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長時間座位で鼠径部に痛みが生じる症例

以下に記す症例について、見方、知識の使い方、考え方の流れが参考になれば幸いです。

情報)
成人の男性である。長時間の座位で右鼠径部に違和感が起こり、そのうちズキンと痛くなる。


痛みの部位(鼠径靭帯に沿ったASISの内側)


座位姿勢


今の時点でも、座位で鼠径部に違和感がある。

歩いている方が楽である。

椅子は高い方が楽で、しゃがみ込みは鼠径部が痛む。

違和感が起こったのは、8~9年前にサッカーの試合中に負傷してからであり、その時はしばらく右下肢が上がらなかった。

また、それより前にサッカーで相手と接触し、相手の膝が右鼠径部を直撃したことがあった。

Q) 何が原因か?

A) 痛みが鼠径部で、股関節の屈曲を強めると痛みが出現することから、大腿と鼠径靱帯の間で組織が挟み込まれるインピンジメントの可能性がある。

Q) 座位で症状が出現して歩行は楽だと言っている。大腿骨が鼠径部に近づいて起こるのであれば、歩行時の股関節伸展でも骨頭が前方すべりを起こして症状が出現するのではないか?

A) 座位で起こることがヒントになる。

Q) それは?

A) 鼠径靭帯と大腿骨の近づき方として、大腿骨が鼠径部に近づく以外に、鼠径靭帯が付着する腸骨の偏位がある。

座位は体重が仙腸関節に最もかかり、仙腸関節を動かす。

試しに、右骨盤を少し持ち上げて右仙腸関節への荷重を減らし、仙腸関節の動きを抑えると違和感は消失した。

  左


Q) 仙腸関節のどのような動きが痛みを起こしているか?

A) 仙腸関節というよりも鼠径靭帯が付着する腸骨の動きで考える。

違和感のある部位は、ASISの内側なので鼠径靭帯の外側に位置する。


それが大腿骨に近づくには、腸骨の上部が外転(開く)した状態である。

これは、座位で骨盤に体重がかかったとき、仙骨が腸骨にくさびを打つような状況を考えるとイメージしやすい。

         左

イメージ


Q) 評価では?

A) 不明である。

Q) アプローチは?

A) 評価できなかったが、推論をもとにアプローチを行った。

Q) 方法は?

A) 腸骨の広がりを抑えるために、ASISから腹部前面に走行する内腹斜筋の緊張を高めた。

AnneM,Gilroy 他著、坂井 建雄監訳、市村浩一郎 他訳:プロメテウス解剖学コアアトラス第2版より引用


座位で両下肢を挙上させる運動を5分間行なった。


Q) 何故、この方法にしたのか?

A) 症例は多忙なので、どこでもできる座位にした。

両下肢を挙上するのは、股関節屈曲筋の使用による下肢挙上を成立させるために、骨盤の前傾を抑えようと骨盤後傾作用のある腹部筋群を使用するからである。

Q) 片足ずつではダメか?

A) 片足だと、挙上しない方のハムストリングスが骨盤後傾作用に働き、腹部筋群の活動が低下する。

Q) この運動の注意点は?

A) 体幹の後傾を極力抑えることである。

理由は
体幹の後傾は、体幹に重力がかかり、それを押さえるために腹部の強い力が必要になる。
すると、力のある腹直筋や外腹斜筋が優位に働いてしまう。

通常         体幹後傾


Q) 結果は?

A) 座位での鼠径部違和感は消失した。

Q) 何故、右だけに違和感や痛みが出たのか?

A) サッカーで相手選手の膝が右鼠径部に衝突したことで、右仙腸関節に緩みが生じた。

その後の右下肢の負傷により、右仙腸関節固定筋の低下して症状が出現した。


最後までお読み頂きましてありがとうございます。




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