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ロウドウ Re:ビュー(何者/ドラゴンクエストVII)

2013年4月14日発行 ロウドウジンVol.6 所収

この就活小説がすごい!

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朝井リョウ『何者』
2012年に映画化された『桐島、部活やめるってよ』で知られる朝井リョウの最新作。自身の就活経験をもとに、就職活動の中で自分を見失っていく若者を描いた本作で、第148回直木賞を最年少受賞した。なお新入社員として働く傍らで執筆した作品だという。本作では、就職活動とは「自分ではない誰か=何者になるための活動」だと定義している。しかし、その道のりは困難に溢れている。

 就職活動が思い通りにいかないと、自分の存在に価値を感じられなくなり、精神が不安定になる。そこで精神を安定させるために「何者かになったと感じられる活動」を行うことになる。

 我々が、何者かになったと感じられる活動として下記があげられる。

・自己啓発本(※蔑称:キャリアポルノ)を読んで、自分自身がすごい人になった感覚を得ているとき
・批評本を読んで、批評対象について分かった気になってるとき
・交流会に参加しFBフレンドを増やして、人脈を広げた気になっているとき

 これらは成果につながることもあるが、何にもつながらずに自己満足に終わることも多い。時間やお金だけ浪費し、得られたのは肥大化した自意識だけ、という結果に終わることもある。

 Webサービスも「何もできない人が、何かをした気になるもの」が流行るといわれている。本作品では学生たちがTwitterを利用しているが、これはTwitterがそのようなWebサービスの一種であることを揶揄している。

 先行き不安なこのご時世、何者かになったと感じられるサービス・手法は今後も増えていくと予想される。我々は何者になった感、例えば反社会人になったと感じられる本、に時間やお金を費やさず、真の目標に向かって真摯に努力することがいっそう求められる。

このキャリアパスがすごい!

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ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち
2000年にプレイステーションで発売され、国内出荷412万本を突破した『DQ』シリーズ第7弾。2013年、12年越しでニンテンドー3DSでリメイク版が発売された。ダーマ神殿における転職システムは、反社会人サークルとしては無視できない。

 本作の大きな特徴は、過去作ではオマケ的な要素に過ぎなかったモンスター職が数多く用意されている点だ。

 スライムに代表されるかわいいものからデスマシーンといったカッコイイ系の他に、バーサーカー、くさった死体、爆弾岩のような目を疑うような職もあるのだが、職に就くにはそれぞれのモンスターの「心」が必要とされる。ダーマ神殿で「バーサーカーの気持ちになって祈りなさい」と無茶振りをされる主人公達は、経営者目線での犠牲的行動を強いられる社畜のようで哀愁を感じずにはいられない。その「心」自体が物質化されたアイテムとして扱われていて、売ることすら出来る点も行き過ぎた資本主義を揶揄しているかのようだ(しかも売値は安い)。

 また、各職業にはレベルが存在しており、例えば戦士では経験を積むごとに見習い→修行中→凄腕→ソードマスターなどの肩書きを得ていく。くさった死体の場合、仮死状態→御臨終→死後硬直→腐り始め→腐乱死体といったキャリアパスを描く。これはまるで就職後、会社の型に押し込められ、社畜ゾンビとなっていく新入社畜そのものではないだろうか。四月はまさに就職のシーズン。読者諸氏もSNSで新入社畜のアカウントを監視しては、くさった死体のどの段階にあるのか当てはめてみてはどうだろうか。

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