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私は悲しくなると日高屋に行きたくなる

あなたは悲しいことがあるとどこに行きたくなりますか。

私は悲しくなると、日高屋に行きたくなる。

関東圏内どこにでもある日高屋。「こんなとこにもあるのか」と思わせられるチェーン店、日高屋。知らない人のために説明しておくと、「マックのサンキューセット(390円)に対抗して390円のラーメンをマック近辺で売り客を奪う」というやり方でのし上がった、業界最安の中華チェーン店である。

日高屋には悲しい男たちが集う。日高屋は基本的に家に帰ったところで食事のない未婚男性に向けた飲食店である(という偏見を持っている)。人口を構成するのはサラリーマン半分、学生2割老人2割ニート風デブ1割といったところだろうか。考えて欲しいのは、誰も「日高屋の食事を楽しみに来ている」訳ではないことである。800円900円をラーメンに出せない、ベロベロに酔いたいのに1000円しかない、自炊する気もないが食費を押さえたい。日高屋を日高屋に至らしめるものはそうしたネガティブな動機である。またたまの日高屋での食事が最高の贅沢だ、という者もいるであろう。日高屋はそんな悲しい男たちのセンチメンタルに支えられ、外国人店員たちの救いの手が差し伸べられている。早朝の池袋北口などではもはや飲食店というより救貧院に近いのではないか、と思うくらいの客層が集まっている時もある。

ここには汁なしラーメンという不思議な食べ物がある。

言ってみれば「油そば」なのであるが、他の店で出るいわゆる油そばとは全くと言っていい程別物である。汁なしラーメン+温玉、570円。サービス券提示で大盛り無料。ここで出る食事全てに共通するが、「とんこつラーメン」であったり「みそラーメン」であったり、そのスープの味付けが一体何で構成されているかといった下手な説明がここではなされない。

汁なしが届く。太いゴムの様な麺を鉢の底に溜まるタレにぐちゃぐちゃと混ぜる。何味なのか?実際食してもしょう油の風味以外、何でできているのかわからない。しかし美味い。何味かわからないのに、美味い。きっと説明のしようがない、人工的な味付けなのだろう。汁なしだけでなくここでの食べ物は全て化学調味料によるそうしたインスタントなものなのだ。

You are what you eatとはよく言ったもので、私もこの汁なしと同じ様に嘘とインスタントさといい加減さとが行儀悪くぐちゃぐちゃにかき混ぜられたチープな人間なのだ。

日高屋には悲しい男たちが集う。そして男たちは会計の後「モリモリ券」と書かれた紙切れを財布にしまい、各々の住むところへ帰ってゆく。この紙1枚で70円がサービスされるのだ。この紙のお陰で多少の飢えが満たされる。財布にこれをしまう瞬間も、何だか切ない。

私は悲しくなると日高屋に行きたくなる。

席に座る男たち、席を離れる男たち。彼らを見ているとその悲哀が痛いほどにわかる。私は自らの、そして彼らは己の悲しみを日々誤魔化しながら1日1日を騙し騙し生き続ける。

化学調味料だらけのあの汁なしラーメンのように

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