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コーヒーのサプライチェーン⑧…”Middle Man”/中間業者の重要性について

こんにちは、ROUTEMAP COFFEE ROASTERSです。

前回から間が空いてしまいましたが…サプライチェーン⑦で言及した『中間業者の役割』について、今回はしっかり掘り下げていきたいと思います!


1)中間業者の重要性

コーヒーの取引において、我々ロースターと生産者の間には、必ず輸出業を代行する『中間(仲介)業者』(…コーヒー豆の集荷、運送、輸送などの業務を担う役割の存在)を介して行われます。

前回の記事で説明したように、必ず中間業者を介して取引が行われる理由は、前提としてコーヒーを輸出するためのライセンスが必要であったり、輸出の設備や物流における問題などもクリアしていなければならないからです。

そのため、主に小規模コーヒー農園は輸出業者やコーヒー精製所に一度収穫したコーヒーを買い取ってもらい、輸出業務を代行してもらう必要があります。

つまり、スペシャルティコーヒーにおける『情報の透明性』を守るためには、小規模農園や消費国コーヒーショップにとって、サプライチェーン上に存在する『中間業者=”Middle Man”』の役割がとても重要となるのです。

2)それぞれのビジネスモデルと共通の理念

スペシャルティ業界の流通では、各業種ごとでそれぞれの役割を担いながら、コンセプトに基づいたビジネスモデルを展開しています。

自分達が取り組む流通環境の課題、ニーズに合わせたビジネスモデルが形成され、生産者へどうサポートするか、また生産の背景をクリアなまま伝えるためにサプライチェーンにどう携わっていくべきか。

アプローチはそれぞれ置かれている環境で異なっていますが、生産者やコーヒー市場が抱える課題を解決するために、彼らの掲げているコンセプトや活動理念は中間業者同士である程度リンクする部分が多いことに気づきます。

例1)Semilla

Semillaは、ホンジュラス、グアテマラ、コロンビア、ルワンダの各国それぞれに存在するコーヒー生産者グループと連携し活動している小規模なスペシャルティコーヒーの輸入業者です。

度々、彼らの活動を記事で紹介していますが、Semillaの仕事はコーヒーをただ輸入し、バイヤーに販売しているだけではありません。

彼らの活動理念は、流通やキャッシュフローの構造が複雑なコーヒーのサプライチェーンにおいて、十分なサービスや市場アクセスへの権利を受けていない小規模生産者が、スペシャルティコーヒー市場への参入を際限なく目指せるような環境を作ること、そしてコーヒーの生産者が安心かつ安定した生活を送れるようにサポートをすることです。

最近の活動では、グアテマラのマタケスクイントラグループへの支援として、鉱山会社の土地侵略を巡るグアテマラ政府や工作員による圧力への対策、そして自然災害によって被害を受けた生産者への生活/生産の支援を、Semillaのビジネスパートナーと協力し改善に向けて取り組んでいます。

またSemillaはグアテマラ以外のコーヒー生産グループにも、倫理的な信念のもと真摯に行動をし続けています。例えば生産者の自主性や自律性を重んじ、各国のコーヒー生産の背景を見通したり、経済面や政治面で不安な状況が続く中で、小規模生産者がどのように複雑なスペシャルティコーヒー市場にアプローチしていくべきかを考えたり、その活動は多岐に渡ります。

彼らの活動についてはこちらのnoteにて逐一報告していますので、引き続きチェックの方よろしくお願いいたします☺︎


例2)Origin Coffee Lab

南米ペルーに拠点を置くコーヒーの輸出業者『Origin Coffee Lab』

僕(松村)がグアテマラ滞在時に、Origin Coffee LabのメンバーであるJoseと出会い、彼らが取り組む活動について色々と教えてもらいました。

左端がJose。グアテマラSoledad農園にて。

彼らは理念として、コーヒー生産が抱えるリスクを無くし、生産者に安定した経済的基盤と安定した収益性をもたらすことを掲げていて、

コーヒー市場の需要促進や、小規模農園が持つポテンシャルを見出すなど、輸出業者としての本来の役割を果たすことに留まらず、小規模農家への投資や技術トレーニングなどをさまざまなプロジェクト通じて農園に提供することで、生産者と共にコーヒー農家全体の持続可能性の達成を目指します。

そのプロジェクトのひとつである『ソリダリオ・プログラム』という取り組みは、コーヒー農家に経済と農業の両方のモデルを提供し、カップの品質を向上させるとともに、スペシャルティコーヒーの栽培が一貫して利益を生むように設計されています。

具体的には、コーヒー農家が自分で把握している生産コストとその資源、設備、栽培環境の中で、より利益を生み出す構造が提供されるなど、経済と農業、各カテゴリでかかるコストを客観的な視点で見極め、専門的な知識と技術を噛み砕いて共有し、農家に投資をすることで、将来的な視点において長期的な収益性を確保することを目的としています。

また、生産・技術面においてコーヒー豆の品質に関する詳細なフィードバックも生産者へ提供されます。このフィードバックは、生産者が掲げる品質目標を達成し、市場のニーズに応えられるようにするためのものです。これに取り組んでいくことで、農家は価格プレミアムの支払いを受けることができます。

