シーボルトの娘で日本初の女性産科医、楠本イネと孫・高子。ふたりの美女の波乱の人生とは

「幕末史に多少の関心のある人だったら「シーボルト事件」をご存じであろが、事件の中心人物であるシーボルトと彼の娘や孫が歩んだ壮絶な人生を知る人はすくないだろう。

漫画『JIN－仁－』にも登場した日本初の女性産科医である娘・楠本イネと、『銀河鉄道999』のメーテルのモデルともいわれる孫・楠本高子。そのように語れば知る人も若干いるかもしれない。
彼女たちの辿った壮絶な人生を辿ってみたい。

フィリップ・フランツ・バルタザール・フォン・シーボルト。江戸時代末期にあたる1823年、27歳の植物学者だった彼は、東洋学研究を志し、ドイツ人でありながらオランダ人医師と偽り、長崎の出島のオランダ商館へ来日を果たした。

西洋人として初めて出島の外に塾を開校し、日本人へ最新の西洋医学を教えたり日本人の患者の診察を始めたシーボルト。

医師として日本で活躍しながら、その実スパイとは言えないがそののような存在だった。
日蘭貿易に関わる「市場調査員」でもあり文学的・民族学的コレクション5000点以上のほか、哺乳動物標本200、鳥類900、無脊椎動物標本5000、植物2000種、植物標本12000点などなど6年の滞在中に収集した植物の標本や地図、美術工芸品などは数万点にも及び、当時のヨーロッパにおける日本研究の第一人者でした。
その見識は後のヨーロッパの日本研究のための第一級資料として大変評価されました。

シーボルトが惚れた楠本滝

文政6年（1823）来日まもなくして、シーボルトは長崎奉行の計らいでオランダ商館のある出島の外で日本人の診察を許されました。
ある日診察室にとても可愛いく、美しい女性が現れた。診察にあたったシーボルトは一目でこの少女のような女性が気に入ってしまったのです。
それがお滝とシーボルトの出会いでした。

楠本　滝（通称お滝さんです。）長崎の商家の娘で17歳でした。シーボルトがアジサイの新種を発見し学術書に記載した際には、お滝さんの名前にあやかり「Hydrangea otaksa（オタクサ）」となずけたほどです。オタクサとは外国人のシーボルトがオタキサンと発音できずなまったからでした。

彼の愛は深く、当時出島に唯一出入りできた遊女と偽りお滝さんを出島に住まわせました。現地妻ではありましたが、二人の新婚生活がこうして始まりました。
1827年には、ふたりの間に娘のイネが誕生します。

ところが、来日から5年目にあたる1828年、シーボルトは当時国から禁じられていた、伊能忠敬の日本地図縮図や日本に関する翻訳資料を国外に持ち出していたことが発覚します。これがかの有名な「シーボルト事件」です。

娘のイネが2歳のとき、シーボルトは国外追放となり、お滝さんとイネは長崎でふたりで暮らしていくことになります。

国外追放にあったシーボルトは帰国途中の寄港地、インドネシアからお滝さんに手紙を書きました。お滝さんには、その手紙は待ちに待った夫からの最初の手紙でした。お滝さんは早速返事を送りました。

「3通の手紙は、届きました。ありがたく思っています。とてもゆかしい思いです。この手紙を貴方と思い毎日忘れることはありません。
娘のおイネは何でもわかるようになりました。毎日父親のことを尋ねます。私も貴方に恋焦がれる毎日です。

私とおイネのことは心配しないでください。叔父の家に身を寄せて生活しています。どうぞお体を大切にご無事を毎日祈っています。どうしてこのような別離に耐える毎日になってしまったのでしょう。そのことばかり考えてしまいます。

来年お手紙が届くよう首を長くして待っています。短い手紙でも構いません必ずおy便りください。ただただお待ちしています。
申し上げたいことはたくさんありますが次の手紙にしたためます。
名残惜しいです。

寅10月11日　滝
シーボルト様

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