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強みは差別化ではなく顧客が感じる価値

[要旨]

静岡県浜松市にある居酒屋では、同市に本社がある会社のサラリーマンをペルソナに設定し、「遠州人であることに誇りを感じて遠州自慢ができる店」という顧客体験価値を提供するようにしました。このことにより、同店は顧客に価値を感じてもらえるようになり、それが同店の強みになっています。

[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの佐治邦彦さんのご著書、「年商1億社長のためのシンプル経営の極意」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、ある鶏肉専門の飲食店では、顧客の要望に応えるために、牛肉や魚のメニューを増やしましたが、このことによってオペレーションが複雑化し、従業員の方が疲弊してしまったことから、逆に、売上が減少してしまうということが起きるので、顧客を失いたくないという不安を回避することに目が向けて、誤った方針をとってしまうことのないように、注意が必要ということについて説明しました。

これに続いて、佐治さんは、静岡県浜松市にある居酒屋の「濱松たんと」が、ペルソナを使って事業改善に成功した事例をご紹介しておられます。「(『濱松たんと』は)かつては、自社の強みになかなか気づくことができませんでした。そのため、業績も不安定な状況が続き、その状況を打破するために、様々な取り組みを行なっていました。(中略)しかし、どの取り組みも成果は短期的なもので、長くは続きませんでした。そこで、あるミッションを掲げることにしたのです。そのミッションとは、『遠州人が誇りに思う店』というものでした。

浜松市に本社がある大手企業のサラリーマンをペルソナ(最重要顧客)に設定して、支社の仲間が本社に出張で来た時に連れて行く店という存在です。この店に地方の仲間と一緒に行けば、遠州の名物を堪能できるだけでなく、名所や文化を通じて遠州人の心意気が感じられる……そんな明日の活力を提供する店です。そして、いつしか、ペルソナが遠州人であることを誇りに感じて、遠州自慢をしてしまう演出がされています。以前はペルソナを設定していなかったため、メニューは様々な人の様々なニーズに対応しており、強みがお客様に伝わっていませんでした。

しかし、ペルソナを絞り込んだことにより、『やるべきこと』と『やってはいけないこと』が明確になり、判断基準をシンプルにすることができました。判断基準がシンプルになることで、自社の価格が明確になり、伝わりやすくなるのです。具体的に説明すると、まず、遠州料理を中心に、メニューを50品目に絞り込みました。そして、店内は、遠州人がこよなく愛する浜松祭りの活気ある雰囲気を感じられる演出を心掛けました。極めつけは、この店独自の演出である『出世の杯』です。

浜松の方言を使った独自の乾杯で、これにより、店のムードは最高潮に盛り上がります。強みとは、他店との差別化ではなく、お客様が感じる価値が高いことです。顧客を絞り込み、ニーズを明確にすることで、顧客満足度を高められ、それが店の強みとなるのです。ペルソナが曖昧な会社は、顧客満足の視点で物事を考える力が弱く、他店との差別化ばかりに心を奪われてしまっています。ニーズが多様化している現代において、ペルソナが設定されていなければ、自社の強みもわからないのは当然のことなのです」

佐治さんは、「強みとは、他店との差別化ではなく、お客様が感じる価値」と述べておられますが、これは、顧客体験価値(CX)を提供するということと言えます。この顧客体験価値を大きくするためには、単に、おいしい料理を提供するということだけでは実現できないでしょう。それは、「浜松に本社がある大手企業のサラリーマン」という狭いペルソナを設定したから、「遠州自慢をできる店」という顧客体験価値を提供できるわけです。

これまでは、同店が失敗したように、流行を取り入れるなどの対応が成功したこともありましたが、これからは、顧客に価値を感じてもらうことが重要な時代です。そのためには、一見すると、顧客を減らしてしまうことにつながるのではないかと感じるペルソナの設定をすることが、現在は、顧客が感じる価値を高め、それが強みになることが欠かせません。

2024/1/20 No.2593

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