笠羽流雨/かさばるう

劇作家・シナリオライター。倒藝家主宰、日本劇作家協会会員、Online Writers…

笠羽流雨/かさばるう

劇作家・シナリオライター。倒藝家主宰、日本劇作家協会会員、Online Writers' Club会員。

マガジン

最近の記事

取り残されて

 自分をコンテンツとして楽しんでくれる人の前では「面白人間」でいたい。自分そのものが愛されることに限界を感じてくると、愛情の代替物として興味や関心が得たくなる。そこで、つまらない道化を演じて私のもとにその人の興味と感心を繋ぎとめておこうとする。しかし、それも疲れてきてしまった。  振り返ると、私の人生が決定的に狂い始めたのは浪人時代、携帯もなく他人との関りを断たざるを得なくなった頃からだった。その頃から今に至るまでずっと何かがズレている。  浪人時代は予備校にも行かず、バイト

    • 作品と経歴

      【略歴】 2021年、劇団倒藝家を旗揚げ。日本劇作家協会会員。Online Writers' Club会員。 【原稿等】 ・紹介文@ト書き69号(劇作家協会会報) ・詩「古い写真」@抒情文芸182号(文芸誌) ・詩「見えない」@抒情文芸186号 ・詩「地球の垢」@抒情文芸187号 ・詩「大学生」@抒情文芸188号 ・批評「当事者しかいない事件」@抒情文芸188号 ・詩「戦争がまた始まったので」@抒情文芸189号 ・モノローグ「僕の叔父さん」@モノローグバンク@OWCモノ

      • 倒藝家に新しい仲間が……!

        倒藝家に新しい仲間が加わりました。 木霊68期、ことばちゅうどく主宰のまもなかしおんさん(すみたしおんさん)です。 演劇ユニットTraffic Jamの木花灯さんと落語研究会の大八木もえさんに続いて劇団発足以来の入団者はこれで三人目になります。 まもなかしおんさんですが、劇作家・俳優・声優・イラストレーターという多才ぶり。今後の活動が楽しみです。 倒藝家が三人の男の酒の場で生まれたという話は前の記事『「倒藝家」という名前について』に書きました。しかし、その倒藝家も遂に六人まで

        • 『ミルク』について—自作を語る—

           私が本格的な戯曲を書き始めたのは高校演劇を始めてからだった。本格的な戯曲、というのは実際に舞台上で演じられる演劇の台本としての戯曲ということである。戯曲は演じられて初めて完成する。少なくとも私はそう考えている。  高校演劇については様々な思いがある。感謝もあるし、後悔や恨みもある。高校二年のとき、地区大会に持っていった作品は『ミルク』というタイトルだった。対外的には処女作である『あけぼの』に連なる私の二作目の戯曲となる本作には当時から今に続く私の苦悩が込められている。すなわ

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        • モノローグ
          3本
        • 倒藝家
          2本
        • 日記
          2本
        • 読書感想
          4本
        • 8本
        • 朗読
          2本

        記事

          タイムマシン日和(ラジオドラマ)

          【要約】  「ついにタイムマシンができるぞ!」長年に及ぶ皆の努力が結実したのである。博士、エンジニア、パイロットの三人はタイムマシンの完成という歴史的瞬間を目前にしていた。喜びと充実感を体中に漲らせている三人だったが、焦りは禁物。ひとまず休憩を挟むことにする。  しかし、休んでいるとどうも変な感じがするのだった。違和感は次第に広がってゆく。何かがおかしい。明日はいよいよタイムマシン完成の日だというのに。嬉しくないはずなんてないのに……。こんな気持ち、明日になれば、明日になれば

          タイムマシン日和(ラジオドラマ)

          アンリ・カルティエ=ブレッソンと私

          1. HCBとの出会い アンリ・カルティエ=ブレッソン(以下HCBとする)との出会いは、私自身アマチュアとして写真を撮り始めた頃、技法を独学するため図書館にあった写真集を虱潰しに端から引っ張り出しては眺めていた時のことだった。彼の写真が連続する世界の動きの中で決定的瞬間を捉えていることが直感された。またそれは、今でも私の中である種写真の定義として位置づけられている。20世紀を代表する写真家として名を馳せたHCBは数々の著名人をカメラに収めたが当人は写真を撮られることを嫌い、あ

          アンリ・カルティエ=ブレッソンと私

          私は作家だ。

           私は作家だ。劇作家で詩人だ。こういう話をすると必ずのように「なら、お前は劇作(あるいは詩作)でメシが食えてるのか」というツッコミがある。これは痛烈な一撃である。何故か? 簡単である。実際にメシが食えていないからだ。  劇作や詩作でその対価を頂いたことはあるが、それは現代の日本で(ある程度)健康な成人男性が一人生きていくために必要な絶対量からは程遠い。その意味で社会的な視点から私を見ると「劇作」と「詩作」が趣味の大学生ということになる。就職をすれば「劇作」と「詩作」が趣味の会

