ひとり戦う勇者さんへ

筆者註.この記事には値札がついていますが全文無料で読めます.読んで面白かった,参考になったという方はおひねりとしてご購読いただければ幸いです.

 今日のお返事するメッセージは,既に1週間もの間ぼくの受信箱に留め置かれていました.言い訳めきますが,決して忘れていたわけではありません.マシュマロを開いては,いかにお返事しようか悩み,また悩んではいったん閉じることを繰り返しているうちに1週間経ってしまいました.例によって考えの足りないところは多々あろうかと思いますが,ぼくの思うところを率直に綴ります.

去年体調を崩しがちでよく休み、全然授業内容が身についていないのに何故か単位をギリギリでもらえ、進級してしまいました。しかし授業について行けません。1から復習し直していますがこんな感じでは卒業は厳しいでしょうか。正直、ほぼ独学状態で心が折れそうです

https://marshmallow-qa.com/messages/a044cd15-50c3-498d-973c-ab838552c18b

卒業はできます,きっと

 文面からは年齢や学校についての情報は特にありませんが,おそらく大学生でしょう.進級はできたとのことなので,新年度の学年は2~4年生のいずれか,これまたいずれとも判断はつきかねるのですが,3,4年生なら「何とか卒業にこぎつける」方針であれこれ動けると思いますから,2年生と仮定してお返事したいと思います.

 今年の2年生というと,大学受験の1年はほぼオンラインで閉じ込められ,大学に入った後はコロナの盛衰に振り回され,大変な世代なのでしょう.このコロナ禍で大変でない人などほとんどいないのは事実としても,以前のキャンパスライフを知る世代としてはやはり同情の念を禁じえません.まして質問文によれば個人的にも体調を保つのが大変であったそうで,大変な日々を過ごされてきたことには頭が下がります.「何故か単位をギリギリでもらえ、進級してしまいました」と書かれていますが,素直に胸を張ってよいとぼくは思います.

 しかし,自分の得た知識や理解には到底納得できないという思いも理解できるように思います.いくら本を読んだ読んだと言っても,さっぱり身についているとは思えないことなどぼくにも日常茶飯事です.数学書ですら,読んだ端から内容を忘れていくので,数日前に読んだ数ページ前の内容すら戻って確かめつつ読み進めているような体たらくです.

 大学生でいられる時間には限りがあり,その限られた時間の中でこれだけやらなければいけないというのに,いったい自分は何をしているんだろうか.そんな焦燥感も感じながら,ぼくも学生生活を送りました.

 とはいえ,質問者さんは文面から察する限り,確実に頑張っておられるようです.大丈夫,卒業しようと努める限り卒業はできます.以下,ちょっと論点を整理しましょう.

卒業は「進級できた」の積み重ね

 とても雑な言いかたになりますが,大学の卒業とは「進級できた」を4回繰り返した結果です.もちろん,各回の進級に要するハードルはそれぞれ高さが異なり,今回進級できたからといって次回の進級が保証されるわけでは決してありません.しかし,既に1回進級できたのですから,次も同じように切り抜けよう/切り抜けられるだろうと気持ちを軽めに構えてもいいのではないでしょうか.

 そういう気持ちを持つことで安心しきってしまって進級への努力が手につかないというならともかく,文面からは自律性が強い方のようにお見受けしますし(今はむしろその自立性の強さが諸刃の剣となって自らを苦しめているようにも見えます),気持ちは軽く構えて目標のために最大限の努力をするのが当面の方針としては良いように思われます.

 自分の身柄が不安定な状態で最高のパフォーマンスを出し続けるのは,どれほど優秀な人にとっても難しいことです.プロスポーツ選手などはメンタルを整えるための専門家を雇ったりしていますし,一般の人でもお医者さんに話を聞いてもらう機会を定期的に設けている人は少なくありません.「心が折れそう」というのがどの程度なのかぼくには推し量りかねますが,決して恥ずかしいことではありませんから,辛くてどうにもならないと思われるときはお医者さんの力を借りてください

卒業できなければ,どうする/どうしたい?

 心持ちの話はこのくらいにして,実際の行動方針について述べていきたいと思います.そしてそこにも,少し分岐点があります.

「卒業しようと努める限り卒業はできます」とは申し上げたものの,何かをなそうと試みるとき,かかる時間にばらつきが出ることは避けられません.今回の場合で言えば,学びの手を止めなければ卒業はできると思いますが,4年(残り3年)で卒業できるかは全く判断がつきません.

 もし留年したとき,あなたはどうしますか?どうしたいですか?

 実際に留年するとなれば,人間が生きていく定めとしてその分だけお金がかかります.これはぼくにはどうすることもできませんし,どうしろとも言えません.

 参考になるかもしれないのは,今回の進級がかなわなかったときにどうしようと考えていたのかですが,それは今回の文章には書かれていないのでわかりません.

大学生活を「個人戦」にしない

 少し余計な事ばかり話し過ぎた気がします.もうひとつ,ぼくが特に引っかかったのは「ほぼ独学状態で心が折れそうです」という締めくくりの部分です.

 大学に在籍しながら「ほぼ独学状態」でいるというのは,ぼくの感覚ではいささかもったいないことのように思われるからです.

 学問にはげむ上で大学に所属するメリットというのは大小問わず数多ありますが,中でも指導してくれる教員と,ともに学ぶ友人の存在は重要なポイントです.とりわけ,勉学において教員を利用しない手はありません.

 わからないことだらけならなおさらです.本を一から読むのは大切なことですが,実は一番手っ取り早いのは「詳しい人にポイントを押さえて教えてもらうこと」です.独習は自分の理解が上手く転がっているときはいいですが,どうもうまくいっていないようだと思えるときこそ,教員のツボを押さえた理解を拝聴する方が良いと思います.

 大学生活は「個人戦」ではありません.隣で学ぶ仲間は競争相手ではありませんし,教員は敵ではありません.しかし助けを求めなければ,誰も手を差し伸べてはくれないのもまた事実です.どうか助けを求めてみてください.

(これより下に文章はありません)

ここから先は

0字

¥ 300

Twitter数学系bot「可換環論bot」中の人。こちらでは数学テキスト集『数学日誌in note』と雑記帳『畏れながら申し上げます』の2本立てです。