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路上の異体字~庚申塔編~

意味するところは同じなのに、一般に使用される字体とは容貌が違う「異体字」。予測変換のみならず、タイプミスの訂正すらしてくれるコンピュータを使ってばかりでは目にする機会は少ないですが、街へ出て目を凝らしてみると意外にたくさんの異体字が使われているものです。

今回は、街なかの異体字の中から庚申塔に彫られているものをいくつかご紹介します。

「仏」の異体字


静岡県にある庚申塔

1つ目は静岡県内にある庚申塔です。笠付の角柱型で、上部に太陽と月が描かれ、下部には横に並んだ三猿(見ざる言わざる聞かざる)が彫られています。

正面中ほどには「東阿閦仏あしゅくぶつ」の文字が彫られていますが、この「仏」の部分が「にんべんに西國」の形状をした異体字となっています。

「州」、「世」の異体字


神奈川県にある庚申塔①

続いて、神奈川県にある庚申塔です。駒形で下部に立っている三猿が浮き彫りされています。

この右下部に「相州大住郡」の文字がありますが、この「州」が「刕(刀が3つ)」の異体字になっています。
さらに中下部には「二世安楽所」の「世」が「丗」という異体字で書かれています。「丗」という異体字は石仏では比較的頻繁に使われている印象で、例えば「馬頭観世音」の「世」は結構な割合で異体字の「丗」になっています。

「剛」の異体字


神奈川県の庚申塔②

続いても神奈川県内の庚申塔です。駒形をしているこちらの上部には、太陽と月が、そして下部には胡坐をかいた三猿が浮き彫りになっています。

中央部に「青面金剛童子」と彫られていますが、よく見ると「剛」の偏の部分の「山」が「止」になっており、異体字が使われているのがわかります。

「講」の異体字


神奈川県の庚申塔③

写真左側の庚申塔は、シンプルな角柱型をしていますが、向かって右側の面に彫られた「講中」の文字に、「講」の異体字が使われています。旁の「冓」の下半分「冉」が「𠕋(冊に横棒を1本加えたもの)」になっています。

「塔」の異体字

神奈川県の庚申塔④

最後に紹介するのは舟形の庚申塔です。下部には1体の猿が描かれています。

中央部に彫られた「庚申供養塔」の文字は一画一画がはっきりと楷書で書かれていますが、「塔」の字は草冠が2つの点で省略されています。
また左部の日付に「廿(20の意)」が使われています。これは現在では固有名詞に残っている程度の漢数字ですが、石仏には多く使われている印象です。


なぜこのような異体字が使われているのでしょうか。わざわざ複雑な文字を採用したり、彫刻に手間がかかっているように見える点から、そこには労力の低減や、スペースの制約への対処とは違った意図があるように思われます。私たちが日ごろ見過ごしている文字には、過去にそれを記した人の願いや工夫が込められているものがあるのかもしれません。

その意図がわからなくても、何食わぬ顔で他の文字と肩を並べている異体字を見つけた時、驚きと共に嬉しい気持ちにもなるものです。毎日のように通る道にも、よく見てみると不思議な文字が見つかることがあります。皆さんも今度外へ出るときは、街に書かれた文字を改めて観察してみてはいかがでしょうか。

弊会では、今後もさまざまな路上の気になるモノを紹介していく予定です。お楽しみに!


東北大路上観察同好会(仮)は仙台を中心に路上や街を観察するサークルです。定期的に観察報告会を開催しており、今秋には刊行物の製作も計画しています。
今年の4月に結成されたばかりのサークルですので、学年を問わず絶賛部員募集しております。興味のある方はお気軽にご連絡ください。

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