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『稲盛和夫一日一言』 5月9日

 こんにちは!『稲盛和夫一日一言』 5月9日(木)は、「リーダーの資質 ①」です。

ポイント:リーダーとして一番重要な資質は、常に深く物事を考える重厚な性質を持つ人格者であること。

 2016年発刊の『稲盛和夫経営講演選集 第5巻 リーダーのあるべき姿』(稲盛和夫著 ダイヤモンド社)の中で、リーダーの選任にあたって最も大切なこととして、稲盛名誉会長は次のように述べられています。

 私は、企業統治の危機を未然に防ぐには、経営システムや経営者の処遇といった問題だけでなく、経営者の資質という根本的な問題についても、改めて考えるべきだと思っています。

 かつて明治維新という大改革を成し遂げ、日本に近代国家への道を切り開いた西郷隆盛という傑出したリーダーがいました。彼は私心のない清廉潔白なリーダーとして、今も多くの日本人の敬愛を集めていますが、リーダーの選任にあたって最も大切なことは次のようなことだ、と述べています。

 「徳の高い者には高い位を、功績の多い者には報奨を」
 つまり、高い地位に昇格させるのは、あくまでも「人格」を伴った者であり、素晴らしい業績を上げた者の労苦には、金銭などで報いるべきだ、と言うのです。

 現在の企業では、そのリーダーである経営者の選任にあたって、「徳」、つまり「人格」はあまり顧みられず、その能力や功績だけをもってCEOなどの幹部が任命され、さらには、インセンティブとして高額の報酬が与えられています。
 つまりビジネス界では、「人格者」よりも功績に直結する「才覚」の持ち主のほうが、リーダーにふさわしいと考えられているわけです。

 しかし本来、多くの人々を率いるリーダーとは、報酬のためではなく、集団のためにという使命感を持ち、自己犠牲を払うことをも厭わない、高潔な「人格」を持っていなければならないはずです。
 事業が成功し、地位や名声、財産などを勝ち得たとしても、それが集団にとって善きことかどうかをよく考え、自分の欲望を抑制できるような強い「克己心」や、その成果を社会に還元することに心からの喜びを覚える「利他の心」を備えた、素晴らしい「人格者」でなければならないのです。

 中国明代(みんだい)の著名な思想家である呂新吾(りょしんご)は、リーダーの資質について、その著書『呻吟語(しんぎんご)』の中で、「深沈(しんちん)厚重(こうじゅう)ナルハ是(こ)レ第一等ノ資質」と述べています。
 つまりリーダーとして一番重要な資質とは、常に深く物事を考える重厚な性格を持っていることであり、リーダーはそのような「人格者」でなければならない、と言うのです。

 さらに呂新吾は、「聡明才弁(そうめいさいべん)ナルハ是レ第三等ノ資質」とも述べています。
 つまり、頭がよくて才能があり、弁舌が立つことなどは、優先順位の低い資質でしかないということです。

 現在の荒廃の原因は、洋の東西を問わず、「第三等の資質」、つまり「才覚」だけを持ち合わせた人がリーダーに選ばれていることにあると考えます。
 ベンチャーを起こし大成功を収める創業型の経営者も、またもともとある企業をさらに飛躍させ中興の祖となる経営者も、いずれにしてもまさに才気煥発(さいきかんぱつ)で、「才覚」にあふれた人たちばかりです。

 しかし、ITバブルの頃がそうであったように、多くの新進気鋭の経営者や企業が、突然彗星のごとく登場しながらも、その後次々と消えていきました。それは、企業のリーダーである経営者を、西郷や呂新吾が言ったような「人格」ではなく、「才覚」だけで評価したことによる結果だと思うのです。

 人並みはずれた「才覚」の持ち主であればあるほど、それらの力をコントロールするものが必要となります。
 私はそれが「人格」であり、その「人格」を高めるために、哲学や宗教などを通じて、「人間としての正しい生き方」を繰り返し学ばなければならないと考えています。
(要約)

  名誉会長は、「『人格』とは、人間が生まれながらに持っている先天的な『性格』が、その後の人生を歩む過程で後天的に磨かれ、出来上がっていくもの」と説かれています。

 そうであるならば、人生の途上で何も学ばず、新たな要素を何も身につけることができなかったとすれば、持って生まれた「性格」が、そのままその人の「人格」になり、その人の持つ「才覚」の進む方向を決めてしまうということになります。

 先天的な「性格」は人によってさまざまでしょうから、生まれつきの「性格」が至らないものであったならば、その人が素晴らしい人生を過ごしていくことができるとは到底考えられません。

 リーダーに限らず、私たち一人一人が「人間としての正しい生き方」を繰り返し学ぶことで持って生まれた「性格」のゆがみや欠点を修正し、新たな「人格」をつくり上げていかなければなりません。

 心の手入れを怠ることなく、反省ある毎日を送っていきたいものです。


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