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労働相談の受け方~的を得たアドバイス~

以前、労働相談の受け方というブログを投稿しました。
(ブログはこちら→労働相談の受け方
今日は、相談員の相談者に対する的を得たアドバイスについて書いてみたいと思います。

労働相談は、文字通り労働に関する相談ですが、その内容は多岐にわたります。労働相談は労働者の方が圧倒的に多いのですが、労働者の方からの相談の多くは、賃金不払いや解雇予告手当の不払い、解雇、退職、ハラスメント等、法的な点から自分自身の権利が侵害されているかどうか、権利が侵害されている場合にその解決方法について、といったものです。もちろん相談はそれだけではなく、今勤めている会社は辞めた方がいいのかどうか(子供を辞めさせた方がいいのか)といった人生相談に近いようなものから、中には単に自分の悩みを聴いてほしいだけとか、労働法、特に労基法の解釈について知りたいといった知識習得欲を満足させるためといったものもあります。

使用者からの相談は、労基法等労働法に規定された使用者の義務について、労務管理の点から法解釈の確認、三六協定届等労使協定届の作成方法等法令の解釈適用に関するものから、問題を起こす社員への対応や、中には労働者から賃金の支払いや損害賠償を求める文書を受け取ったがどうしたらよいかといったものまであります。社労士として顧問先からの相談はむしろ使用者からのこういった相談がメインになります。

相談員として大切なことは、相談者が解決を図りたい事柄について的確に把握することと、これに対する的を得たアドバイスということになります。尤も注意を要するのは、相談者が解決を図りたい事柄は、表象的な部分のその内側に真に解決を図りたい事柄が隠れている場合があることです。真に解決を図りたい事柄は労働問題とは別の事柄で、労働法とは別の法律の領域であったり、そもそも法的な面からでは解決を図ることができないこともあります。

また、相談者が解決を図りたい事柄に対する的を得たアドバイスは、例えば未払い賃金に関する相談に訪れた相談者は、使用者から未払い賃金を支払ってもらいたいというのが本質的な解決で、そのためにはどうしたらよいのかということが多いのですが、これに対する相談員の回答は、使用者に賃金の支払いを求めること、使用者が相談者の求めに応じない場合には労基署に申告すること、労基署に申告をした場合には監督官が事業場を調査し法違反が確認された場合には行政指導(是正勧告)する、という内容になります。しかし、これは相談者に対する本質的な解決を示していない場合があります。相談者は未払い賃金の支払いを受けることが本質的な解決であるのに対して、相談者のアドバイスは労基署が労基法に照らし事業場に違反があるかどうかを調査して、違反が確認された場合には遡及して賃金を支払って法違反の状態を是正するようにとの行政指導をするということですが、そもそも未払い賃金の支払いは労基署の事業場に対する指導では解決できないことも多くあります。

以前受けた労働者からの未払い賃金に係る相談では、使用者は、未払い賃金が法違反だと分かっているけれども、会社経営が逼迫して賃金に充てるべき原資がないという内容でした。こういった場合、申告とその後の調査や指導による解決を提案しても意味がありません。会社に賃金として支払うべきキャッシュがないのであれば、使用者にいくら行政指導しても使用者はこれに応じようがないからです。
こういった場合はむしろ、一刻も早く訴訟等を裁判所に提起して、判決や裁判上の和解で未払い賃金を債務名義として、会社の財産や債権(例えば労働者が雇われている会社と取引関係にある他社で労働者が雇われている会社に買掛金等の債務がある場合、賃金債権を有する労働者からすると当該他社の労働者が雇われている会社に対する債務はその労働者の再建になり得ます。こういった場合当該他社は賃金債権を有する労働者との関係において「第三債務者」となります。)に対していつでも強制執行ができる状態に持ち込むことが賢明ですから、訴訟の種類や提訴の方法、提訴に必要な書類や費用等をアドバイスする方が "正解” ということになります。

そうすると、未払い賃金に関する相談者に対する相談員のアドバイスとしては、未払い賃金に関して使用者と労働者との間で金額にほぼ争いがなくかつその額が60万円以下であれば少額訴訟を案内する、未払い賃金の内容が残業代でかつ残業時間等に労使間で争いがあるような場合には口頭弁論期日1回の少額訴訟では解決に至らないことも考えられるので、未払い賃金額が140万円以下の場合には簡易裁判所の通常訴訟を勧める、労働時間について証拠等が不足して立証に難があり労働者がある程度譲歩しても良いと考えているできるというような場合には、裁判所の労働審判や民事調停を検討してもらう、ということになります。

また、上述したように、相談者は単に話を聴いてほしいだけという目的で相談をする場合もあります。こういった場合の的を得たアドバイスは、特になく、頷いたり、適切に相づちを打つ、言い換えをするなどの方法で、受容し、共感している姿勢に徹する。人生相談に近いような「会社を辞めた方がいいですか」「今日は出勤すべきですか」といった類の相談に対しては、本人自身で解答を出すような質問をする、といった対応をする。

さて、相談員として的を得たアドバイスをするためには、傾聴することが大切になります。相談を受けるときの傾聴は、もちろん相談者の相談内容を的確に把握するための方法ですが、そのために相談者に対して相談員が「あなたの相談をしっかりと受け止めている」ということを暗に明に理解してもらう、そうすることによって信頼関係を構築する、という目的を含むものです。

傾聴のために常日頃私が意識していることについては追々書いていきたいと思います。

文責:社会保険労務士おくむらおふぃす 

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