見出し画像

DX組織立ち上げを阻む壁〜成長するDX組織に必要なものは何か?〜

はじめに

cross-Xの古嶋です。DX戦略立案・推進やデータ・AI活用の支援をしています。

先日、「本当に活躍するDX人材とは?」というテーマでウェビナーに登壇しました。その際、質疑応答の時間でDX部門、人事に携わる方々から多くの質問を頂き、現在も多くの企業でDX組織の立ち上げ・組織運営に悩む方々がいらっしゃるのだなと痛感しました。

ウェビナーに限らず、DXの組織設計や人材育成についてさまざまな形でご相談を頂いていますが、その中で、典型的な状況・課題として、組織のフェーズごとに以下の3つのパターンを個人的によく見かけます。

Case1:組織立ち上げ期のDX組織(今回)
DX組織を立ち上げたばかりの状況。これからDXの実現に向けて各種取り組みを推進していきたいと考えているが、やるべきことが多く、まずはタスクの洗い出しと優先順位付けを行っている。
弊社cross-Xへの相談事項は、「DX人材の要件定義」について。実際の実務で活躍するDX人材を育成するために必要な観点を網羅的に整理し、計画的な育成計画を敷きたい。
目下作成を急いでいるのは、DX人材の育成推進のロードマップ。半年後には自律的なDX人材が各事業部に輩出されているようにしたいという経営側の要望を実現する必要がある。
Case2:組織立ち上げから1年程度経過したDX組織
DX組織を立ち上げて1年程度が経過した状況。DX組織は経営直下で配置されており、各事業部を支援する形での活動を期待されている。少しずつ整備され、本格的に各事業部への支援に踏み込んでいきたい。
弊社cross-Xへの相談事項は、事業部への支援の入り込み方について。1年程度が経過したが、各事業部への支援が思うように進まず、成果創出に苦慮している。DX組織が事業部支援で成功を収めている事例や典型的なパターンが知りたい
目下急いでいるのは、社内での成功事例の創出。自社独自の成功パターンを生み出し、それを各事業部に横展開していきたい。
Case3:組織立ち上げから2〜3年程度経過したDX組織
DX組織を立ち上げて2〜3年が経過した状況。DX組織が主体となって各種施策を推進中で、各種施策の成果が表れてきているところ。
弊社cross-Xへの相談事項は、各種DX施策の状況整理と立て直し。各種DX施策について未だに目に見える成果が出ず、所々炎上している案件も出てきていて、早期の成果創出に向けて経営からプレッシャーがかかっている
目下急いでいるのは、特にシステム開発で難航することが多く、期待していたような成果を出せていない部分について、再発を防止するための仕組み化をしていきたい。

本ブログでは、上記3つのケースのうちCase1の「組織立ち上げ期のDX部門」で典型的に起こっている状況・課題と、それらへの対処方針を簡単に解説していきたいと思います。Case2、Case3については追ってブログに書いていこうと思います。

これからDX組織を立ち上げる、もしくは今まさに立ち上げはじめた方々にとって、リスクの事前回避や推進上のヒントなど、何かしら実務に活かして頂ければ幸いです。

DX部門立ち上げ初期に、頻発する課題のパターン


大手企業でも、ここ1年ぐらいの間にDX組織を立ち上げた例は私の知る限り少なくありません。その際、立ち上げの進め方やプロジェクト推進方法、DX人材育成など幅広いテーマのご相談を受けますが、その中で、そもそも根本的なボトルネックとなっている課題があるのでは?と思っています。

その課題としては、以下の5つのパターンがあるように見受けられます。

  • 予算。DXによって創出したい成果が既存事業の規模と比較され、投資対効果が低いと言われがち。よって、組織体制として必要な人数を提示しても、必要稼働量に対して不十分な人員数となり、埋め合わせのために他部署・他プロジェクトと兼務する人員が混在することになりやすい。この点、DX側も交渉したいが、成果が出るか不透明なので、強気の姿勢で交渉できない。

  • スコープ。部門間の調整業務が非常に多い。例えば、データアクセスのために情報システム部や外部ベンダーを巻き込んだ“交通整理”が必要であったり、DX関連の取り組みを独自の予算を持って既に進めている事業部門やマーケティング部門等との役割整理や協業方針のすり合わせを要するなど、関係各所への配慮が不可欠となる。

