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今を生きるすべての人たちへ。 YOUR/MY Love letter シナリオ感想【シャニマス】

人にものを勧める時によく「全人類見て」という言葉を使う人がいるけど、今回のシャニマスのシナリオイベント「YOUR/MY Love letter」はまさに全人類に向けたものだったと思う。

今このnoteを読んでくださっている人の中には、シャニマスをプレイしている方やそうでない方、シャニマスをちょっとだけ知ってる方やほとんど知らない方もいらっしゃるはず。今回のシナリオはそんな「あなた」や「わたし」を含めたすべての人たちが主役の物語だった。

ここまで感想を書きたいと感じたシナリオは初めてだったので、読み終えた余韻が冷めないうちに書き留めていく。

※本編の内容について、多少のネタバレを含みます。

26歳/会社員/webディレクター

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物語は、後輩の付き添いとして商談を見守る中堅社員らしきピアスの女性と、新人営業マンの眼鏡の男性の商談風景からはじまる。
ピアスの女性の独白は人間味にあふれていて、彼女の仕事への思いや責任感をひしひしと感じるものだった。
昼間は新人の教育をしながら懸命に働く会社員の彼女も、夜はフライパンに水を付け忘れていて硬くなった焦げつきを落としたり、溜まった洗濯物を洗ったりと、一人の部屋で生活を営んでいる。

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忙しなくも平穏な日常の中に、アルストロメリアの出演するテレビの音が流れる。「このアイドル、他の番組にも出てた気がする」「流行りのアーティストとかわからなくなってきたなあ」頭の中でぼんやりと思いながらアイドルの声になんとなく耳を傾ける様子は、普段の私に近い姿だった。

アイドルと応援するファンによる小さなコミュニティの中を描いているシナリオが多いので忘れてしまいがちだけど、アイドルを知らないたくさんの人たちも同じ世界を生きていて、その人たちの日常にも当たり前のようにアイドルの声や笑顔が馴染んでいた。その当たり前を描いてくれたことがうれしかった。

アルストロメリアを主役に立ててはじまったバラエティ番組が流れる一室で、どこにでもいる会社員の日常が過ぎていく。

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26歳/会社員/Webディレクターのテロップとともに、"ピアスの女性"である彼女の生活が切り取られていく。
これはアイドルとプロデューサーがもがきながら生きていくシャニマス世界の物語ではない。日々を生きるわたしたちとアイドルとの関わりを描いた物語だった。わくわくと感動で、オープニングから涙が止まらなくなった。


アイドルがいる日常

一話以降もいろいろな登場人物の何の変哲もない人生に焦点が当てられていく。
アイドル育成ゲームのシナリオは、アイドルが困難にぶち当たったりそれを乗り越えたりしていくものが多い。アイドルたちの努力やかがやきにわたしたちの感情は揺さぶられる。

今作ではそんなアイドルたちに加えて、Webディレクターや大学生のコンビニ店員、部活を辞めた女子高生などいろいろな人物が登場する。それぞれが社会的な立場や役割の中で生きている一方で、役割を持たないありのままの「自分」の姿も持っている。彼らの葛藤や悩みが等身大の言葉で語られる。
困難にぶち当たったり悩み苦しんだりしているのはアイドルだけでなく、今を生きる私たちも同じなんだと改めて感じた。

アイドルのように名前が広まることで仕事の幅が広がっていき、スポットライトが当てられる職業もあれば、ほとんどの人に名前を知られることも無く余裕もないのに単調な生活に身と心をすり減らしている人もいる。
そんな生活の中に、アイドルが仕事を通して想いを届けていく様子が作中で描かれていく。コンビニ店内の定時放送やテレビ番組、SNSで共有されるアイドルの楽曲プレイリストやプロデュースコスメなど、世界は思ったよりもアイドルであふれている。坂道グループやジャニーズなどのアイドルのように、ファンじゃなくても見ない日がないくらいに日常に溶け込んでいるのかもしれない。

アイドルを応援する人もそうでない人の生活の中にもアイドルがいて、アイドルのおかげで気が休まったり笑顔になったりする人もいれば、たまたま見たテレビのアイドルと自分を比べて落ち込んだりする人もいる。こういった何気ない日常が、淡々と当たり前のようにシナリオとして描かれていくのが嬉しくてたまらなかった。
それに、アルストロメリアがここまで人々の日常のなかにいるアイドルになれたことも嬉しかった。特に、特別ファンではないコンビニ店員の2人がアルストについて話すシーンはすごくリアルでお気に入り。

