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今の自分を「むき出し」で残しておきたい【ヒューマン中村さんインタビュー】

Radiotalkで活躍する音声配信者「ラジオトーカー」を紹介していく連載インタビュー企画。今回は、番組『ヒューマン中村の軽ラジ』を配信するヒューマン中村さんにフォーカスします。

吉本興業所属のピン芸人である、ヒューマン中村さん。もともとラジオが好きで、いつかラジオの仕事がしたいという思いもあり、一人しゃべりの練習を目的にRadiotalkでの配信をスタートしました。

ヒューマン中村さん宣材写真

自分自身の思いを吐露する収録が多い『ヒューマン中村の軽ラジ』は、さながらドキュメンタリー。落ち込んでいるときも、その気持ちを無理に隠さず出すスタイルの背景には、「自分の未来を見据えた上で、今の自分が考えていることを少しでも残しておきたい」という思いがありました。

(取材・文/ねむみえり

ラジオの仕事を目標に、一人しゃべりを練習する

ーーRadiotalkを始めたきっかけは?

中村:僕はピン芸人なので、一人でしゃべる練習をしたいなというのはありましたね。もともとラジオが好きで、いつか自分もラジオの仕事がしたいなと思ってたので、そこにも繋がればと。

ラジオだったら、コアなファンの人を作ることができるのかなって思ったのもあります。でもやっぱり、自分の思っていることとか感じていることとかをアウトプットする場所っていうのがすごく欲しかったっていうのは大きいですね。

ーー多くの配信サービスの中から、Radiotalkを選んだ理由は?

中村:一番は、バックグラウンド再生ができること。あと、収録は12分までという制限時間があるというのが良かったですね。12分って長くもなく短くもない、ちょうどいいコンパクトさなんですよね。聴く側は気軽に聴けるし、しゃべる側も話をまとめなきゃいけないという意識が働いて、そこが一人しゃべりの訓練になるかなっていうのは思いました。

ーー『ヒューマン中村の軽ラジ』という番組名は、何が由来ですか?

中村:12分っていう時間もそうですし、毎日そんなに面白いことは起きないし、12分間大爆笑のラジオなんてできないから、ほんまに軽い気持ちで僕もやるし、みなさんも軽い気持ちで聴いてくださいね、という気持ちを込めて名付けました。

ほんとはタイトルをもっと考えたかったんですけど、そういうのを考え込んだらめっちゃ時間かかるの自分でも分かってたんで、ぱっと決めないとずっと始められへんなと思って。

仮に『ドキュメントラジオ』とかにしたら、ドキュメントばっかり話さなあかんかなとか思って、なのであんまり意味を持たない、どうとでもなるタイルトルにしました。

収録トークとライブ配信、それぞれのスタンス

ーー収録トークとライブ配信はどう使い分けていますか?

中村:オンの状態にならないとできないのが収録で、オフの状態でもできるのがライブ配信です。

しゃべりたいことがあるとき、ライブ配信だとコメントを無視して話してしまうことがあるので、それなら12分の収録トークのほうがしゃべりやすいなと。ただ、ノープランで録るのは無理なので、ある程度これをこうやって組み立ててしゃべるぞ、と、ちょっと「オン」の状態になるんです。

ライブ配信は、ほんとにプライベートな部分がめちゃめちゃあって。寂しいときとかにやることが多いんですが、特に強くしゃべりたいことはないからコメントもらったりして、ゆるくやってます。なんか食べながらとかもありますし、友達とだらだら電話してるぐらいの感覚ですね。

ーー収録は、しっかり構成を考えてから録るんですね。

中村:がっつりは考えてないですけど、「この話をしよう」という目標が絶対ないと、12分間もしゃべれないんで。

しゃべりながら思い出すことがあったりもするんですよ。例えば3つ話をしようとして、2つ目の話が膨らんで12分いっちゃったな、みたいなことはあったりしますね。

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むき出しの自分をドキュメントとして聴いてもらう

ーー初回から、自分は根がネガティブであると話していて、自分自身をむき出しにした収録をされていました。

中村:しゃべっているうちに出てきてしまうのもあるんですが、ちょっと実験的な感じというか。自分をむき出すことによって知ってもらえるのかなというのはあります。

僕、そんな毎日壮絶な体験してないんで、しゃべることがまずそもそもないっていうのがあって。しゃべることがなかったら、いま考えていることをしゃべるしかなくて。

芸人がYouTubeとかで内面を出したりぶっちゃけ話をしているのを聴くのが好きなんです。それを見ると、すごい親近感が湧くというか、応援したくなるんですよね。

それなら俺もさらけ出したら応援してもらえたりするんかな、とか(笑)。ピン芸人やから、というのもあるかもしれないですね。自分の思いを誰かに聞いてほしい、みたいなのはあります。

