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ULな「ロングハイク」に挑戦して挫折して

今年は感染症の影響もあって年一回の登山も諦めていたのですが、偶然「山と道」さんのロングハイクのイベント(2泊3日)が四国であるのを知りドキドキしながら参加してきました。ずっと自己紹介で「いつかロングトレイルを歩いてみたい」と書いていたので、国内とはいえ本当に楽しみにして参加しました。

結論から言えば2日目の午後に体調不良(風邪)と体力不足で泣く泣く途中リタイヤしてきたのですが学び多い素晴らしい体験でしたので、記憶が鮮やかなうちに感想を振り返ります。

0.まず、ウルトラライト(UL)とアウトドアブランド「山と道」さんについて

参加にあたって1ヶ月前くらいから改めてULとは何かを学ぶために、何冊か本を読んだのですがそれが非常に良かったです。ULという言葉は「かなり軽い」という意味で使われることが多いですが、アウトドアの文脈で使われる「UL」には「アメリカのロングトレイルに端を発する文化や思想(≒シンプルな装備で無理せずより遠くまで歩く)」という意味を含んでいることが多いのですね。詳細は以下の本「ウルトラライトハイキング」に詳しいですが、1954年に67歳で3500kmのアパラチアントレイルを踏破したエマおばさんの話など、ULの背景となった歴史や文化を知るのはめちゃくちゃ面白かったです。

日本のアウトドアブランドの中で、そんなULの文化を体現されているブランドの1つが鎌倉発の「山と道」です。山と道と言えばその「アウトドアでULなのに旅をしているようなカッコ良さ」から商品が次々と完売してしまうお洒落ブランドのイメージが強いですが、表面的な「軽量化」以上に「ULやロングトレイルの哲学を追求していること」「作り手の想いや意図を丁寧に発信されていること」等からコアなファンを生み出していることが大きな大きな特徴だと思います。一人のユーザー目線としてはpatagoniaの「環境へのフレンドリーさ」や、Snowpeakの「人に使っているところを見せたくなる特別感」、finetrackの「使い手が作り手という説得力」、などとイメージが重なる部分が多いかなと思います。また、SNSやHPを通したユーザーとの「顔の見えるコミュニケーション」を積極的にされているのも印象的です。(あくまで主観なので、それぞれ違っていたらすみません)。

個人的にはHPのコラムが大変面白くて2年くらい前から愛読していました。中でも以下の「チープ・ハイク」シリーズは各種道具の条件を定めてから最安で探してくるという企画で敷居も低く、特にお気に入りです。

2.今回の山行概要

さて今回の山行は、そんな山と道の地域別コミュニティ「HLC四国」さん主催のイベントで、「石鎚山ロングトレイル」の一部(東赤石山から石鎚山まで)を2泊3日で歩くというものでした。全行程は約60km、行動時間は1日目7時間半、2日目13時間、3日目8時間(休憩を入れてコースタイム通り、昼食タイムはなし)というなかなかハードな行程です。

【3日間の山行計画概要】

・1日目:筏津登山口(10:30)→東赤石山→西赤石山→銅山峰ヒュッテ(18:00)

・2日目:銅山峰ヒュッテ(5:15)→笹ヶ峰→寒風山→伊予富士(14:30頃※)→瓶ヶ森(18:00頃)

・3日目:瓶ヶ森→土小屋→石鎚山→石鎚ロープウェーで下山(15~16時頃)

※Google Earthで見ると改めてその長さがわかります。これでも石鎚山ロングトレイルのまだ一部です。

ハードなコースではあるのですが、歴史的に別子銅山が栄えて道路が整備されてきた経緯もあり、エスケープルートが多く安全だなと思い参加しました。(おかげで伊予富士でリタイヤした時も並走するハイウェイにすぐ降りることができました。)

自分を含めた応募者7名+主催者の方々3名の合計10名でスタートしたのですが、初日の筏津(いかだづ)登山口→東赤石山まで岩登りが続く結構ハードなコースで、2日目朝には3名の方が下山され2日目午後に自分も速歩きのペースについていけなくなってしまい(前日から風邪の頭痛もあり)2日目14時過ぎ頃の、伊予富士への上り中にリタイヤを申し出たのでした。伊予富士登山口のハイウェイで車をヒッチハイクして皆さんとお別れして、車酔いしまくりながら頭痛と吐き気でグロッキーな状態で、命からがら帰宅したという感じです。このリタイヤは本当にお恥ずかしいですしお叱りを頂いてもおかしくない結果です。

