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誰でもできる、Podcastの始め方。


決心の仕方


メソドロジーの前に、まずは個人的なお話から。

去年の大晦日の四日前、とある都立高校の社会科室で私たちのPodcast番組・「いしうらまさゆきの『倫理』ラジオが始まった。

すぐに人気が出るとは思えなかった。それでも10年後、20年後に聞いてくれる誰かのために番組を作ろう、「残すこと」が大切なんだ。
そう二人で決心して録音を始めた。

幸いなことに、私の相方のパーソナリティ・いしうらまさゆき先生はとても話し上手な人である。いち教員として、高校生たちへ、主に哲学や宗教史を学ぶ教科「倫理」をこれまで教えてきた。先生の授業はとても丁寧で、教科書に登場するような難しい哲学的な概念・話題(例えば「愛」と「恋」の違いだなんて…)を易しく噛み砕き、生徒の理解を確かめながら教え、一緒に考えてくれる。生徒たちからの人気も抜群。勉強があまり得意ではない生徒たちが、いしうら先生の授業の中で出た話題について休み時間中に友達同士で話している姿がたくさんある。
生徒である私自身、どうみても勉強よりはゲームにご執心である高校の友達から、「イデアって面白いよな」と声をかけられたことには本当にビックリした。哲学なんて一部の奇特な人間しか興味がないことなのだろうと想像していたから、先生の授業は凄いなあとその時実感した。

そんな体験もあって、これは全世界の人に伝えるべき授業なんじゃないか、という思いが私の心の中にあった。それで去年の暮、いしうら先生に「先生、Podcastやりませんか!」と社会科室前の廊下で声をかけた。
意外や意外、「いや〜今はちょっと忙しいので〜」とおっしゃると思っていたら「いいですね!やりましょう!」と、ほとんどふたつ返事で了承してくださった。

さて、Podcastの収録が始まる。やはりラジオなのだから、まずはテーマソングがなくてはいけないということで、シンガーソングライター・いしうらまさゆき作曲(彼はとにかく多才な人間なのである)「不安です」のアレンジバージョンを、オープニングとエンディングのテーマとして録音した。演奏の際は先生ご自慢のアコースティック・ギターを使用したのだが、その日はギター録音用のコンデンサー・マイク(音楽スタジオで使われるような、やや高価で感度の良いマイク)を私が持参していなかったので、本編録音用のSennheiserのE935というダイナミック・マイクでギターのレコーディングに臨む。とは言っても、E935もそれなりにいいマイクなので、先生のギターサウンドをしっかり捉えることができた。後で番組を聴いた人からは「聴いていてとても落ち着きます」というありがたいお声を頂戴することになる。

さて、ここからは私の戦いである。何せ、先生と私以外誰もいない社会科室で本編全てを録音しているから、まず二人の声の反響がもの凄い。部屋中の壁に音波がぶつかり、鳴き龍のように響いているのである。あまりに反響が大き過ぎると、その音がマイクに入ってしまい、聴いている人がなんだか疲れてしまう。仕方がないので、録音後の音声処理でどうにかするしかないのだが、反響を除こうとすると、どうしても元の声が不自然になってしまう。悩んだ挙句、結局何もしないで先生の声のクオリティを担保することにした。
(後日談だが、今年に入ってある素晴らしいプラグイン(DAWという、音声処理を行うソフト一般で使うことができる拡張機能)がWaves社から発表された。記事の最後にリンクと説明を貼り付けておくので興味ある方はぜひ)

さて、そうして完成した初回のエピソードを12月28日に公開した。
案の定、誰も聞かない。

あわよくば公開とともに爆発的なヒットが実現し、日本中が沸き立つことになるのではないかという、私の淡く未熟過ぎる期待は綺麗に吹き飛んでくれた。

とは言っても一度初めてしまったことには、後戻りできない。

やり続けるしかないので、その後も収録をしては編集・公開するというサイクルを隔週で続けた。たまにお休みする週もあれど、なんとか細々とやってきた。そうしていたら、ありがたいことにたくさんのリスナーさんが、自分たちの番組を聴いてくれていることがわかった。番組が始まって最初のうちは、一日10回も再生されたら大喜びしていた。初回エピソードを公開してから八ヶ月がたった今では、50回再生されることも珍しくはない。とても有り難いことです。この場をお借りして感謝を…。