  • ドメイン知識。DX成功の経験を持ったメンバーが社内に希少で、外部から採用したDX専門人材が主体となるケースが多い。その際、外部から来た人材は既存事業への理解が浅く、業務理解に時間がかかり、現状整理や課題抽出に膨大な時間が初期的に必要となる。

  • コミュニケーション。リモートワークの環境下では、上記の業務理解だけでなく、チームビルディングに必要となるコミュニケーションが量的に少なくなりがちで、誰が何をしているのかが不明確になりやすい。また、業務理解のための情報収集も、オフィス内で話しかけたり、立ち話をするといったことが出来ず、情報収集が難航しやすい。

  • 時間軸。昨今立ち上がるDX組織は総じて後発であることが影響してか、市場トレンドや競合動向を意識し、成果創出を「短期間」で「大きく」求められている傾向が強い

以下、一つずつ見ていきましょう。

予算不足によって陥る典型的な課題

DX組織立ち上げ時点では、予算の制約を受けることが通常でしょう。最初から大規模な投資を引き出せているDX組織は稀なので、ここでは予算を十分確保出来ていないケースを想定します。

DX関連のプロジェクトは、立ち上げ当初は「社内コンサル」的な立ち回りになるのが一般的です。まずは社内の業務やシステムの調査・ヒアリングを通じて現状把握を行い、課題を抽出して解決策を検討していく、といった流れです。

その際、DX部門としては一つのプロジェクトに集中的に取り組むというよりも、同時並行で複数のプロジェクトを推進し、いずれかの施策で成果を出したいという「ポートフォリオ」的な発想を持つと思います。逆に、一点突破で“賭け”をしているかのようなプロジェクト推進をするような責任者は、まず居ないと思います。少なくとも私は出会ったことがありません。

すると、当然ながら複数のプロジェクトを同時進行することになります。そこで、リソース不十分な企業で担当者に待ち受けるのは、複数プロジェクトの“掛け持ち”です。つまり、個々のDX担当者が複数のDXプロジェクトにアサインされ、兼務する形でタスクを推進していきます。

この点、掛け持ちが「適切な選択」であるかのような論調がまかり通る様子をよく見かけます。ですが、この状況で成果を出せるDX担当者は「超がつくほど優秀な人材」です。普通は、DXプロジェクトを掛け持ちしながら狙い通りの成果を出すなどという芸当は、はっきり言って、無理です。この点の理由について、パッと思い当たるだけでも3つほど挙げられます。

一つ目は、“掛け持ち”の状況はオーナーシップを不明瞭にします。DX関連の取り組みは、あらゆる点で組織的にもメンバー単位でも「新しいことばかり」であり、しかも事業部門とシステム部門を横断した取り組みになることが通常であるため、片手間で推進できるようなものではありません。その最中で、現状調査や実態把握が進まなかったり、開発担当との調整が滞ったり、問題が発生した後の対応に付きっきりになれる担当者が他業務に忙殺されていて不在であったりすると、すぐに取り組みは停滞します。

2つ目は、“掛け持ち”はプロジェクトを停滞させる格好の“口実”になることです。プロジェクトを兼務していると、一方の活動が忙しくなれば、そこにリソースを集中し、他のプロジェクトを「後回し」にすることが容易に正当化できます。

これは良い・悪いという話ではなく、よほど仕事が速い人でなければ、稼働量には時間的・常識的な制約が伴うため、無理強いできないという理由等でリソース配分のバランスは当初計画から直ぐに、大きく崩れます。これは“掛け持ち”を正当化している以上、不可避です。複数のDXプロジェクトが首尾順調に進み、それぞれでしかるべき成果を出したという企業・組織など、この世に存在するのでしょうか。少なくとも、私は見たことがありません。

3つ目は、1つ目と2つ目の帰結とも呼ぶべき状況ですが、“掛け持ち”は担当者のモチベーションを著しく毀損する可能性が高いです。多忙を極め、コミットメントも生まれづらい中でプロジェクトを推進していると、どこかで必ず無理が生じます。実際、私も支援に入る中で、現場担当者が漏らす不平不満を直に伺うこともしばしばあります。もちろん、この点は“掛け持ち”だけが原因ではなく、当人のスキル不足など原因はさまざまですが、「忙しすぎる」という状況は客観的にも確かに見受けられます。

この点の対応方針は、各プロジェクトにフルコミット出来るメンバーを少なくとも1〜2名必ずアサインすることです。全員が兼務の状態でないと立ち上がらないようなプロジェクトは、進めること自体を避けるべきです。経営上優先度が高いなどの理由で強引に進めるケースでも、後々大きなリスクを伴うため、やるからにはリソース確保が必須です。ここは、DX全体を統括する方の手腕が問われるところでしょう。

なぜ、DX部門は“肩身”が狭いのか?

