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プロセス・ロスとプロセス・ゲイン

[要旨]

組織開発の主な対象は、タスク・プロセスとメンテナンス・プロセスですが、技術的課題、すなわち、主にタスク・プロセスを改善する適切な方法と、適応課題、すなわち、主にメンテナンス・プロセスを改善する適切な方法を、上手く組み合わせることが鍵になります。その結果、従業員の潜在的な能力を上回る生産性を発揮できることもあれば、逆に、潜在的な能力を十分に発揮できないこともあります。

[本文]

今回も、前回に引き続き、コンサルタントの早瀬信さんたち3人の著書、「いちばんやさしい『組織開発』のはじめ方」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、組織開発の対象は、課題を氷山にたとえると、海面の上に出ていて目に見えるコンテント、海面からすぐ下のタスク・プロセス、海面から深い部分にあるメンテナンス・プロセスに分かれており、コンテント、及び、タスク・プロセスの一部は、既存の方法で解決できますが、メンテナンス・プロセスは既存の方法では解決できないことから、組織開発によってメンテナンス・プロセスを解決できるようにすることが、業績を高める鍵になるということについて説明しました。

これに続いて、早瀬さんは、プロセス・ロスとプロセス・ゲインについて述べておられます。「組織開発は、このタスク・プロセスと、メンテナンス・プロセスの両方を見直していく活動です。なかなか表に出てこない水面下にあるものを、テーブルの上に載せる。そして、それをめぐってみんなで話し合って問題解決を図り、ひいては良い組織にする活動、それが組織開発なのです。

起こっている事象がどのようなものであれ、それを組織の課題であるととらえ、みんなで検討し、改善してきます。イメージしやすいように(中略)、綱引きで説明してみます。みんなが持てる力をフルに発揮することで綱引きは成立します。平均的な力量のメンバーが4人いるなら、力の総量は4。でも、さまざまな要因で4にならないことがあります。要因は、大きく2つ考えられます。1つは技術的な問題。例えば、引く方向がバラバラであれば、力が結集しないことになります。

つまり、綱の引き方という、タスク・プロセスに課題がある、という状態です。もう1つ考えられるのは、4人の気持ちがバラバラで本当の力が出ないこと。例えば、メンバーの中に、仕事のミスで怒られてしまい、気分が沈んでいる人がいるのかもしれません。あるいは、個人的な心配ごとが頭から離れない、ということもあり得ます。これらはメンテナンス・プロセスに課題があることを示しています。4人で綱引きをするとき、4人の力を合わせれば『4』になるべきところが、そうならない場合がある。

社会心理学者のスタイナーは、技術面、もしくは気持ち面での要因で起こるロスのことを、『プロセス・ロス』と名付けました。そして、プロセス・ロスについて、次の公式を示しました。“実際の生産性=潜在的生産性-欠損プロセスに起因するロス”本書の監修者である中村和彦さんは、著書『入門組織開発』で、次のように説明しています。“日本企業における現代的課題のほとんどは、このプロセス・ロスに当てはまります。仕事に対するやる気、仕事の意味の腹落ち感、個業化による協働作業の減少、多様性の増大による協働の難しさなど、日本企業にはプロセス・ロスが生じる多くの問題があります”

ここでも、タスク・プロセスとメンテナンス・プロセスの両方を検証することの必要性が、端的に示されると言えるでしょう。なお、スタイナーは、『プロセス・ゲイン』という概念も紹介しています。組織における相乗効果で、メンバーの潜在的な能力を超えて、より大きな力を発揮することがあり得るという考え方です。話し合いによって、それまでに誰も思いつかなかったビジネスのアイデアが生まれる、というのはその一例です」(54ページ)

今回の引用した部分は、抽象的なところがあり、理解が難しい部分もあると思います。簡単に言えば、課題解決のためには、きちんとした方法を取り、かつ、従業員の気持ちが揃っている必要があるということでしょう。そして、それらが噛み合えば、プロセス・ゲインが得られますが、噛み合わなければ、プロセス・ロスが発生してしまうということでしょう。

そこで、経営者の方は、プロセス・ロスが発生することを避け、プロセス・ゲインが得られるように、組織開発をすることが大きな役割になっていると言えます。私は、業績を高めるためには、組織的な活動が重要と考えていますが、それは、組織的活動によってプロセス・ゲインを得ることができるからだと考えています。そこで、これから業績を高めたいと考えている経営者の方は、組織開発によってプロセス・ゲインを得ることに注目することが鍵になると思います。

2024/3/13 No.2646

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