ーー毎回ライブ配信のタイトルもすごいですね。『生きる』とか、『将来のことを考えるのは今はやめよう』とか……

中村:ライブ配信を、夜中の2時とか深い時間にすることが多いんです。自分でうだうだ考えて、ネガティブなことであったり、将来のことであったり、今からどうやって生きていったらいいんやろ、みたいな不安であったりとかを感じてる時に始めるんで、タイトルがどうしてもそういうメッセージ性のあるものになりますね。

『生きる』ってライブ配信のタイトルにしたときは、弱ってたんだと思います。よく弱るんで僕は。

ーー「コンビはしんどい時を二人で乗り越えられるが、ピン芸人は自分自身と力を合わせないといけない」という話は興味深かったです。

中村:これは、結構一人の人間としての考え方の話なんです。

僕自身がすごくネガティブで、すごく自己肯定感が低いので、誰かと比べて自分はだめだなってめっちゃ思ってしまって。でも、人にはめっちゃ前向きなこと言えるんですよ。

人が落ち込んでるとき、「でもお前こういういいとこあるよ」ってめっちゃ言える。なのに、なんでそれを自分にしないんやろうな、自分の味方を自分がしてないまま生きてきてるの、なんかかわいそうやなと思って。ネガティブに生きてきてうまくいってないんやから、自分に対してちょっとでもポジティブになれるようなやり方を自分なりに考えたという感じです。

自分のネガティブな部分を出すということに良い悪いはあると思うし、それで離れた人もいるかもしれないですけど、もうこの芸歴になったらキラキラし続けられへんというか。ドキュメントを見せているようなところもあるかな、っていうのはちょっと思いますね。

ーー「#ノンフィクション」とタグをつけている回もありますね。

中村:そうですね、何もうまくいかなかった日があって。それも、ドキュメンタリーなんです。

別にかまってほしいわけではないと自分では思っているんですけど、内面を全部吐き出してしまいたくて。「今を伝えようとしたら、どす黒い感情になってる」という、その感情を伝えなきゃいけなくなるんです。だからそれをしゃべってるんですが、果たして芸人として正しいかどうかはまだ分かってないですね。

もし、聴いてる人も全然楽しくない一日やって、その一日の終わりに、僕のRadiotalk聞いてちょっとでも楽しい気分になろうと思って聴いてくれたのに、僕が暗いこと言ってたら嫌やろうなっていう部分はあります。

でも、もし僕がこの先芸人やめたとしたら、僕が考えてることなんにも残せんまま終わるんやなと思うと、少しでも知ってて欲しいなと思って。墜落していく飛行機の中で手記書く、みたいなのあるじゃないですか、あの感じかもしれないです。

ーーこの回について、周りの方から多くの反響があったと伺いました。

中村:先輩があたたかいLINEをくださったり、後輩にツッコまれたりはありましたね。

でも、色んな番組があって、楽しい番組もあれば、こういうドキュメント番組もある。俺はそのドキュメントの方でやっている、というだけのことなんですよね。「警察密着24時」を見て「いや、オチないんかい!」ってツッコむのは違うじゃないですか。……ただ、確かに、僕が芸人である以上、そう言われるのは仕方がないんですよね。

Radiotalkでしゃべっていると、ときどき自分が芸人であることを忘れそうになるんですよ。一人の人間としてしゃべるけど、芸人としてどうなんやろうっていう内容のときもあるし。でもそれも、いちいち型にはめて考える時代でもないかなって思ってて。

“ピン芸人として真逆”なBKBと始めた番組

ーー同じくピン芸人のバイク川崎バイクさんとも番組をされていますね。

中村:確か最初に、バイク川崎バイクから「Radiotalkってなんですか」っていう連絡が来たんです。僕のほうがRadiotalkのことを知ってたんで、バイクに色々聞かれるのに対して「こういう風にやったらいいと思うよ」っていうのをアドバイスしていたら、「これ、二人でもできるっぽいな」と気づいて、それなら二人でやってみようや、ってなって、すぐ録りましたね。

ーーバイク川崎バイクさんとは、もともと仲の良い関係だったんですか?

中村:そうですね。芸歴はバイクのほうが一個下なんですけど、ピン芸人同士仲良くしてて、実際にMBSラジオの番組を二人でやってたこともあるんです。

2010年から2014年まで放送していた『ハンドレッドレディオ』という番組の中に『○○○のクール番長』っていうコーナーがあって、当時の5upよしもとの芸人がワンクールおきにメインパーソナリティをしていたんです。そこで、2013年の1月〜3月に僕とバイク川崎バイクでメインパーソナリティを担当した縁があって。それもあって、またせっかくだからって始めました。

バイクは僕と真逆のタイプのピン芸人なんです。僕が「誰とも二人組を作れないからピン芸人」やとしたら、バイクは「誰とでも二人組を作れるから、一人でやってるタイプ」なんです。だからバイクは、僕ともできるし、誰とでもできるんです。それはすごいなと思います。

そういえば、バイクとの番組の中で、そういう話をした回がありましたね。僕が楽屋で誰ともしゃべる相手がいなくなった事件がありまして……。

「笑いも相槌もない12分」は地上波ラジオの予行練習

ーー「一人での12分」と「二人での12分」に違いはありますか?

