったサザンオールスターズがサプライズ登場したんだ。サザンについては今さら解説不要だと思うけど、この頃は前年84年にアルバム『人気者で行こう』をリリース、ALL TOGETHER NOW後の9月に初期の傑作と言われる『kamakura』をリリースする時期なので、乗りに乗っていた時期だね。
佐野元春と桑田佳祐は、いわゆる『同級生』の間柄でもあったけど、それまでこの2組が絡んだ事は無かったんだ。
たしかこの時、また少し雨が降り出したんだけど、そんな天候に関係無く、会場は爆発的に盛り上がったよ。」

ロールくん
「いやぁ、これはアツイ感じですねぇ。」

ロックさん
「余談だけど、ALL TOGETHER NOWの翌週にラジオ番組『桑田佳祐のオールナイトニッポン』の放送があって、桑田がこのイベントの裏話を色々話していたんだけど、その内容が最高に面白かった。
『佐野君がせっかく作りこんだ段取りを自分がアドリブでほとんどぶち壊してしまい、彼の顔が引きつっていたので、ステージ上で謝った』とか(笑)。
その他にも
『エレベーターの中で初めて小田和正さんに会って話しかけられたが、小田さんの声が小さ過ぎて聞き取れないので3回聞き返したら怒られた』
『加藤和彦さんは楽屋でテニスのシャドースウィングをしていてやっぱりお洒落だなぁと感心し、ふと自分のマネージャーを観たらゴルフのスウィングをしていて情けなかった』
『細野さんに初めて会ったけど、尊敬するあまりまともに会話できなかった』
『はっぴいえんどやユーミン、サディスティックミカバンド、坂本龍一といった人たちと同じステージに立てて素直に嬉しかった』
等々、興味深いエピソードばかりだったなぁ。」

ロールくん
「そういうエピソードを聞くと、本当にこのALL TOGETHER NOWまでは、ジャンルとか世代の間であまり交流が無かった様子が分かりますね。」

ロックさん
「そうだと思うよ。実際ALL TOGETHER NOW後は、このイベントが縁で一緒に作品を作ったりする機会ができたミュージシャン達もいたので、そういう意味でも歴史的に重要なイベントだったかもしれないね。
この日のエンディングは、出演者ほぼ全員によるイベント・テーマソング『ALL TOGETHER NOW』(作詞:小田和正/作曲:吉田拓郎/編曲:坂本龍一)で、これはまさにwe are the world的な、スーパースター達によるリレー形式の楽曲。日本人特有の照れみたいのもあって、ぎこちない感じもあったけど、1回限りの希少なセッションではあったかな。

かなり細かい話になったけど、以上がALL TOGETHER NOWについて、私が観たり聞いたりした事だね。もっとも濃密に音楽を聴いて影響を受けていた時代の、とても大事な思い出のひとつだよ。

少し蛇足だけど、最近AIで音楽を生成することが流行っているでしょ?ポール・マッカートニーの最新作にジョン・レノンをハモらせたり、オアシスを疑似再結成させたり。時々妙にリアルなものがあって、個人的には複雑な気分になるよ。たしかにお遊びとしては面白いけど、存命のミュージシャンであればこの先、夢の共演が実際に起きる可能性はある訳でしょ?疑似とはいえAIでそういうものを聴いてしまっていると、夢が現実になったとき、感動が薄れてしまいそうな気もするんだよね….」

ロールくん
「うーん、AIの音楽への活用については、それだけで何時間も議論できそうですね…
とにかく、ALL TOGETHER NOWやその前後の時代のお話で、J-POPや日本のロックをあらためて勉強してみたくなりました。」

「1985年6月15日 国際青年年記念 ALL TOGETHER NOW」セットリスト

●吉田拓郎/オフコース
M1 おまえが欲しいだけ
M2 Yes-No

●アルフィー
M3 ジェネレーション・ダイナマイト
M4 鋼鉄の巨人
M5 星空のディスタンス

●ラッツ&スター/アン・ルイス/山下久美子/白井貴子
M6 Aquarius ~ Let the sunshine in
M7 You've got a friend
M8 こっちをお向きよソフィア
M9 So Young
M10 ロックンロール・ウィドウ
M11 今夜はIt's all right
M12 Chance!

●武田鉄矢
M13 贈る言葉(アカペラ)

●財津和夫/チューリップ・ピックアップ・メンバー/ブレッド&バター/つのだひろ/チェッカーズ
M14 涙のリクエスト(アカペラ)
M15 I just call to say I love you

●南こうせつ/イルカ/さだまさし
M16 まんまる
M17 愛する人へ
M18 すべてがラブソング
M19 秋桜
M20 なごり雪
M21 神田川

●はっぴいえんど
M22 12月の雨の日
M23 風をあつめて
M24 花いちもんめ
M25 さよならアメリカ さよならニッポン

●加藤和彦/高橋幸宏/高中正義/後藤次利/坂本龍一/松任谷由実/小田和正/財津和夫
M26 ダウン・タウン・ボーイ
M27 メドレー Merry Christmas, Mr.Lawrence(戦場のメリークリスマス)~シンガプーラ ~ 京城音楽(*注)~渚・モデラート~BREAKING POINT~シンガプーラ  
M28 タイムマシンにお願い
M29 今だから

●佐野元春 with THE HEART LAND/サザンオールスターズ(シークレットゲスト)
M30 Young Bloods
M31 New Age
M32 Happy Man
M33 メドレー 悪魔とモーリー ~ マネー~ツィスト・アンド・シャウト
M34 You really get hold on me
M35 夕方Hold On Me

●全員
M36 ALL TOGETHER NOW

(*注)当時のセットリストでは「中国女」と発表されていましたが、正しくはYMOナンバーの「京城音楽」です。

(おわり)




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