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芸術とスポーツの融合!「アーティスティックスポーツ」とは?

前回の文章を読んでからこちらに来ていただくと、より理解が増すと思います♪

 こんにちは。元新体操選手ろるです🎀
前回は、上の記事にて「スポーツと芸術」の関係について考えました。スポーツは芸術ではない!ですが、芸術とより近い位置にあるスポーツがあり、それらのスポーツを、元フィギュアスケーターの町田樹さんは「アーティスティックスポーツ」と名付けました。

 今回は、その「アーティスティックスポーツ」とはなんぞや?ということについて、町田さんの書かれた『アーティスティックスポーツ研究序説』(白水社・2022)(以下”本書”とする)を参考に考えたいと思います。


スポーツの分類

 まず、スポーツは一般的に以下のように分類されます。

①対戦スポーツ…サッカー、野球、ボクシングなど
②記録スポーツ…陸上、競泳など
③採点スポーツ…体操、フィギュアスケートなど

 スポーツには”競争”が伴いますが、競争の仕方によって3つに分類できるということです。

 更に、本書では、新たに以下のような分類が為されました。

①スポーツ(sports)
…純粋なスポーツ。対戦スポーツ・記録スポーツはここに含まれる。
②フォーマリスティックスポーツ(formalistic sports)
…技の難度と質のみを競うスポーツ。器械体操など。
③アーティスティックスポーツ(artistic sports)
…評価対象となる身体運動の中に表現行為が内在するスポーツ。
『アーティスティックスポーツ研究序説』p,70 表1

 採点競技の中身をさらに分類しました。

器械体操(formalistic sports)と新体操(artistic sports)の違い

  では、なぜ採点競技をさらに分類する必要があったのでしょう。これには、「採点規則」で使われている文言に大きな違いがあることが関係しています。

 まず、器械体操の採点規則には、

 体操選手には、彼自身の演技に、自身が実行できる完全に安全で、高度に美的かつ技術的に体得した要素のみを含めることが要求されている。…
『アーティスティックスポーツ研究序説』p,47

 新体操の採点規則にも、上記と同じようなことが書かれています。

 新体操選手には、彼女自身の演技に、自身が実行できる完全に安全で、高度に芸術的かつ技術的に体得した要素のみを含めることが要求されている。…
『アーティスティックスポーツ研究序説』p,48

 体操競技には「美的」(英語だと「aesthetic」)、新体操には「芸術的」(英語だと「artistic」)と記載されています。つまり、体操は「美的」な演技、新体操は「芸術的」な演技が求められているということです。

 「美的」と「芸術的」の違いは前回触れているのでここでは省略しますが、つまり、体操が「見た目の美しさ」を求めるのに対し、新体操は「解釈を求める、意味のある表現による芸術的な美しさ」が求められているということです。

 さらに、演技の内容にも注目してみましょう。器械体操は、技の正確性で点数が決まります。それは、規則にはっきり定められた正しい型があり、選手はその型通りに、足先指先まで神経を尖らせて演技を行います。技の途中や技の合間に、審判員にアピールしたとしても、そのアピールは直接点数にはなりません。(ただし、女子体操の床は、アーティステックスポーツに値する要素があります)
 一方新体操は、技の正確性に加え、「音楽との一致」が重要視され、音楽と合う、技ではない動きが欠かせません。また、技と技の間にも表情やしぐさで表現を行えば、それが点数に生きてきます。逆に、技ばかりやっていて見ている側に何も伝わらない演技は、技の点数で評価されても、「芸術点」においては評価されません。

 このように、「芸術性」という観点で、器械体操と新体操には大きな違いがあります。さらに、この芸術性は、新体操にとってはかなり大きな主題の一つです。ここを無視して次に進むことはできないというのです。

アーティスティックスポーツとは?

 このように、体操と新体操には大きな違いがあることを踏まえ、新体操のように芸術的な要素を含むスポーツを、町田さんは「アーティスティックスポーツ」としました。

 実は、新体操のように「芸術性」「表現」を規則に盛り込み、採点の基準にしているスポーツはほかにもたくさんあるといいます。『21世紀スポーツ大辞典』(大修館書店、2015)には、たくさんのスポーツが載っていますが、その中総勢237種目のうち、アーティスティックスポーツに相当するスポーツを町田さんは以下のように示しました。

 フィギュアスケート、新体操、アーティスティックスイミング、インラインスケート(アーティスティックローラースケート)、エアロビック、車いすダンス、スポーツカイト(バレエ種目)、ダブルダッチ、ダンススポーツ、チアリーディング、ロープスキッピング、バトントワリング、ラート(ストレートライン)
『アーティスティックスポーツ研究序説』p,51.52

