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[西洋の古い物語]「メイブロッサム王女」第1回

こんにちは。
いつもお読み下さり、ありがとうございます。
今回から塔の中に20年も閉じ込められていた王女のお話を始めたいと思います。少し長いお話ですので、数回に分けてお届けいたします。
ご一緒にお読みくださいましたら幸いです。

「メイブロッサム王女」第1回

 昔々、ある所に王様とお妃様がいらっしゃいました。お二人の子供たちは、一人また一人と皆亡くなり、遂には一番末の王女様唯一人だけが残りました。王妃様は王女様を世話して養育する優れた乳母をどこで見つけたものかと途方に暮れておりました。布告官が派遣され、あちこちの街角で喇叭を吹き鳴らして、王妃様が幼い王女のために乳母を選ぶことができるよう、優れた乳母は全員王妃様の御前に伺候するよう命じました。というわけで、指定の期日になると、お役に立とうと国中から集まってきた乳母たちで宮殿中がごった返しました。そこで王妃様は、集まった乳母たちの半数なりと面接するには、宮殿近くの木陰に座っているご自分のところへ一人ずつ連れてきてちょうだい、とおっしゃいました。

 王妃様がおっしゃる通りになされ、乳母たちは王様と王妃様に一礼した後、王妃様が選べるように一列に並びました。ほとんどの乳母は色白で太っていて魅力的でしたが、一人だけ肌の色が黒く、醜くて、誰にも理解できない奇妙な言葉を話す者がおりました。王妃様は「なんて厚かましいのかしら」と思いました。そして、その乳母は立ち去るよう命ぜられました。でも彼女は立ち去りませんでした。何かぶつぶつ呟いて行ってしまいましたが、実は木のうろの中に隠れたのです。そこからはその場の様子がすっかり見えました。王妃様は彼女のことはもう気に留めず、可愛らしい薔薇色の頬をした乳母を選びました。ところが、選ぶや否や、草むらに隠れていた蛇がその乳母の足を噛みましたので、彼女は死んだかのように地面に倒れました。王妃様はこの出来事をたいそう悲しまれましたが、すぐに別の乳母を選びました。しかし、その乳母がちょうど進み出ようとしたところに一羽の鷲が飛んできて、大きな亀を彼女の頭上に落としましたので、頭は卵の殻のように粉々に割れてしまいました。これを見て王妃様はとても恐ろしくなりました。彼女が三度目に選びますと、やはり不幸が起こりました。と言いますのも、選ばれた乳母は急いで走ってきて木の枝にぶつかり、棘で両目を突いて盲目になってしまったのです。

 王妃様はおろおろして、「何か意地の悪い力が働いているに違いないわ。今日はもう選ばないわ」と叫びました。そして、宮殿へと戻ろうと立ち上がりますと、背後から悪意に満ちた笑い声が響くのが聞こえました。振り向くと、先程追い払った醜いよそ者がいるのが見えました。彼女は一連の不幸な出来事に大喜びし、皆をからかい、とりわけ王妃様のことを嘲笑っておりました。これに気分を悪くした王妃様は彼女を逮捕するよう命じようとしますと、魔女は――この者は魔女だったのです――杖を二回振って翼のある竜に引かれた火の車を呼び出すと、脅しの言葉を発したり叫んだりしながら空中をつむじ風のように飛び立っていきました。

 これをご覧になった王様は叫びました。
「ああ!これで私達はおしまいだ。あれは妖精のカラボスに他ならない。私がまだ少年であった頃、ある日ふざけて彼女のポリッジに硫黄を入れたのだ。それ以来、彼女は私をうらんでいたのだ。」
すると王妃様は泣き出しました。
「もしあれが誰なのか知っていさえしましたら」と彼女は言いました。「仲直りするために最善を尽くしましたものを。もうおしまいですわ。」
王様は王妃様を驚かせてしまったことを申し訳なく思いました。そして、カラボスが幼い王女にもたらそうとしているに違いない不幸を避けるための最善策を話し合う会議を開くべきでは、と提案しました。