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『協同組合/Cooperative』『精製所/Washing Stationl』など、ここで述べた例以外にも、生産者と我々ロースターをつなぐ中間業者がそれぞれの役割を担いながら、スペシャルティコーヒーのサプライチェーン内に存在します。

上記の例を含め、各業種ごとにビジネスモデルは異なりますが、中間業者としての役割に共通している点は以下のようにまとめられます。

・バイヤーと生産者の継続的なコミュニケーションを促進
・チェーン全体の透明性を確保し、農家がより良いコーヒーを栽培・精製するためのインセンティブを提供
・コーヒー農家の品質と収穫量の向上、持続可能なビジネスモデルを開発
・支援をしていくために、サプライチェーンの下流に位置する事業者(商社、ロースター)に情報をクリアに開示、適正なマージンを請求することで生産者に利益を行き渡らせる

これら中間業者にとってプロジェクトの成功は、コーヒー農家が高品質で安定的なコーヒーを生産し市場に流通させることを指します。

世界のコーヒー生産量の全体の60%を担う小規模農家の生産パフォーマンスを向上させることは、コーヒーのサプライチェーン全体の発展、ひいては中間業者にとっての発展にも繋がります。

このことから、中間業者は農園の生産能力向上とパートナーシップの構築に多くの時間と資源を費やします。

スペシャルティ市場において脆弱な立場にいる小規模農家をサポートし、市場への参加する機会を与えているのです。

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問題は、これらの活動がコーヒーを流通させるプロセスで埋もれてしまい、消費者にまで届いていないがゆえに、”多くのマージンを確保する中間業者はコーヒーのサプライチェーン内には必要なのではないか?”という認識が広まってしまっていることです。

スペシャルティコーヒーが普及し始め、品質や生産背景に適切な評価が必要とされ始めてからは、『ダイレクトトレード』の素晴らしさを広めようとするタイミングで中間業者に対する認識は、徐々にダーティーな印象を植え付けられてしまいました。

「ダイレクトトレードはコーヒーの倫理的な取引モデルである」と主張され始めたころ、”これらの中間業者が取引間で存在するために、生産者が得られる利益は非常に少ない”というニュアンスで広まっていったのです。

たしかに、農作物ゆえに毎年の収穫量、品質はよほどの栽培条件が揃っていない限り安定せず、そのバランスによって取引価格も変動するため、生産者へ適切な利益を持続的に支払うのであれば、生産者と直接交渉をして仕入れることが理想であると言われています。

現にダイレクトトレードを見出した先駆者たちが“究極のダイレクトトレード”を目指したことから、その風潮がスペシャルティコーヒー業界内に広まりました。

しかし、本当に生産者=特に市場へのアクセスが難しい小規模農家にとって、中間業者がサプライチェーン上で必要のない存在なのでしょうか?


3)中間業者がいない取引のリスク

COVID-19が流行り始めた時は特に、『中間業者の存在がいかに重要であるか』を認識させるを得ない出来事がたくさん起きたのです。

例えば、アメリカでコロナが流行り始め急激に感染者数(コロナによる重症者や死亡者も含む数)が増え出した2020年3月初め頃。非常事態宣言で政府はレストランやコーヒーショップなどの飲食店を中心に閉鎖させる対応を事業者に要請しました。

しかしその時期はちょうど新しく収穫されたコーヒーが市場に出回る時期で、欧米を始め世界中のコーヒーショップが閉鎖され、サプライチェーンが1ヶ月以上機能を停止せざるを得ない中、収穫されたクロップは行き場をなくしてしまう状況が起きてしまったのです。

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カナダでも同様にこの緊急事態は起こりました。

コーヒーインポーターのSemillaは、「グアテマラで起きたコロナのパンデミックに、さらに前述した企業組織による生産者グループへの圧力も重なり、コーヒー生産者たちのその年の状況はかなり窮地に立たされていた」と当時のことを振り返ります。

その年に収穫されたコーヒーを国外へ輸出するため、Semillaはカナダ国内で連携をとっているロースターと協力しあうことで、なんとかコーヒー豆を流通させ、生産者へ利益を発生させることができました。

もしもこのような生産者と取引をしているのが単一のロースターであった場合、生産者へのサポートが後手に回り、最悪な影響は避けられなかったと想像できます。

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コロナ禍などのイレギュラーな状況でなくとも、そもそもの前提として、例えば小規模事業者同士(コーヒー農園とロースター)がダイレクトトレードを行うと、多くの問題が発生します。

主なリスクとしては以下のような例が挙げられます。

A:契約とキャッシュフロー

…規制が少なく標準化された契約書が正式に交わされないため、生産者に支払いが済まされなかったりバイヤーに商品が届かない可能性が出てくる。外貨での取引のためキャッシュフローが滞り、両者の債務不履行のリスクが高まる。

B:配達と品質

…細かな規制がないため、サンプルと異なる品質のコーヒーが届いたり製品の大幅な遅れ、あるいは貨物紛失などが起こり、両者の経済的なリスクが高まる。さらに、ロースターの場合は物流の組み立て手配、保管場所の確保、品質トラブルの対応。生産者の場合は輸出のために必要な各所許可申請、各国の検疫基準の調査など、本来中間業者が担う負担を全て負わなくてはならない。