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××歳/会社員/プロデューサー

いろいろな登場人物たちの日常を見ていくなかで、プロデューサーと呼ばれるひとりの会社員も、彼らと同じように日々を過ごしている様子が描かれる。

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シャニマスをやっていると、だんだんとこの男(××歳/会社員/プロデューサー)とわたしというプレイヤーは別の人間だなあと感じることが多い。
生真面目でコーヒーをよく飲んでいて長身で、たまにすごく気恥ずかしいことを言ったりおちゃめな言動を見せたりするこの男にも、私が知らないだけで名前がある。プレイヤーの分身ではなく、彼には彼の人生がある。このテロップが出た瞬間に、彼も生まれてから今日までの人生があるひとりの人間なんだと改めて思った。

テレビ局の部長のプロデューサーへの言葉がとても印象的だった。

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私はプロデューサーを名乗るこの男のことが人として好きなので、テレビ局部長の言うこともよくわかる。彼のドキュメンタリー番組が放送されたら必ず観るし、見応えのあるものになると思う。しかし、プレイヤー=プロデューサーという認識がアイマスシリーズの根底にあるうえで、ここまで明確に"彼"そのものを描くのかと驚いた。

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それじゃあ、プロデューサーを名乗るこの男でもないのにアイドルを認知しているプレイヤーのわたしは、一体この世界のなかの誰なんだろうか。アイドルたちが想いを届けたいと願う先に、わたしの存在はあるのだろうか。

unknownとして生きる人たち

プレイヤーであるわたしやあなたを含めたスポットの当たらない名も無き人たちが、アイドルのいる生活のなかで勝手に救われたり傷ついたりしながら生きている様子が描かれていく。
アルストロメリアの3人も、いろいろな人たちが自分たちを見ていることを実感しはじめる。彼女たちが笑顔を届ける対象である「ファンのみなさん」は日に日に増えていくし、甜花ちゃんはラジオで紹介し切れない量のお便りを家でひとつひとつ読んで、一人一人にエールを届けている。

アルストロメリアはこれまで、他者とのつながりについて考えたり、3人でアイドルとして生きていくための関係性を模索したりしてきた。そんな彼女たちが、アルストロメリアを応援したり見たり聞いたりしているすべての人たちの一人一人を認識して、想いを届けようとしている姿が本当に美しかった。

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届くはずもないのに届けようとする行為は自己満足に過ぎないのかもしれない。それでも、届けようとする姿勢や相手を知ろうとする心が大事だということを、シャニマスはいろいろなシナリオを通して何度も伝えてくれた。
アルストロメリアや283プロのアイドルたちのこれまでの軌跡を見てきたので、この甜花ちゃんの言葉や思いが綺麗ごとではないとわかる。

届くかどうかはわからなくても何度も伝えていく姿勢にファンの心が動かされていくシーンは本当に感動した。ネタバレになるのでほどほどにしておくけど、あの演出はシャニマスのシナリオの中で一番泣いた。


最後に

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これまでのシナリオに裏づけられたメッセージ性の強さと、アルストロメリアらしいファンや名も無き人たちへのアプローチが素晴らしかった。

「薄桃色にこんがらがって」のように大きな波乱があるわけでも、「アンカーボルトソング」のようにじわじわと心が離れていくような危うさがあるわけでもない。作中でも語られるが、ほとんどの人にとって人生は劇的なものではない
それでも、彼女たちのこれまでの仕事や生き様が新しいつながりを生んで、劇的ではないが忙しなく過ぎていく人々の日常をやさしく彩っていくさまが美しかった。

私は最初に、登場人物たちの人生のワンシーンに対して「何の変哲もない人生」と書いたけど、このコミュを通して、何の変哲もない人生なんて無いのだと教わったような気がした。
26歳/会社員/Webディレクターも、××歳/会社員/プロデューサーも、17歳/高校生/アイドル も社会的な肩書きに過ぎない。大切なのはあなた自身であり、あなたの代わりは本当にいなくて、「あなた」として生きているすべての人に想いを届けたいと思っているアイドルがいることがわかって本当にうれしかった。

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きっとアルストロメリアが愛を届ける対象のなかには、今を生きている人に限らず、故人や未来を生きていく人たちも含まれている。彼女たちの幸福論はあまりにも壮大だけど、届いてほしいと願って伝え続けることにこそ意味があるのだと強く思う。

シャニマスのイベントシナリオには普遍的で壮大なメッセージを持つものが多いけど、今回はアイドルだけを主役とせず、現代を生きる老若男女を主役とした群像劇で表現しているところに親しみやすさと説得力を感じた。
私はこのシナリオをたぶんずっと忘れないし、この先の人生で何度も読み返すことになると思う。たかがゲームのシナリオと思う人もいるかもしれない。しかし、日々変化の中にいるスマホゲームだからこそ、今を生きる私たちにとって身近に感じられるストーリーや演出を楽しめるんじゃないかなと思っている。

アルストロメリアやシャニマスを知らないあなたにも、ちょっと聞いたことがあるというあなたにもぜひ読んでみてほしい作品です。
ブラウザでもプレイ出来て、オープニングのみなら作業ゼロで読むことができます。よかったら。



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