自分の体調管理や装備の面で反省点はめちゃくちゃあるのですがそれは別の記事にまとめるとして、憧れていたULを実際に体現されている方々と山行をご一緒させて頂いて気づいたことが沢山ありましたので以下記載します。

3.ULへの気付き①「不要な物を持って行かないこと」はできそうでできていないこと

最大の気付きは「ULハイクって不要な物を持っていないだけでめちゃ軽やかで自然体なんだなぁ(それが自分はできてなかったんだなぁ)」ということです。もちろん自分も荷物のウェイトを量って事前申告して、ベースウェイト(水・食料抜き)で6.0kg、トータルウェイト9.5kgくらいで行ったのですがそれ以上に皆さんは装備をきちんと絞り込んでいて、小さいバックパック(miniかmini2)と軽やかな靴(ALTRAやVivofootシューズ)で足取り軽く歩いて行かれるのを何度も羨ましく感じたのでした。まさにこの最新コラム(下記リンク)に書かれている通りです。「使わなくて良い物を持って行かないこと」は、当たり前のようで普段全然できていないことだなと思ったのでした。

一方で夕食時に、自分が固形燃料と小さい300mlのクッカーでお湯を沸かしている横で皆さんがアルコールストーブと大きなクッカー(といっても400-500ml)でたっぷりのお湯を沸かしてラーメンやご飯を美味しそうに召し上がっていたのも非常に印象的でした。ただ軽量なギアを買い揃えるのではなくて「快適性を無理に犠牲にしてまでは軽量化しない」のも自然体のULスタイルなのかもしれません。

ただ、「使うかもしれない」荷物って結局はぎりぎりで持って行きがちですし、本当に自分が経験して納得できないと家に置いて行けないですよね。その意味で、「頭でっかちになるよりも山に行く経験を増やすこと、下山してから装備を毎回見直すこと」がULに向かうプロセスとしては必要なんだろうとも思ったのでした。(帰宅後、結果として要らなかったものを全て除いたらベースウェイトは4.9kgに減りました。装備の振り返りはまた別記事でまとめます。)

4.気づき②ULとは無理してストイックになることではないこと

①とも重複しますが、以前までの自分のイメージとして「UL≒トレラン志向(速く走るために軽くする)」というイメージでいたのですが、ULの本を何冊も読んだり実際に山と道の皆さんと一緒に歩いてみた結果のイメージは「UL=ナチュラル志向(負担を減らして遠くまで歩くために軽くする)」という感じでした。もちろん軽量化の方向性は近いと思いますしトレランとULハイクの重複部分は多いのですが、ULハイカーの方々は自然体で無理がないのに足取りはとても軽やかという感じです。別の角度で言えば「短期志向のトレランと、長期志向のULハイク」とでも言いましょうか、上手く伝えられませんが自分が感じたこの感覚は行ってみないとわからなかったと思います。

5.気付き③メリノウールの万能さ

これは知っている人も多いのだと思いますが、メリノウールの暖かさ・消臭効果はULウェアの根幹を担っていると言っても過言でないかもしれません。今回の参加者の複数の方が下半身はウールのロングパンツ1枚、上半身は「ベースはメリノウール半袖、2枚目がメリノウール長袖、3枚目はレインシェル」で行動着としてはそれらを脱ぎ着するだけ(日中の気温は最低4度〜最高19度くらい)という非常にシンプルな出で立ちだったのがとても印象的だったのでした。今回の準備や山行を通じてウールの万能さに気づけたことは、山行だけでなく自分の今後の生活や旅行でも無駄な荷物や重ね着を減らせるという意味で非常に大きなことだったと思います。(下山後、山と道さんのウェア上下を購入したこと以外にもメリノウールセーターを改めて購入してロンT代わりに毎日着始めました。めっちゃ快適です。)