中村:やっぱり二人で録るのは気楽ではありますね。僕がなんにもしゃべることないときは、向こうがしゃべってくれるし、会話だと12分はあっという間なんで。

一人しゃべりのときは、12分を結構長く感じるときがありますね。ずっと自分のしゃべりで間を埋めなきゃいけないですし、一人で12分もしゃべることってあんまないですからね。

劇場ではまだお客さんの笑い声という反応がありますけど、収録を録るときはそれすらないので。笑い声も相槌もなんにもない12分というのは、最初やりだしたときは「え、これ大丈夫?」ってなりました。

ーー確かに初期のトークを聴いていると、なんともいえない緊張感が……

中村:「一人でなんのリアクションもない中12分しゃべるの、こんなしんどかったんや」って思いました。

ライブ配信とかだったら2時間ぐらい余裕でしゃべれるんですけど、それはコメントがあるからなんですよね。収録でめちゃくちゃしゃべったと思ったら5分しか経ってなかったりとかするんで、最初は戸惑いました。

でも、地上波でのラジオでもそうか、と思って。いつかラジオするとしたら、こういうような状況になるわけやから、そういう意味でも勉強やし、鍛えられるなと思ってやってますね。

「才能のない側」にもドラマはある

ーー同じくピン芸人である街裏ぴんくさんのことが「かなり脅威である」という話をされていた回がありましたね。

中村:『R-1ぐらんぷりクラシック』で、出番が1個前か2個前か、ブロックがめっちゃ近かったんです。

ーー街裏ぴんくさんもRadiotalkをされていますが、意識されたりは。

中村:むちゃくちゃ意識しますね。意識しすぎて目をそむけてる感じです。僕が欲しい物すべて持ってるなって思うんで。才能に嫉妬すると思うので、番組も聴けてないんです。

ーーほかの芸人やトーカーの番組は聴きますか?

中村:さっきの理由からも、あまり他の芸人の番組は積極的に聴かないんですが、お笑いコンビ「20世紀」しげの番組に他の芸人がゲスト出演している回は聴いてますね。芸人みんなどんなこと考えてるのかな、っていうのは気になるんで、これは良いコンテンツやなと思いました。

あとは江原という仲のいい後輩がいて、彼のラジオも聴いています。

ーーヒューマン中村さんの収録トークには深い内省を感じて、そこがよい人間味として魅力になっているという印象を受けます。

中村:まだまだもがいてはいるんですが、そういう風に受け取ってもらえたとしたら、僕がRadiotalkでやってて伝えたい部分というか、見せたい部分は見せれてるのかなって思いました。

ーー漫画『ルックバック』についてのトークでは、芸人における努力と才能の話をされていました。

中村:この世界は、ほんまに才能の世界やなってめっちゃ思うんです。才能のある人は努力ももちろんしてるけど、才能がない人も同じぐらい努力してる。でも、才能が10ある人が1努力したら10の結果もらえるけど、才能が0.1しかない人が10努力しても1にしかならないっていうのをすごい感じるので、才能ない側はしんどいなって。

だから、そちら側の声っていうのを残さなあかんなっていうのはあるかもしれなくて。それが僕のラジオのドキュメント性かもしれないです。

ーーストイックに自分のトークをひたすら突き詰めていくと。

中村:ストイックというよりは、認められたいというのがめっちゃ強いんです。どの分野に自分の才能と掛け算ができるものがあるかわからないので、今はRadiotalkを頑張ってやってみているという感じです。

ライブ配信は「夜の屋台」、収録トークは「秘密の集会」

ーーRadiotalkを続けてきて、自分のなかで「変化した」と思うところはありますか?

中村:自分の劇場ライブで一人しゃべりの時間があったりするんですけど、そこでうまくしゃべれるようになったのは、Radiotalkで鍛えられたからかなとは思いますね。毎日12分喋ろうと思ったら、なんか考えたり探しながら生きていく必要があるんですよね。しゃべりたいなと思ったことをメモする習慣が出来たりして、日々訓練になっているな、と感じます。

ーー今後、Radiotalkでやってみたいことはありますか?

中村:僕のRadiotalkを聴いてくれている人がどれぐらいいるのか可視化したいから、公開収録はしたいですね。あと、深夜ラジオが好きなんで、ほんとはネタコーナーとかしたいです。12分なので、限られた時間になるなとは思いつつ。

ーー今、ヒューマン中村さんにとって、Radiotalkはどういう場になっていますか?

中村:ライブ配信は、ふらっと寄れる行きつけのバーみたいな感じですね。あとは屋台とか。自分は夜に屋台引っ張ってるおじさんで、リスナーさんは偶然その屋台見つけて立ち寄ってくれた人、という感じです。出会えるときもあれば、会えないときもあるっていう。

12分の収録トークは、秘密の集会みたいな感じです。どっちにしろ、隠れ家的な部分はありますね。

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