DX部門を立ち上げた後、待ち受けるのは関係各所への「説明」です。

自分たちはどういう組織で、何のために存在し、この会社のために何をしていくのか。その説明のために資料を練り上げ、関係各所にプレゼンし、相互理解を作り出していこうと尽力していくことでしょう。

しかし、ここで心得ておくべきことがあります。それは、どれだけ丁寧かつ熱意を持ってDX部門について説明をしたとしても、その内容はすぐに忘れられます。一週間後(場合によっては数日後)にその内容を十分に覚えている方々は、ほとんどいません。

そもそも、各事業部門は事業計画達成などのために日々の業務に追われ、忙しく、DX部門に構っていられるほど暇ではありません。

一方、DXの実現のためには他部門の協力が必須です。経営が求めるDXのスコープは間接部門に留まらず、主力事業部でも変革が求められることでしょう。DX部門のビジョンやミッションには、その点の意味合いも込められているはずです。

この点、私が関わってきた企業の中で、DX推進に成功している企業では、この「他部門との協力」を得ることが成功の要諦となっています。DXで成果を挙げている企業では、DX担当者が他の事業部門、場合によってはグループ会社を巻き込んだ「協力関係の構築」に非常に長けています。しかし、このようなケースは稀であり、普通はなかなかうまくいきません。この協力依頼のステップでは、特に組織立ち上げの初期フェーズで、交渉のための膨大な実務が待ち受けています。

例えば、顧客データを活用してセールス部門の活動に寄与する分析システムを作りたいとします。すると、マーケティング部門やセールス部門ではこういった活動に協力的な姿勢を示してくれる一方、個人情報保護の観点からデータ活用に慎重になりたい情報システム部門などでは、システム調査やベンダーとの協議など付随的に多くの業務に追われることが目に見えているため、消極的な見解が提示されがちです。

また、積極的に見えたセールス部門やマーケティング部門でも、データ共有や業務調査、追加的なデータ入力依頼などを相談すると、業務過多のためDX部門への連携が滞ったり、追加的なデータ入力をセールス部門でなかなか対応してもらえないなど、“しりすぼみ”のように協力のスタンスが弱まっていくことも珍しくありません。

上記のような状況は、決して各部門が非協力的だからとか、どこかの部門がボトルネックになっているとか、そういったレベルの話ではなく、DX推進上「やむ無し」の状況で、当たり前のことです。この状況で他部門を批判するような声も聞こえたりしますが、完全にスタンスがズレています。繰り返しですが、このような状況になるのはやむ無しであり、普通で、当たり前だと考えたほうが良いです。少しでも逆の立場、すなわち事業部側や情シス側での実務を経験すれば、身をもって実感出来ることです。

では、どうするか。そもそも、このような組織的・実務的な壁に果敢に挑み続け、ブレイクスルーを実現するまでやり遂げることが、DX部門が直面する最初にして最大の試練だと、私は思います。ここを突破せずして、DXの成功はあり得ません。そして、ここに“正攻法”も“秘伝のタレ”もありません。あるとすれば、「そういうものだ」と腹をくくることが出来るかどうか、だと思います。

業務を知らないDX人材は、活躍できるのか?

新しくDX組織を立ち上げると、その「立ち上げメンバー」を外部から採用するという手法は既に広く浸透していると思います。社内のプロパーだけでDXを実現するというスタンスが非現実的であることは、改めて語るまでもないでしょう。

しかし、ここで多くの企業が抱える課題として、「DX人材が自社業務を十分に理解していない」という典型的な課題があります。外部からやってきたDX担当者がDX関連の提案を各部門にプレゼンしている際、その場の会議がなんとも言えない空気になってしまった状況は、実は少なくないのではないでしょうか。

事業理解が浅い提案は、往々にして抽象度が高く、「で、それって結局何の役に立つの?」という事業部側の疑問に真正面から答えられていないケースをよく見かけます。

例えば、私が見かけたものとして、

「ワークショップでデザイン・シンキングを勉強して、事業部の課題を整理してみましょう」

「データを活用したビジネスモデル、マネタイズモデルを皆で考えてみましょう」

といったものがありました。デザインシンキングを用いたり、ビジネスモデルを考えること自体は当然重要なアプローチなのですが、この点、恐らく読者の方々も何かしら「違和感」を持たれると思います。