          「倒藝家」という名前について

           倒藝家(トウゲイカ)とは私と樽田賢一、颯水凛太朗を共同主宰とする劇団のことである。現在五人の団員を擁し、演劇やラジオドラマ、映像制作等の活動をしている。  倒藝家の発起人は私だが、私は今まであまり倒藝家や倒藝家のコンセプトについてまとまった文章を書いてこなかった。何故と言って、色々と忙しかったこともあるが、倒藝家という団体の性質そのものが私にとっても未だに掴みきれない要素を内包しているということが挙げられる。  しかし、何も書かないわけにもいかないだろう。この記事では、手始

          「倒藝家」という名前について

          僕は頭が悪いので……

           僕は頭が悪い。以上。これはとても個人的な話である。  僕は頭が悪いので頭の悪さを上手に演じることができない。この国では頭が悪いということをアピールするのは当然の礼儀なのに、僕にはそれが上手くできない。結果として僕が頭の悪い人間であるということを知っている人間は少ない。勿論、何人かの親しい友人や、かつて親しかった元友人は僕の頭の悪さをよく理解してくれている。  僕は頭が悪いのだということ、それは僕の人生を狂わせてきた最大の原因だろう。偏差値やIQが低いということだけじゃなく、

          僕は頭が悪いので……

          はんぶんこ文庫

          A、Bは少女。 姉妹でもいいし、姉妹でなくてもいい。 A「はんぶんこしよ」 B「うん」 A「はい」 B「なにこれ?」 A「え?」 B「これ、なに?」 A「無限だよ」 B「無限?」 A「む、げ、ん」 B「む、げんむ、げんむ、げんむ」 A「む、げ、ん」 B「ほ?」 A「げ、む……あれ? む、あれ? げ、ん、む!」 B「幻覚のゲンに夢のム?」 A「なんか違うなぁ」 B「げんむ、げんむ、げんぶ、げんぶ……玄武岩」 A「違うよ、無限」 B「夢幻? ゆめ、まぼろし」 A「もう、要らない

          好き? 嫌い?

           祖母の家の腐った冷蔵庫の中身を掃除しながらふと思う。異臭が喚起した、反吐の出るような思考だ。  私のことが好きな人が好き、という気持ちが私には昔からある。人を好きになる動機はそれだけじゃないが、それは前提のような場所に鎮座する重要なファクターだ。恋愛の意味においてでなくとも、私に多少の肯定的な感情を持っている人と話すのは私にとっては当たり前に楽しい。そうでない場合は多少なりとも苦痛だ。私は多分、人一倍人の悪意に敏感なのだろう。悪意を込めて発された言葉にはすぐに気づいてしまう

          閻魔様と魚

          「残念、タイムリミット」  時間切れの後で頬を伝う汗の感触。顔中に張り付いた無数のナメクジ達が蠢いているみたいだった。 「かわいそうに」  閻魔様が私の顔を覗き込む。 「地獄はあの突き当りを右に曲がったところだから。さようなら。それとね、君の来世は魚だ」  声も出せない。本当は閻魔様に向かって一生分の憎悪を全部ぶちまけてやるつもりだったのに。せめて命一つ分の重さで呪ってやるつもりだったのに。  私は弱々しく頷いて、薄暗い廊下を歩き始めた。苦しみを避けて通れるならそれに越したこ

          幽体離脱

          宇宙船ほどの孤独に 耐えられなくなってしまった ある朝 天井の木目を見ていると 世界が回りだした なんて速さだと思ったその時 急上昇する回転速度は私の意識に  追いつき 追い越し    通り抜け いつの間にか 私は天井にいて下を見ている ベッドの下にいる私の抜け殻は 眠ったままの母に抱かれて 天井を見ている 大きく開かれた眼から 涙が溢れている ああ、また幽体離脱してしまったのだ もうすぐ母が、眼を覚ます 私はゆっくり着陸の姿勢を作る 間違わぬように  ゆっくり

          制服(即興詩①)

          君のこと優しく縛ってあげる 愛のない飴と、 感情のない鞭の好きなほうを選んでよ 制服のシミを見つめていると 初めてのセックスを思い出す 傷だらけの皮膚に キスだけが正しい処方箋なのだと 無理をして 無理やりに 幻想の女神と 契約を交わしながら 砂糖でできた君の身体に 黒い 蟻がたかるのを見ていた

          めもりぃ(『虚構の夏』より引用)

           眼をさますと夜だった。時間は分からなかったけれど、空が暗かったから。もう一度寝ようとしたが眠れない。眠くないと言うより、眠れないのだった。眠りとは《起きている者》の特権なのだ。私は起きていながらも、眠っているような気がしていた。  認識の曖昧な覚醒には得体の知れない不安が付き物で、私はそのためリビングに向かった。家のものが誰かいるかもしれないし、誰もいなかったら深夜ラジオを聴こう。その時の私は純粋に繋がりを求めていた。誰でもいいから、人間の声が聴きたかった。  リビングには

          めもりぃ(『虚構の夏』より引用)

          新生

          できたての街は綺麗過ぎるので、 灰色の雨の日に行くくらいが丁度いい できたてのパンは熱すぎるので、 冷たい牛乳と食べるくらいが丁度いい できたての宇宙 できたての銀河 できたてのできたて できたての太陽は眩しすぎるので、 僕は眼球に針を刺した