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春巻きワンダーランド

特別良い思い出もないけど、春巻きが好きだ。
また、特別嫌な思い出もないけど、スコッチエッグが苦手。

母が作る春巻きは、具だくさんだ。
冷蔵庫にあるものが何でも入っている感じ。ひき肉のときもあれば、細切りにした肉の日もあったな。もやしやにんじん、ニラ、春雨もあったりなかったり。
変わらないのは、太さ。
一口で食べられないくらいの太さ。具を目一杯入れてあるのがありありと分かる。揚げたては熱々なので、毎回口の中をやけどする。噛むと中かが大量の具が口になだれ込んでくる。ちょっと油を吸ってゆるっとなった皮もいい。
「いっぱい食べてほしい」という母親の願いがこもった春巻きである。
「愛の春巻き」と名付けたい。

近所の中華料理店の春巻きは、プロのワザ。
まるで金属の棒みたい。皮は、きれいなこげ茶色でカリカリ。かじるとパリンといい音する。皮の破片で口が切れそう。油っぽさはゼロ。中の具は全てが渾然一体となっていて何が入っているか分からないが、とにかくうまみがすごい。口の中がうまみで満たされる。
このカリカリ春巻きを自宅でも再現したいと、細く巻いたり、油の温度を高くしたり、低くしたり、いろいろやってみたけど、ついに再現できなかった。そういうところがプロの仕事なんだし、外食の愉しみの一つなので、諦めた。
これは「カッコイイ春巻き」

YouTubeで放映されていたショートドラマで、作っていた春巻きはおしゃれだった。
冷蔵庫にある野菜、例えば、にんじん、ピーマン、サツマイモ、パプリカを全部細い千切りにする。私が作るときは玉ねぎやお肉も細く切って入れる。
千切り野菜を春巻きの皮で巻いて揚げる。コチュジャン、ラー油、しょうゆ、お酢を混ぜたタレで頂く変わり種。
皮に閉じ込められた野菜たちは蒸し野菜のようにほくほく。野菜たっぷりで健康的な気持ちになる。罪悪感のない春巻き。
動画で作っていたのは若い女性だったので、「カワイイ春巻き」と名付けよう。

最後は、スーパーの春巻き。
残業で遅くなった日、24時間の大型スーパーに立ち寄る。値下げシールを貼られた春巻きを手に取る。
お世辞にもおいしいとは言えない。油っぽいし、具は塩気が強い。でもオーブントースターで数分温めたら、ちょっとマシ。
ほんのり温まった春巻きを一口かじって、ビールを流し込む。春巻きの油っぽさ、しょっぱさがビールと合う。
「ジャンクな春巻き」

私の好きな春巻き4選。
春巻きが好きなはっきりした理由は分からないが、多分、食べるまで中身が分からないところが好きなのだと思う。

子どもたちが小さかったころは、ウィンナーを入れたこともあるし、大葉とチーズを巻き込んで揚げれば、りっぱなおつまみになる。また、リンゴを煮たものを巻いてあげれば「なんちゃってリンゴパイ」。
全ての食材を包み込む包容力と遊び心が、私が春巻きが好きな理由。
つまり、春巻きはワンダーランドなのである。

多分一生、ワンダーランドから出られない。

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