 そこで、顧問官全員が宮殿へと召集されました。そして、盗み聞きされないよう全てのドアと窓を閉めさせ、あらゆる鍵穴に詰め物をさせますと、彼らはこの問題について話し合い、1000リーグ四方の妖精を全員王女様の洗礼式に招待すべきこと、また、万一あの妖精カラボスが参列しようと考えついてはなりませんので、儀式の日取りは絶対の秘密とされるべきことが決定されました。
※1リーグ=3マイル=1.6キロ×3

 王妃様とお付きの貴婦人方は招待された妖精たちへの引出物の準備にかかりました。銘々に青いビロードの外套、アプリコット色のサテンのペチコート、踵の高い靴一足、数本の鋭い縫い針、そして黄金製のハサミを一丁が用意されました。王妃様が懇意にしている妖精たちのうち、儀式当日には5名しか出席することができませんでした。妖精たちはさっそく王女様に贈り物を贈りました。一番目の妖精は王女様が申し分なく美しくなられることを約束しました。二番目は王女様が何事であれ最初に説明されたときに何でも理解できることを、三番目はナイチンゲールのように歌うことを、四番目は王女様がすることなすこと全てに成功なさることを約束しました。そして五番目の妖精が口を開こうとしたとき、恐ろしい物音が煙突の中から聞こえ、カラボスが煤にまみれて転がり落ちながら叫びました。
「王女は二十歳になるまでに不幸な者の中でも最も不幸になるであろう」

 これを聞いて王妃様も妖精たちも皆、考え直してくれるよう、幼い王女様は彼女に何も悪いことをしていないのだからそんなに辛くあたらないでくれるよう、カラボスに懇願しました。しかし、醜い年寄りの妖精は唸り声を上げただけで何も答えませんでした。そこで、まだ贈り物をしていなかった最後の妖精は、事態を改善しようとして、運命付けられた二十年間が過ぎた後は王女が長く幸せな人生を送ることを約束しました。これを聞くとカラボスは憎々しげに嘲笑い、煙突を昇って去っていきました。その場にいた者は皆、大きな困惑の中に取り残されました。中でも王妃の困惑はとても大きかったのです。しかし、王妃様は妖精たちを豪勢にもてなし、引出物に加えて、妖精たちに美しいリボンを贈りました。妖精たちは美しいリボンが大好きなのです。

 帰り際に、一番年上の妖精が、「王女様は侍女たちと一緒にどこかに匿われ、二十歳におなりになるまで他の誰にもお会いにならないようにするのが最上の策だと皆申しております」と申し上げました。そこで王様はそのために塔を建てさせました。その塔には一つも窓がなかったので蝋燭がともされ、そこへ入る唯一の道は地下通路のみでした。その通路には20フィートごとに鉄のドアがあり、守衛が至る所で持ち場についておりました。(続く)

「メイブロッサム王女」第1回はここまでです。

「メイブロッサム」は花の名前で、日本語では「サンザシ」と訳されることが多いようですが、「メイブロッサム」すなわち「五月の花」という語感の持つみずみずしさ、初々しさ、清純可憐さ、春爛漫のなか初夏へと進む季節の朗らかさ、といったニュアンスに心惹かれましたので、「メイブロッサム王女」と訳することにさせていただきました。画像は満開のメイブロッサムです。パブリック・ドメインからお借りしました。

妖精カラボスの呪いのため、20歳になるまで暗い塔の中に閉じ込められることとなったメイブロッサム王女。かわいそうですね。王女はこれからどうなっていくのでしょうか。果たして塔から出ることはできるのでしょうか。

          
このお話の原文は以下の物語集に収録されています。
Title: The Red Fairy Book
Editor: Andrew Lang


最後までお読み下さり、ありがとうございました。
次回をお楽しみに。

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