6.気づき④それでもやっぱり体力は必要であること

自分がリタイヤした後に残った方々を見ると、皆さん無駄なお肉のない引き締まった身体の方ばかりでした。ULハイクの思想は非常に魅力的ですし装備を軽量化することもメリットばかりだと思いますが、いくら身軽でも単純に過酷な自然の中を長距離歩こうと思えば普段からの運動と基礎体力はやはり必須なんだな(そういえば、映画「ロングトレイル」のおっちゃんも最後はリタイヤしてたな…)と改めて思ったのでした。今まであまりランニングが得意でなく体力面での準備を怠りがちだったのですが、日頃からジョグは続けておこうと思ったのでした。

6.最後に

実は今回自分は「山と道」さんの商品を1つも持っていないまま参加したのですが皆様に温かく迎えて頂き、そんな自分をリタイヤ時のフォローまでして下さったHLC四国のT-mountain様や山と道の皆様には本当に感謝しております。上記のように非常に共感するところが多かったので帰宅後、早速バックパック(mini2)とロンT、メリノウールパンツを注文させて頂いたのでした。少しでもULのコミュニティに近づいて行けることが楽しみです。

また上記に書かなかった振り返りとして、久しぶりのパーティ登山で自分が「前の方に必死について歩いているだけ」の時間が長くなってしまったこと(≒計画に対する当事者意識が薄くなってしまったこと)は自分が最後まで気持ちを強く持ち続けられなかった一因になっているかもしれないと思っており、大変反省しております。また次回は今回の登山道をよく調べてソロで(山と道さんの装備をして)リベンジしたいと思っています。

ただ、そんな反省を差し引いても「憧れのULハイク、ロングトレイルの世界」を垣間見ることができて、小さな夢が叶ったような大変充実した山行だったのでした。帰宅したら次男6歳が「俺もいつか山登りしたい」と伊之助口調で言ってくれたので、一人で経験を積みつつ家族との山行もして行きたいと思います。(終わり)

※適宜、追記修正します。

7.おまけリンク

(1)石鎚山ロングトレイル公式ガイドブック(本)

今回歩いた山域のガイドブック。石鎚山ロングトレイルは古くは1690年に発見されてから1973年まで採掘が続けられた「別子銅山」として栄えて、かつては山中に1万人が住んで小学校や映画館まであったという話もめちゃ面白いです。それらの遺跡は「東洋のマチュピチュ」と呼ばれているそうで、今回見られなかったので是非再訪してみたいと思っています。

(2)T-mountainさん(愛媛県松山市の「山と道」取扱いショップ)

今回のイベントを仕切って下さった方のお店です。「山と道」公式オンラインストアで売り切れ中のメリノプルオーバーとメリノウールパンツも、お電話で問い合わせして購入することができました。公式ストアで売り切れで諦めていた方にもめちゃおすすめです。

(3)ロングトレイル(映画)

仕事で成功したリタイヤ間近のビジネスマンの男性が、思い立って悪友とロングトレイルを歩こうとする珍道中。ロングトレイルの雰囲気がよくわかります。(「珍道中」と書いて気付きましたが、ロングトレイルやULって日本で言えば江戸時代の「お遍路さん」「お伊勢参り」とか本「東海道中膝栗毛」「おくの細道」のような徒歩旅行に結構イメージは結構近いのではと思ったり。)

(4)ある街の高い煙突(本・新田次郎)

明治38年に開業した茨城県の日立鉱山の、公害対策に立ち向かう地元の青年と日立鉱山の青年技師との協力の物語。主人公が愛媛県新居浜市の別子銅山の公害対策の話を聞きに行く場面があり、今回の山行中に思い出したのでした。別子銅山は今日の住友財閥、日立鉱山は日立製作所に、それぞれ繋がっているというのも面白いです。山の歴史を読んで、そこを歩いてまた本を読むということもすごく贅沢な楽しみだなといつも思います。

(5)遊歩大全(コリン・フレッチャー)

バックパッキングの原典と呼ばれる1972年の本です。冒頭文で「身も心もひどく痛めつけられ、傷ついたときでも、薬の世話にならずに元気を回復できる唯一の妙薬が、このウォーキングである」というくだりがあって一気に引き込まれました。まだ読書中なのでまた終わったら適宜追記します。