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ビジネスマンの持ち物が新聞から弁当へ

[要旨]

日高屋を運営するハイデイ日高の創業者の神田正さんは、埼京線の各駅を利用するビジネスマンを観察した結果、「家庭から持参する弁当ではなく、職場や移動先で昼食や晩飯を手軽に食べる時代が来る」と確信し、都心の駅前のビジネスパーソンの昼食の需要を獲得することに成功しました。この神田さんの判断は、どのような場所にどのような製品を提供するかによって、自社商品の競争力を高めることができるよい事例です。

[本文]

フロンティア・マネジメント代表取締役の松岡真宏さんの、ダイヤモンドオンラインへの寄稿を読みました。その記事の中で、松岡さんは、ラーメンチェーン店の日高屋の業績が好調である要因について分析しておられます。記事によれば、日高屋を運営するハイデイ日高の創業者の神田正さんは、1973年に、大宮駅前にラーメン店を開業し、深夜営業にしたところ、「夜の街」で働く人たちや、タクシー運転手などの利用で、深夜の時間帯の需要を独占することになったそうです。その後、神田さんは、昼の需要を獲得するために、標的顧客の観察を始めたそうです。

「当時、駅前一等地の高い家賃はラーメン店に不向きとされていた。しかも、神田氏が相手にしてきたお客は夜が中心であり、昼間の売上獲得も喫緊の課題だった。神田氏は、暇さえあれば埼京線の各駅に行き、ビジネスマンを観察した。そこで見たのは、ビジネスマンの通勤時の持ち物が弁当から新聞へと代わっていく変化であった。『家庭から持参する弁当ではなく、職場や移動先で昼食や晩飯を手軽に食べる時代が来る』と確信した神田氏は、社員の反対を押し切って多額の借金をし、駅前出店を加速した。

女神は神田氏に微笑んだ。都心駅前という立地は圧倒的集客力を発揮した。特段の広告を行わず、多くのお客が安価で質の高いラーメンを求めて集まった。都心立地の高い家賃、質の高い商品のための高い原価は、サラリーマンの昼食行動の変容や高採算の深夜営業によってカバーされた。発想の転換で、『都心駅前の格安ラーメンチェーン』が誕生した」

今回、私が、この記事に注目した理由は、神田さんはしっかりとSTP分析を行った結果、ブルーオーシャンを発見したということです。競争力を高めるというと、多くの場合、商品の品質を高くしたり、付帯サービスを充実させるということが考えられますが、日高屋の場合、質の高いラーメンを、駅前に出店し、低価格で販売することで、弁当を持たないサラリーマンを標的顧客にして成功したわけです。

ここで、品質の高いラーメンの提供は、商品を開発したというよりも、広告を出さない、深夜営業で昼間の薄利をカバーするという判断により、原価率が高くなってもトータルで採算が得られる仕組みにするという「経営判断」によるもので、商品開発の意味合いは低いものです。もちろん、日高屋がブルーオーシャンを発見したことは、神田さんの才能が寄与した面が大きいと思います。なぜなら、ブルーオーシャンは、事後的にその妥当性がわかることが多い、すなわち、コロンブスのたまごのような性質があるので、それを他者より早く発見することは、私は、経営者の天性の才能であると考えています。

ただ、それは、前述のように、競争力を高めるために、どのような場所で、どのような属性の顧客に、どのような品質の製品を、どれくらいの価格で提供するのかで、競争力が高まるのかを理解できていることが前提になります。現在は、販売する商品・サービスは、多くの会社で高いものとなっているので、狭い意味での品質での競争ではなく、日高屋のように、STP分析によって競争力を高める仕組みを探すことの方が、相対的に労力が少なくなると、私は考えています。

2023/6/19 No.2378

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