その違和感の原因は色々あると思いますが、特にその強い要因となっているのは、DX施策を推進する主体が、いつの間にか「事業部側」に移ってしまっているということです。事業部側に違和感を持たれてしまっても、仕方ないでしょう。

このような施策が生まれてしまう原因はさまざまですが、その主因は端的に言って、DX担当者が現場実務を分かっていないから、です。

分からないから、深く掘り下げられない。であれば、分かっている方々に考えてもらおう。そんな思考プロセスで施策を何とかひねり出していると、いつのまにか、そのための手段を提供する「サポート役」になってしまう…。上記のような施策が生まれてしまう経緯は、実はこのくらい単純な理由である場合がほとんどではないでしょうか。

逆に、DX担当者が実務をしっかり理解していれば、課題を見極め、具体的な解決策を「直接」提示出来るはずです。実務理解が十分であれば、上記のような「間接的」で「遠回し」な施策は、そもそも起案されないはずです。そのような施策が進んでも事業部側としては仕事が増えただけで、普段の忙しさは何ら変わらず、嬉しいことは一つもありません。これでは、DX部門に協力したいと思うどころか、「関わらないでおこう」と考えるほうが自然です。

仕事を増やすのがDX部門ではありません。仕事を「減らす」ことこそが、DX部門の真っ先に取り組むべきテーマです。事業部側の仕事を減らし、その成果を実感してもらうことが出来たら、その後は事業部からの協力が格段に得やすくなるはずです。そのためには、実務にしっかり習熟し、DX部門が主導して成果を出せるプロジェクトテーマを発見するまで、粘り強く実務を分析・検証し続ける胆力が求められます。

リモートワークが情報収集に与えた影響

HR総研:社内コミュニケーションに関するアンケート2022」(2022年1月)によれば、社内コミュニケーションを阻害している要因の3位に「対面コミュニケーションの減少」が挙げられています。さらに、「対面とオンラインでは、どちらが社内コミュニケーションを取りやすいか」というアンケート項目では、前年度に比べて「対面派」が増加した結果となっています。このアンケート結果から、リモートワークよりも対面で仕事をしたほうが何かしら良いと考える方が増えている、という示唆が導き出せると仮定して、以降の議論を進めます。

オフィスの導線設計では「社員同士が交差するような導線にお菓子を置く」「ワークスペース以外にも椅子やソファーを置いて談笑する機会を作る」といった偶発的なコミュニケーションを喚起する仕掛けを散りばめることがトレンドですが、テレワーク・リモートワークではそのような仕掛けは無効化します。

また、テレワーク・リモートワークは部門ごとの実務特性で濃淡が付けられるケースが目立ちます。例えば企画関連の業務は支障が出づらいのでリモート可能となる一方、情報システム部門や経理部門はシステムログインやセキュリティ対応などの必要性からオフィス勤務がルール化されていることも珍しくありません。よって、重要部門同士が膝詰めで議論するということが難しい様子をしばしば目の当たりにします。

この点、DXに向けた業務ヒアリングにおいて、リモート形式で会話のみでヒアリングをしながら情報整理や認識のすり合わせを行うには、非常にハイレベルな、卓越したスキルが求められます。そもそも、話した内容がズレずにそのまま相手に伝わるという前提でコミュニケーションをしていると、後々確実にトラブルが生じます。仕事を理解する過程で、この点に気づくことは誰もが通る道ではないでしょうか。

ヒアリングを行うからには、業務について知らない部分が多々あるはずで、それを「話を聞くだけ」で網羅的・詳細に理解出来るのは、センスの塊のようなビジネスパーソンか、百戦錬磨のコンサルタントのような方ぐらいしか想像できません。

私の場合は、前提知識の少ないテーマで議論する際は、壁一面ぐらい大きなホワイトボードのある会議室を準備頂いて、ヒアリングした内容を随時言語化・可視化しながら、発話者と認識を合わせながら理解を深めていきます。

一方、こういった“オフィシャル”な場でのヒアリングに限らず、先程言及した、フリースペースで談笑したりエレベーターで出くわした際の“アンオフィシャル”な場での会話も、非常に重要な情報源です。

