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善い文化を構築する芸術と学び

人生100年時代と言われる現代において、芸術への関心は高まりをみせてくると考えている。そう考える背景として、社会課題の解決策を考えるステップのひとつに「まず課題をもった人に共感する」といったことが言われている。いわゆる人間中心デザインのアプローチである。このような他者への共感というふるまいを身につける方法として、芸術を学ぶことが効果的なのではないだろうか。芸術を学び続けることは、単に他者への共感力や感性を磨くといったことにとどまらず、これからの時代における個人としての善い生き方や、社会としての善い文化の構築につながると考えており、この点について論じたい。

まず他者への共感と芸術の関係について考えてみる。芸術とはブリタニカ国際大百科事典によると「今日では他人と分ち合えるような美的な物体,環境,経験をつくりだす人間の創造活動,あるいはその活動による成果をいう。」という説明がなされており、言い換えると自分が感じたことを他者が感じられるように、脳内で創造された妄想ともいえるものを脳から外の世界で具現化した何かと言える。「何か」とは絵画や彫刻のような視覚芸術に限らず、言語表現や音楽的な時間の表現も含まれる。このように人は芸術を通じてコミュニケーションを行う機能を持っている。芸術を学ぶ行為は、芸術の発信者の思いや感情に耳を傾ける器官を養うことであり、ひいては他者への共感力を磨くことに通じる。芸術を学ぶこと以外の方法でも共感力を磨く方法はあるかもしれないが、人の感性といった根源的な器官へ直接アプローチする学びは、人に対してより自然な素養を磨くことにつながるであろう。

 他者への共感力が養われると、人はどのような行動変容が現れるのであろうか。

現代は様々な社会的背景により個人の価値観が多様化しており、このような環境で人と人のコミュニケーションを円滑に行うためには、他者の価値観に歩み寄る必要がある。共感力はこのような場面で活きてくるのだ。世界的に教育水準の高いところから少子高齢化が進んでいる。このような環境で善く生きるためには個人にフォーカスされた感性を磨くことが求められる。なぜならば、教育によって個人の価値観への尊重が社会通念的に広がり、そのような個人が社会と接するとき、他者が何を感じているかを認知することがより重要となってくる。芸術に触れる行為は、他者であるつくり手の感情をセンシングする能力を鍛えることにつながることから、芸術を学ぶことで他者への共感力を磨くことができると考えられる。

ここまで個人の内面部分について論じてきたが、ここからは社会環境に視点をおき、学び続けることについて考えてみる。社会環境を表す側面として文化がある。この文化は人々の行動の結果として構築されている。つまり、社会がより善い文化を構築するためには、人々がより善い行動を行うことが必要となる。社会環境を表すほかの側面として、長寿命化社会がある。人材論、組織論の世界的権威であるリンダ・グラットン教授によると、人生は3ステージ「教育、仕事、老後」ではなく、マルチステージになると言われている。マルチステージの環境を生きていくためには学び続けることが求められる。若年時代に一度にまとめて知識を身に着けるのでは時代の変化に適応できなくなるので、継続して様々な分野を学ぶことが重要なのだ。多くの人が生涯を通じて芸術を学ぶとどうなるであろう。すでに述べたように他者への共感をもって行動することは、個々の動きとしては繊細かつ微細であるが、人々が共通の社会通念を獲得したときに、これらは大きなうねりとなり文化が構築されていく。この共通の社会通念とは、言い換えると芸術を学び続けることの意義を見いだされた状態のことである。

芸術を学び続けるということは、個人にとっての善い生き方につながり、また社会にとっても善い文化の構築につながるのである。

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