生きること、学ぶこと


(問い)芸術家を育てる教育とは?




国立音楽大学の中西千春氏より興味深い研究について報告頂いた。「12名の音楽教師にBloom taxonomyを活用した授業設計」で学んでもらう実証である。音楽のような芸術に思想的、構造的な教育工学は不要、否、感性教育の障害になる可能性もある、ということが言われている。従ってこうした取り組みはあまり行われていないようである。学修者がどう変わるかということもあるが、むしろ音楽家である教師がtaxonomyを使って何に気がつくかという実験である。一方、米国を見るとMITやハーヴァードでのSTEAM教育やBYUでの芸術家への専門的なレトリカル教育などで、世界の著名なオーケストラで活躍できる人材も生まれている。中西千春氏の実証の結果は今度詳しく書く。

もうひとつの研究である。ドイツの教育学者のRittelemeyer(ゲティンゲン大学)で、心臓移植をしたマウスにオペラを聴かせる実験をした結果、生存が長引きした。芸術と知的活動が部分的ではあるが同一の脳神経領域で処理されることが、脳科学研究でわかった。音楽を聴くことは言語能力や数学的能力を発達を促すことが実証された。(演劇やダンスなどもそれぞれ転移効果がある)(「芸術体験の転移効果」(Christian Rittlemeyer 遠藤孝夫訳)

海外オペラの日本公演プロデュースで活躍している児玉晶子氏(現、東急Orbシアター)に一流の音楽家の教育についてお聞きした。同氏のコメントである。
「経験で感じるのは、芸術家として一流レベルの人達は、あらゆる方面のことを彼らの思考のため(=自分の糧にして、芸術に昇華するため)に知りたがる、刺激を受けたがる、といっても過言ではないです。まさに、そういう本能が普通の人より超貪欲なのがアーティストな気がします。

真っ白なキャンバスに、イチから描く絵画をやる画家に比べると、確かに音楽家は再現芸術で、なぞればよい楽譜があるので、哲学マストではなくとも、とりあえず音は出せるかもしれませんが、本当に人に感動を与える演奏をするには、思考して、そのアーテイスト自身の何かを昇華させない限りは、ロボットの自動演奏の方が完璧な日が来てしまうと思います。」

もう一人、栗田泰幸氏は、クラッシック音楽業界では熱いプロデューサーです。指揮者として世界の頂点にいる小澤征爾氏と一緒にサイトウ•キネンを長い間、育ててきました。そして今、世界的なピアニストの小山実維恵さんと音楽等を通じてこどもたちの夢実現にむけて活動をしています。お話をお聞きして、こどもたちが主体的に学べる環境つくりと共通していると感じました。栗田さんは、こどもの創造力や感性をとても大切にしています。

「ピアニストは語る」(ヴァレリー・アファナシエフ著 講談社現代新書)でも数学への愛がピアノ演奏に影響していると言います。ロシアピアニズムという音楽教育システムがあるが、それが一流音楽家を生み出すのではないと。またミハエル・バフチンは、芸術性の本質とは、その構造分析が必要であり、たとえば散文芸術を構成する要素を分析している。

日本では芸術の社会性について文化として深く浸透していない。中西千春氏の研究は幅白い視点でさらに深められる必要を感じた。リッテルマイヤーの研究の、教育における感性教育はますます重要になるのではないか。

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