C:管理責任の所在

…煩雑な事務処理や、複雑なロジティックスを管理する責任を中間業者が負わなくなるため、生産者かロースターのどちらかがそれぞれ負担することになる。しかし小規模同士での取引の場合どちらか一方がスキルや資源で不足していることが多いため、リスクのバランスが測りにくい。

D:リスク対応力

…一般的にダイレクトトレードの規模が小さいということは、資源や資金に限りがあることを示す。生産者とロースター間で何か問題が発生した場合に、リスクを処理する能力が低いため、事態が大きくなってしまうリスクがある。

E:理想と現実のギャップ

…ダイレクトトレードを実際に行うには、膨大な時間と労力がかかる。しかしそれを乗り越えて実行できたとしても、投資してきた分のリターンが期待値より下回る。具体的には以下の3例が挙げられる。

E-1:オペレーションの規模
→ダイレクトトレードでは、農園の生産能力が低い場合、製品(コーヒーの品種や精製)のバリエーションが低くニーズや栽培環境の変化に拡張性がないため、両者の抱えるリスクは飛躍的に高まる。さらに、少量を産地から直接購入すると一般的にコストが高くなり、輸送コストだけで利益を圧迫してしまう。

E-2:金融リテラシー
→小規模生産者グループは地域の個人経営農家で構成されているが、市場参入力が全てのグループにあるとは限らない。例えば、マーケティングに関する知識、ノウハウがなければ、バイヤーとの交渉に大きな不利益をもたらしてしまう可能性がある。また、取引に必要な為替通貨のやりとり、調達方法などのキャッシュフローの計画を徹底しなければ、生産者に深刻な事態をもたらしてしまう。

E-3:コミュニケーションとマーケットネットワーク
デジタル端末は今では多くの生産者には普及しているものの、地域によってはインターネットのアクセスが不安定な場所や電波が届かない地域が未だに多い。言語や文化の壁もある中、単独でコミュニケーションを図るにはあまりに非合理的であり、大きな問題の原因にもなりかねない。近年SNSの普及により小規模生産者が直接ロースターにアプローチしやすい傾向にはなっているが、マーケットのコミュニティ外で実際に取引までを実現するまでのプロセスは困難なままである。


4)サプライチェーン=生産者への貢献…中間業者は必要な存在である

今まで各メディアで発信されているように、コーヒーが消費者に辿り着くまでのプロセスで手数料が発生し、1杯数百円のコーヒーのうち生産者に渡る利益はごくわずかです。

ダイレクトトレードに限らず、現在のコーヒーの取引構造はその複雑さゆえにまだまだ多くの問題が内在しており、チェーン全体でいろいろなアップデートが行われたり、実践経過のレポートを報告、コーヒー従事者に共有されています。

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“中間業者は必要な存在である”

そう語るのはSupracaféのRicado Oteros氏。彼は、コーヒーの取引において重要なのは、"中間業者を排除することではなく、チェーンの透明性と良好な関係性の構築にある"と言います。

コーヒーのサプライチェーンで活躍する各プレーヤーにはそれぞれ強みと弱みがあります。

・生産者→土地環境の特徴、栽培、プロセスなどの感覚的な知識技術など
・ロースター→生豆に付加価値をつけ、素材を見極め、品質の良さを最大限に引き出し消費者へ提供するなど
・中間業者→リスクの管理、物流計画、コミュニケーションの機会の提供、コーヒーマーケットのネットワーク構築など

例えば以下のように、中間業者は生産者とバイヤーの両者の以下のサービスを提供します。

・バイヤー…生産者、テロワールに関するローカルな情報、入手可能な品種、市場価格、収穫時期、見積もり
・生産者…取引や金融、為替に関する知識、倉庫管理、パッキング、物流、バイヤーへの紹介

それらの役割を理解した上で、足りない部分は各アクター同士で補い合い、各自のスキルを生かす取引モデル。

そのために、携わる人みんなの考え方を一致させ、透明性を高めていくことで、コーヒー生産の持続可能性を高めていくことが可能になるのです。

実現できれば、サプライチェーンに携わる生産者、中間業者、ロースター、さらに購買の選択を日々問われる消費者まで、全ての人たちに貢献していくことができます。

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農作物なので、小規模生産者にとってコーヒーで生計を立てていくには、持続的で安定した生産の供給と需要を常に目指していかなくてはなりません。

そのために、“物流や取引の工程にひそむ多くのリスクを回避し、あらゆるトラブルにも対応できる安心な取引のかたち”を確保する必要があります。

中間業者はコーヒー生産の持続可能性を見出すための必要な存在であるといえるのです。

ROUTEMAP COFFEE ROASTERS
Keisuke Matsumura
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小規模コーヒーショップ【ROUTEMAP COFFEE ROASTERS】
地元千葉県での焙煎所の開業を目指しながら、千葉市稲毛区にてコーヒースタンド[cube]からみなさまへ美味しいコーヒーをお届けしています。

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