「実はあのプロジェクト、うまくいってなくて…」とか、「この前入社した担当の方がすごく優秀な方で…」といった情報は、オフィシャルな場ではないからこそ話せる、重要な情報です。こういった希少な情報へのアクセスが、現在は偶発的な形式でも得ることが難しく、実態としてはDX推進のボトルネックになっているのではないでしょうか。

DXの実務では、情報が手に入らなくて実務が進まないというケースが四方八方で同時的に起こります。この点を解消するには、とにかく行動して情報を得るしかありません。そこを億劫がって、理由を付けて行動を躊躇っているようでは、そもそもDX担当として不向きだと言わざるを得ません。必要ならばオフィスで、現場で、対面で、一次情報を掴み取り続ける行動力は、DX人材に最も強く求められる要件の一つだと、私は確信しています。

DXは、短兵急な結論を急ぎがち

この点は、特にDX部門の立ち上げ当初に作成された計画で良く見られます。

DX関連の各種施策では、分析ツールを導入してアカウントを発行したら関係者がすぐにツールを使いこなせたり、システムを開発して実務に実装したら直ぐに成果が出る、ということはまずあり得ません。しかし、ツールやシステムの導入・実装から成果創出に至るまでの期間が短すぎるといった、運用開始から成果創出までのリードタイムがかなり短く設定されている様子をよく見かけます。これは、DXへの取り組みの経験値が影響しているように思います。

そもそも、狙った成果を「期間内に実現しなければならない」という発想自体が、かなりズレているように思います。そうではなく、狙った成果が出るまで「やり続ける」というスタンスと行動こそが求められます。

当然、リソースには限りがあるので撤退判断をどこかでしなければならず、一定期間の時間的制約を設けることは確かに適切です。しかし、それが開発時のトラブルや運用時の組織浸透など、不測の事態へ対応や十分な“助走距離”を確保するためのバッファも含めた期間設定にしていなければ、成果を出すまでやり切れる「強い組織への変化」を成し遂げることはできません。結局、DXの実現を左右するのは「組織の力」です。

また、DXは失敗することが普通です。成功を前提としたDXなどあり得ません。そこに追い打ちをかけるように「短期間で大きな成果」を求めるようなことをしてしまえば、事業面でも組織面でも大きなダメージを受けることになるでしょう。

私が関与しているDXプロジェクトや他社の事例を見ていると、DXでは「小さく始めて大きく育てる」という手法が、一つの成功パターンになっていると思います。それもそのはずで、これまでデータ活用やシステム導入で実務を改善・効率化した経験が少ない組織が、そういった取り組みで急に大きな成果を出すことはそもそも考えづらいでしょう。

まずはデータを分析して示唆を出す、ツールを試しに使ってみる、という地道かつスコープの小さいテーマから活動を定着させていくことが肝要です。大規模なシステム活用などによる大きな成果は、地道な取り組みの過程で獲得した組織力を発揮して、はじめて実現されます。

おわりに

ここまで、DX部門の「立ち上げ期」に立ちはだかる典型的な課題について、その概要と対処方針を簡潔に整理しました。

組織立ち上げ時には、その組織を構成する人材としてどのようなスキルやマインドを持つ担当者が適切か、すなわち「DX人材をどのように定めるか」という議論が中心となりがちです。しかし、そもそも、その組織がうまく立ち上がり、成果を創出するための環境や風土が社内に備わっているかどうかが根本的に重要です

せっかく優秀な人材を招き入れることが出来ても、予算制約が厳しく、他部署との調整業務に忙殺され、他のメンバーとの関係構築が難しく、かつ経営からのタイムプレッシャーが強すぎる、といった状況下では、出せる成果も出せないでしょう。

ところが、そういった状況に陥っているDX部門は、実は少なくないのではないか?というのが私が持っている仮説です。全てのDX組織を見たわけではないので根拠は不十分かもしれませんが、少なからず、そういった状況を目の当たりにしてきたのは確かです。

一方で、では「DX人材の要件」はどのように考えればよいか?という点については、ダイヤモンド・オンラインで寄稿、連載中の「DXの進化」にて、第10回の記事で解説予定です。こちらは3月中旬に公開予定なので少し先となりますが、よろしければぜひ御覧ください。ちなみに2023年2月末現在では、第8回まで連載しておりますので、よろしければそちらもご覧ください。DXに関する実務について、戦略面からシステム面に至るまで順に解説しています。

より具体的な質問やご相談などあれば、お気軽に弊社までお問い合わせください。

お問い合わせ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?