見出し画像

心を掴むのは良い女より悪い女|抗いがたい、悪女の魅力

好きなAくんに好かれようとして、一生懸命に“良い女”を演じてもぜんぜん振り向いてもらえないのに、なんとも思っていないBくんに何も気にせず接していたら、どういうわけか好意を抱かれてしまった。

......そんな経験、ありませんか?

しかもBくんの好意に気づいた後、ワガママを言ったり、(失礼ながら)あからさまに気持ちを利用するような態度をとっても、嫌われるどころかむしろさらに執着されてしまった......なんて経験は?

釈然としない感情がわくものの、男女の恋愛においては品行方正な“良い女”が心を掴むとは限らないんですよね。

むしろ周囲から”悪い女”と評されるような女性のほうが、深く長く愛されることも......。

今回おすすめするのは、そんな抗いがたい悪女の魅力がたっぷり詰まった小説です。

【恋に効く】ダブルアールおすすめ作品Vol.2

「悪女について」  有吉佐和子|昭和58年初版発行

自殺か、他殺か。虚飾の女王、謎の死ー。
スキャンダルにまみれて謎の死を遂げた美貌の女実業家・富小路公子。彼女に関わった27人の男女のインタビューで浮かび上がってきたのは、騙された男たちにもそれと気づかれぬ、恐ろしくも奇想天外な女の悪の愉しみ方だった。男社会を逆手にとり、しかも女の魅力を完璧に発揮して男たちを翻弄しながら、豪奢に悪を楽しんだ女の一生を綴る長編小説。*裏表紙より引用

こちらの本の主人公・富小路公子が興味深いのは、彼女について証言するある人は「こんな悪い女は見たことがない!最悪だ!」と評する一方で、別の人は「こんなにも純粋で真っ直で気位の高い女性は見たことがない」と発言しているところです。

誰から見ても悪女、というわけじゃないんですよね。

私自身の彼女に対する読後の感想も「野心家で強欲ではあるものの、まっすぐ生きた素敵な女性だったんじゃ......?」というものでした。

確かに数多くの嘘をついているし、とんでもない悪事も働いてはいるんですが、そんな時でも富小路公子という女性の立ち居振る舞いには常に品があって、読者に爽快感すら与えてくれます。

その理由はどこにあるのか......?

これは私の解釈ですが、富小路公子には自分なりの確固たる美意識があって、彼女が行った悪行も善行も、すべてはそのブレない軸に従っただけなんじゃないか。

ー私、美しいものだけに囲まれて生きていきたいんです。

これは富小路公子の口癖で、彼女は幼少期にも、大人になってからも、様々な場面でこの言葉を口にしています。

......ある場面では、正反対のことをやってのけているんですけどね(笑)。

しかしおそらく彼女には、悪気がまったくない。嘘をついている自覚すら、もしかしたらないのかもしれない。

男も女も富小路公子に魅了された人々は、まるでダイアモンドのように光り輝く内面の気高さと、平気で嘘をつき人を裏切る冷酷さの両方を併せ持つ、そのアンバランスな欠陥に魅せられたのではないでしょうか。

「人は欠損に恋をする」

これは美容整形外科の高須院長が、奥様の西原理恵子さんに語った言葉だそうです。

高須院長は、奥様の理恵子さんがどんなに「整形したい」と頼んでも絶対に首を縦に振らないらしく、その理由をこんな風に語っています。

「いいですか、りえこさん。人は欠損に恋をするんです。黄金率でないもの、弱いもの、足りてないもの。人はそれを見たとき、本能で補ってあげようとする。その弱さや未熟さを自分だけが理解していると思う。欠損の理解者になるんです」

......非常に納得感がありますよね。

そして、このことを踏まえて考えると、一生懸命に自分を取り繕って接した大好きなAくんには好かれず、ワガママ放題接したBくんから好かれてしまった理由を理解できる気がしませんか。

好かれようとして相手に合わせたり“良い女”を演じたのは、むしろ逆効果だったというわけ。

ちなみに「悪女について」の主人公・富小路公子も、彼女に惚れた男性は「美人だ」と評していますが、そうでない人は「大して美人じゃない」と語っているんですよ。

富小路公子のような稀代の悪女を目指したり、何人もの男性を手玉にとる必要はないしオススメもしませんが(あらすじに記載している通り最後は破滅していますし、現実世界でも幸福な結末にはなりそうにありません)、自分では隠したくなる弱点や欠損こそが魅力になり得るんだと思えば、自信が湧いてきませんか?

文 安本由佳 / 編集 山本理沙)  

Next  6月27日(土)0:00更新
言わずと知れた名作映画から学ぶ、スーパーエリートの心を掴む方法。

東京のリアルを反映したフィクション小説を中心に、エッセイ・コラム等を更新しています。楽しんでいただけますように。