地元の服屋のお姉さんの話

高校時代にとある服屋のお姉さんが好きだった。
どれほど好きだったかは分からないが、たぶん恋だったと思う。


僕の地元沖縄県の伊良部島には服屋がない。
あったかもしれないが、高校生の僕が欲しがる服は売ってなかったはず。
なので隣の宮古島に買い物に行くん。

洋服も本もCDも、靴も楽器も何もかも宮古島に買いに行ってたし、そこでしか買えなかった。

船で約15分、そこまで時間はかからないが最終便が19時前なので学校後に行くのは面倒。
週末の休みの日に友達とよく出かけてた。


と言ってもそんなに沢山のショップがあるわけじゃない。
そんな中とあるお店に素敵な女性スタッフがいた。

僕が高一の頃に出会ったそのお姉さん。年齢を聞くことはなかったが、多分20代半ばだったかも。

「めちゃくちゃ可愛いですね。地元?」
「ううん。地元は名古屋だよ」

色白でタレ目で笑顔が柔らかくてラフな話し方のその方は、笑顔と本当にラフな言葉で僕と話してくれた。


事あるごとにその店へ通った。
学生でバイトもせずお金のない僕が通う頻度なんてたかが知れているが。


ある日、宮古地区の陸上競技大会があった。
全生徒で宮古島まで応援に行くのでその行事が好きだったのだが、その日は生憎の雨模様。
そんななか「雨だし、学校に戻って午後から授業」とのアナウンスが。

「テンション返せや!」
校長先生にそう怒ったことで呼び出しを食らった僕は絶対に登校しろとのお達しが出ていた。

僕の高校は伊良部島。船で戻らなきゃ。その前に、帽子が買いたくてそのショップへ寄ってみる。
お姉さんがいた。

「あれ?学校じゃないの?てかずぶ濡れじゃん」
「お姉さんに会いたくて」
「はいはい」
「雨で髪型が崩れたので帽子ください」
「セットしないしなさいよ」

会えたのが嬉しくてしっかり覚えている会話。

お姉さんの「帽子欲しいわけじゃないんでしょ?安い適当なやつにしなさいよ」というアドバイスのもとダサい帽子をゲットして帰宅。
校長に怒られるので学校はサボった。


文章だし登場人物が少ないので親しげに感じれるが、実際の僕とお姉さんはそこまでじゃない。
相手は仕事中だし、会話しても短い時間だ。
当時の僕も「たまに来る高校生だって感じだろな」くらいに思っていた。


月日が流れ、卒業が近づいたある日

そのショップへ行った。
前から欲しかったニット帽があるのだが、僕には値が張る商品だ。
いや高くないんだよ。6,000円。
けど当時の僕には悩む値段だった。

手にしてる僕にお姉さんが声をかけてくれた

「それ気に入ってるよね」
「お。バレてた」
「この間も見てたから」

覚えてくれてるんだという嬉しさと、この値段で悩んでいるという恥ずかしさで複雑な気分だった。

しかしすぐそんな気持ちも一変した。

「そういえばさ、もう卒業だよね」
「なんで知ってるの?」
「だって3年間も通ってるじゃん」

嬉しかった。
ちゃんと3年間も僕のこと認識してくれていたんだと。
すごく可愛らしくて好きだったけど、どこかで「こんなガキ相手にしないし」という気持ちから、僕はすごく曖昧な想い方をしていたんだ。
まだ子供だった僕にはその嬉しさを隠す余裕はなく、絶対に表情に出ていた。絶対に。

「これ買います。素敵なお姉さんとの記念に」
「相変わらず言うねー」

照れ隠しもあったが、その言葉に嘘は無かった。

「じゃあ3,000円ね」
「6,000円じゃないの?」
「卒業記念で私が半分だすよ」
「え?いいの?」
「3年間も通ってくれたんだし」

完全にやられた。大人はズルイよ。


「ありがとう。これ大事にするね」
「こちらこそ。まだ島にいるでしょ?島でる前にまた来なよ」
「どうだろう。あまりお姉さんの顔見ると島出れなくなっちゃう」
「なんでよ笑。けど私も地元に帰っちゃうよ」
「そうなんだ」

その日がお姉さんと最後に会った日。


僕は卒業したら名古屋に行くのが決まってたが、なんとなくお姉さんには隠してた。
どこかですれ違えたかな。

今思い返してもすごくタイプなルックスだったし、実際の性格は知らないけど僕はお話してて心地よかった。

そのニット帽は15年経った今でも愛用してる。
お姉さんのこともたまに思い出す。


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