 これらのスポーツは、全て規則が芸術性を求めており、スポーツにも芸術にも成り得るとしています。スポーツは芸術なのか?ということについて前回触れていますが、これらのスポーツは、「スポーツ」と「芸術」をはっきり分けることのできない形で存在していることから、芸術の要素も含むスポーツであるというのです。

定義付けをしよう

 そろそろアーティスティックスポーツの定義をがっちゃんと決めたいのですが、その前に「スポーツ」と「アート」の定義について述べておく必要がありそうです。

 「スポーツ」にも「アート」にも、昨今様々な定義付けが為されており、その考え方は時代を経て変化しているのも事実です。ここでは、その変遷を述べることはやめておいて、本書では、それぞれ以下のように定義されているということを書いておきます。

◎スポーツ

 スポーツとは、日常生活とは異なる意味連関をもつ特殊な情況のなかで(遊戯性)、人為的な規則に基づき(組織性)、他人との競争や自然との競争を含んだ(競争性)、身体的活動(身体性)である。
『アーティスティックスポーツ研究序説』p,56.57

スポーツの定義には多々あり、最近ではeスポーツと呼ばれるものもありますが、万人がイメージする「スポーツ」に当てはまるような定義にしたそうです。

◎アート

①「作者の表現意図」②「作品の美的機能」③「観賞者の解釈」から成る「作者ー作品ー観賞者」の関係と、その3者の関係を醸成する④「歴史的コンテクスト」および、⑤「制度」の総体を、「アート」という現象であると見做すのである。
『アーティスティックスポーツ研究序説』p,63

 特に、「作者ー作品ー観賞者」の3者の関係が重要であるといいます。

 こうしたそれぞれの定義を踏まえ、「アーティスティックスポーツ」を以下のように定義付けが為されています。

Xがアーティスティックスポーツであるための必要条件は、以下の通りである。
(a)日常生活とは異なる意味連関を持つ特殊な情況の中で、人為的な規則に基づいた、他人や過去の自分と競争することを含む身体的活動で、
(b)なおかつ規則が、競争の結果を決定する因子として、表現意図に基づく身体的活動と、競争関係にある当事者以外の他者によるその身体活動の解釈を要求していること。
中略
(c)(b)の身体活動と解釈の両者が、芸術史的コンテクストを求めているか、あるいは芸術の制度による影響を受けていること。
(d)(b)の身体活動と解釈の両者が、スポーツ史的コンテクストを求めているか、あるいはスポーツの制度による影響を受けていること。

よって、筆者は以上の論議を踏まえたうえで、2022年現時点においてアーティスティックスポーツとは、「評価対象となる身体運動の中に、音楽に動機付けられた表現行為が内在するスポーツ」であると端的に定義し、以下本書で用いることとしたい。
『アーティスティックスポーツ研究序説』p,67.68


 スポーツでもあり、アートでもある。これまで誰もが考えていなかったこの世界のことに、目を向けてくれたのが町田さんです。スポーツの競争性や遊戯性を含みつつ、芸術の成立に必要な条件も持っている。ほかのスポーツとも、ほかの芸術とも違う世界がここにあります。

 もう少し、アーティスティックスポーツの原理について考えたいのですが、また次回。
 次は、「アーティスティックスポーツ」における芸術性(アートの部分に注目して)を考えたいと思います。

最後まで読んでいただきありがとうございました!







アーティスティックスポーツにおける芸術性

 さて、これらのスポーツは全て規則の中で「芸術性を求めるよ~」と言っているということでした。では、アーティスティックスポーツにおける「芸術性」とは、どのようなことなのでしょうか。

 ところで、本書において町田さんは「アート」の概念を以下のように定義しています。

①「作者の表現意図」②「作品の美的機能」③「観賞者の解釈」から成る「作者ー作品ー観賞者」の関係と、その3者の関係を醸成する④「歴史的コンテクスト」および、⑤「制度」の総体を、「アート」という現象であると見做すのである。
『アーティスティックスポーツ研究序説』p,63

 特に、「作者ー作品ー観賞者」の関係は、「アートの必須条件」としていますが、アーティスティックスポーツは、この関係が「あらかじめ競技規則の中にプログラミングされている」と言います。この3者の関係、新体操で言うと、

作品を構成する人ー演技者が行う演技ー演技を見る観客・審判員
わたし

になると思います。時に、自分で作品を作って演技までするような選手もいますが、この関係は大方変わらないでしょう。

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