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「ボランティア情報2019年4月号」(とちぎボランティアネットワーク編・発行)・市民文庫所収『黄色いベスト運動―エリート支配に立ち向かう普通の人びと(ele-king books)』インタビュー 堀茂樹、松尾匡、國分功一郎ほか

『黄色いベスト運動―エリート支配に立ち向かう普通の人びと(ele-king books)』インタビュー 堀茂樹、松尾匡、國分功一郎ほか 定価1600円+税 発行Pヴァイン 発売日販アイ・ビー・エス(株)


評者 白崎一裕

 ノートルダム大聖堂が火災で大きな被害をうけたあと、世界中から寄付金などが集まって、フランスのマクロン大統領なども「大聖堂再建にむけて、予算措置など尽力する」と声明をだした。パリ観光などに出かけたことのある日本人の大半は「やあ、よかった、よかった」と傍観者的な感想をもったのかもしれない。しかし、地元フランスでは「ちょっと待った!!観光資源の大聖堂には金を出すのに、国内の貧困問題には無関心なのか!!」と大きな反発の声があがり、2018年11月頃からフランス全土に広がった<黄色いベスト>のデモが再び巻き起こった。黄色いベスト?!日本の大手マスコミやネット上の大半のニュース報道も、この運動の本質的な意味を伝えていない。「フランス人はデモが好きだから」からにはじまって「マクロン政権の構造改革に反対の人たちのデモだが、一部の過激派が先走っているだけだ、心配することはない」というオチがつき、「これは、大衆迎合的なポピュリズム運動の一種」と専門家風の冷笑的な解説がつくのがおきまりの最終パターンになっている。本書は、それらの凡庸なゴミ言説を一掃してくれる。
箇条書き風に要点をまとめてみよう。


1、<黄色いベスト>とは、交通整理や交通事故時などに着用するもので、フランスでは誰でも車に積んでいるものである。つまり、「普通の人びと」=「庶民」を象徴する道具なのだ。
2、<黄色いベスト>の人々は、マクロン政権の「燃料税」の値上げに反発する人々の動きからはじまった。自動車燃料への課税をして環境にやさしいエコロジー政策を実現するというきれいごとの陰には以下のことが隠されている。
3、フランスは、パリ中心の中央と地方の格差が大きい国である。地方では公共交通機関がほとんどなく、マクロン政権の「燃料増税」は、安いディーゼル車を必要とする地方の庶民の生活を直撃した。これは、東京中心のわが日本、そして、栃木県の状況とも重なってくる。
4、3は、何を意味しているのか?現代の政治課題の軸は、中央VS地方、そして、グローバルVSローカルということなのだ。本書で注目のインタビュー、仏文学者の堀茂樹さんは、<黄色いベスト>は、「エニウェアの人とサムウェアの人」の対立だという。つまり、エニウェア=グローバル化の時代にどこでも暮らせる人。学歴が高く、能力と語学力と文化をもっている上流階級の人。そして、サムウェア=ひとつの土地に根付いて「そこ」に愛着をもって「そこ」で生きていく「普通の人々」。これらの人々の政治的対立なのだ。
5、この運動には、極右から極左までのグループが混じりこんでいるが、大半は特定の政治組織とは無縁の「普通の人々」である。大手マスコミは、この人たちを「排外主義の右ネジ周りのポピュリズム」と悪口をいいたがるが、まったく当たっていない。
6、5は、何を意味しているのか?現代のもう一つの政治課題の軸は、右か左かではなくて、上の階級VS下の階級=超富裕層VS貧困層だからだ。
7、<黄色いベスト>には、特定のリーダーがいない。これは、弱みでもあるが、強みでもある。これまでの議会制や特定のイデオロギーに支配されないアマチュア的運動といえる。
8、<黄色いベスト>に類似の運動は、最近、欧米を中心に急速に台頭してきたが、先にも述べたように、大手マスコミは、これらを「ポピュリズム(大衆迎合主義)」としてレッテルをはり罵倒してきた。
9、しかし、歴史的に「ポピュリズム」は、エリート支配(エスタブリッシュメント支配)に対して対抗する庶民の運動体だった。また、議会制に懐疑的で、直接民主主義的な行動をとってきた。
10、その証拠に、<黄色いベスト>運動は、スイス型の「市民発議の国民投票制」を要求している。

以上!

評者は、<黄色いベスト>が今後の世界政治運動に与える影響を注視したいと思う。たとえ、一過性のように<黄色いベスト>が終息しても、世界史的転換点を象徴する「普通の人々」の強い思いは消え去ることはないだろう。


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