以上がざっくりとした、この記事を書いている人間の身の上と、その人がPodcastを始めることになったきっかけである。

使用している機材

まず、私たちが使用している機材一覧を掲載しておきます。
時間が経っても応用が効くよう、基本的な考え方も表の下に書いておくので、ぜひ参考にしていただければと思います。

  1. PC/Mac:MacBook Pro 16inch (2021),10コアCPU・32コアGPU, 64GB(RAM), 2TBストレージ

  2. オーディオインターフェース:MOTU M2

  3. マイク:Sennheiser E935/E945, AKG C314 ×2

  4. マイクケーブル:MOGAMI 2549(自作)

  5. ヘッドホン:SONY MDR-7506, TAGO STUDIO T3-01, audio technica ATH-M50x

  6.  ヘッドホンアンプ:CLASSIC PRO CP4HM 

  7. マイクスタンド:audio technica AT8700J

ことわっておくと、Podcastを始める段階では上記のような機材はほとんど必要ありません。なのでこの記事の大体の趣旨は「始めるかどうか迷うくらいなら、自分のスマホで録音したものでいいから早くネットに上げてしまえ」ということになります。

とは言っても、やっぱりこういうものがあるともっと楽しく番組作りができるようになるかもしれない、という思いから私が使用している機材を掲載しました。

ただ、、、上記の機材はどれもPodcast制作用としてはかなりオーバースペック気味です。例えばリスト中のパソコンに関して。私は4K動画制作が問題なくできるものを買おうと思って選択した仕様のMacをPodcast制作に流用しているため、ただPodcastを録音して編集する分には全く必要ないスペックのパソコンが記載されています。
ですから基本的に上の表は参考にしていただいても構わないが、かなり不必要に高価なものがリストに混ざっている、という認識で読んでいただければと思います。

基本的な考え方

  • 機材よりもまずは番組の内容を優先する。

  • とにかくスマホでほとんど十分。近年のスマホ、特にiPhoneのマイクは素晴らしい性能なので、十分実用に耐えうると思います。以下は、当番組でiPhoneのみで収録したエピソード。https://podcasters.spotify.com/pod/show/ishiuraradio/episodes/1-feat--Shimizu-e219f5r

  • おすすめのスマホアプリ:Spotify for Podcasters。元々はAnchorというサービスだったのが先日合併、名前が変わりました。録音・編集・公開までノンストップで行えます。(https://podcasters.spotify.com/)

それでもちゃんとした機材が欲しい場合

記事の最後に各製品のリンクが貼ってあります。
機材そのものの説明は省きました。機材名をネットで検索していただければ、たくさんそれに関する解説記事がヒットするかと思います。

パソコンに関しては、個人的にはMacをお勧めします。オーディオインターフェースを接続する際に特にドライバのインストールが必要ない場合(USBコンプライアンス)も多く、初心者でも手軽に始められます。お値段は手軽でありませんが…。
近年のMacはチップがApple Siiconになってから革命的に性能が上がり、一番の下位モデル(MacBook Airなど)を買ってもPodcast制作には全く問題ありません。可能であればメモリを16GBにすることをお勧めしますが、必須ではありません。
マイクですが、初めて購入する場合はダイナミックマイクを検討するのが適当です。前述のコンデンサー・マイクは音がいいのですが、本格的なスタジオ等でない場所では騒音が入り過ぎてしまいます。またやや高価な上、扱いも難しく壊れやすいタイプのため初心者の方にはお勧めしません。価格として一万円ほどのダイナミックマイクであれば全く問題ないです。
オーディオインターフェースが曲者です。ネット上でも、やれあれが良い、これはダメだ等、たくさんの意見が散見されます。個人的な思いを言えば、メーカーで選べばそこまでハズレを引くことはないかと。MOTU, Audient, Focusriteなどが初心者向け・お勧めメーカーです。私はMOTUのM2という製品を使用しています。購入してから今までほぼノートラブルという名機です。
ケーブルは、音の違いはあるのですが、とりあえずみんなが使っていて人気があるものを選ぶのが良いかと思います。サウンドハウスという国内老舗通販サイトで販売しているXLRケーブルであれば、特に購入後に問題が発生することは少ないでしょう。
ヘッドホンとしては、上でご紹介したものの中ではSONY MDR-7506が最も安価です。ここら辺は個人の音の好き嫌いもあるかと思います。購入の際は、「モニターヘッドホン」と記載されているもの(スタジオ等で使われる、音楽制作用途のもの)を購入されるのがお勧めです。ただし、選ぶ際はできるだけ汎用的に使え(例えばそのヘッドホンで音楽を聴いても特に違和感がないなど)、音にクセが少ないものを選ばれる方が良いかと思います。
ヘッドホンアンプは必要な方と必要でない方がいらっしゃます。多人数で収録する場合で、全員が自分の声と他の人の声をヘッドホン越しに聴きたい、という場合のみ必要です。私はサウンドハウスの自社メーカー・CLASSIC PROで販売している安価なモデルを使用してお互いの声を聞きながら収録しています。
マイクスタンドを購入される際は、安定したものを選んでください。特にこれといったお勧めはありませんし、ご自身の環境にあったタイプ(卓上、ブーム、アームなど)を選択していただければと思います。通販サイト等でのレビューが一番参考になります。

Podcastを配信する

今やPodcastはあらゆる音楽ストリーミング・サービスで配信されています。しかし自分の番組をそれらひとつひとつに、手作業でいちいち公開していくのは大変面倒です。対応策として、Podcastの配信ポータルサービスを利用して、ご自身の番組を公開されるのがお勧めです。

私は前述のSpotify for Podcastersというサービス(無料)を通じて番組を配信しています。このサービスを利用することで、タイトルに冠するSpotifyだけでなく、Apple Podcasts、Google Podcastsなどのサイトでもいっぺんにエピソードを公開することが可能になります。(各サイトに初めてエピソードを公開する際は、Spotify for Podcastersへの紐付けが必要です。)

終わりに

ここまで読んでいただきありがとうございました。

ネット上には、他にもたくさんのPodcastを始める方法について語った記事があります。ぜひそういった記事も参考にしていただきつつ、拙文もお読みいただければ、始めるまでの具体的な流れがより明確になるかと思います。今回はあくまで私の経験も踏まえ、「とにかくやってみる」のが近道ということをお伝えしたつもりです。

以下、機材リストに挙げた製品のリンクを記載してあります。また、下記には私が使用している機材以外で、安価で購入しやすく、信頼性の高い機材を挙げた上で「☆」とマークしてあります。ご参考までに。
Mac以外のハードウェアの製品のリンクは通販サイト・サウンドハウスから引用しています。

Mac

・☆MacBook Air 2020 M1, 8GB, 1TB
三年前のモデルですが、十分なスペックです。

オーディオインターフェース
MOTU M2

https://www.soundhouse.co.jp/products/detail/item/269730/

(☆Audient iD14mkII )
あくまで口コミですが、こちらも安定性の高い製品のようです。
 https://www.soundhouse.co.jp/products/detail/item/287851/

マイク 
・Sennheiser E935

https://www.soundhouse.co.jp/products/detail/item/68380/

・AKG C314 https://www.soundhouse.co.jp/products/detail/item/210392/

・☆ Shure SM58
世界中のスタジオで使用される定番マイク。往年のサウンドです。先日Biliy Joelのライブ映像をYouTubeで見たのですが、彼がその時使用していたマイクもSM58でした。時代を超えて愛される音なのでしょう。

https://www.soundhouse.co.jp/products/detail/item/69782/

マイクケーブル
私は自作したケーブルを使用していますが、下のようにケーブル本体とXLRコネクタが溶接されて販売されている製品もあります。

https://www.soundhouse.co.jp/products/detail/item/299894/

ヘッドホン
MDR-7506(上)かATH-M50x(下)をオススメします。
安価で、信頼できるヘッドホンです。

https://www.soundhouse.co.jp/products/detail/item/71254/

https://www.soundhouse.co.jp/products/detail/item/192282/

ヘッドホンアンプ
とりあえず音が出ればいいレベルです

https://www.soundhouse.co.jp/products/detail/item/286479/

マイクスタンド
Podcastを始めるにあたり、機材購入の参考にしようと、さまざまなラジオ番組のSNSを調査して、使用されている機材を特定するのにハマっていました。
確かこのスタンドはJ-WAVEで使用されていた記憶があります。個人的にはJ-WAVEのスタジオ機材はaudio technicalが多い印象がありますが、気のせいでしょうか。

・AT8700J

https://www.soundhouse.co.jp/products/detail/item/294810/

WAVES Clarity Vx DeReverb 
最強のリバーブ除去プラグイン。
これ凄かったのでぜひお試しあれ。
WAVES Japanのリンクを記載しておきます。
https://wavesjapan.jp/plugins/clarity-vx-dereverb


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