見出し画像

『ボーはおそれている』をみた

アリ・アスター監督の『ボーはおそれている』を観に行った。

昔から滅多に映画館に行かない私が、まさかの公開まもなく駆け込んだ稀有な映画だ。
何故そんなに観たかったのかと言うと、「めちゃくちゃ嫌な話っぽい!」と
予告編を見て確信した
からである。

なるべくSNSでネタバレを踏まないように慎重に過ごしていたのだが、前日うっかり感想を踏んでしまった。その人はなんか辛そうだった。「3時間苦痛でした」みたいな感じだ。私はそれを見て「よっしゃ」と思った。

私はホラー映画が好きだが、それ以前に「変な映画」や「嫌な映画」が好きだ。
ホラーはその辺を満たしてくれる確率が高いので必然的によく視聴するというだけで、本来は「嫌なもの見たさ」に映画を観ている節がある。
(かと言ってあまりにも残酷なものは好みではないし、嫌なものにも品が欲しい←?)

アリ監督の『ヘレディタリー』と『ミッドサマー』は視聴済み。
物凄く好き!、というわけでもないのだが、個性的で「おぉ〜」と思わせてくれる映像力があり、せっかくそんな現代の精鋭が作った最新作、しかも絶対変な映画なのだから観ずにおれるかい。
あとは『ミッドサマー』を家で視聴した時に、映画館の方が良かったな、と思ったのもある。

さてわくわくの映画当日。私は焦っていた。家を出るのがギリギリになった。しかも久しぶりの映画館。ちゃんと入場できるのかも疑わしい。
「ボーに間に合うかおそれている」状態になってハアハアしながら映画館に滑り込む。上映時間ぴったりに椅子に座ると、他の映画の予告が10分か15分くらいあった。飲み物を買う余裕があったことを後悔する。久々に来るとそんなことすらも忘れているのである。

パリピ孔明の予告を遠い目で見つめながら、ふと「3時間苦痛でした」の人を思い出しチラッと不安が過ったが、自分にはミニシアターで『神々のたそがれ』(アレクセイ・ゲルマン)を3時間過ごした自負がある。
耐えた、とか言うと本当に失礼だし『神々のたそがれ』はちょっと言葉では言い尽くせない異様なエネルギーの映画なのだけど、とにかくあれを耐えてるんだから大丈夫さ!!

さてそんなわけで映画は始まった。

ホラーでもサスペンスでもない、なんか奇妙な話。
みっちりホアキンと過ごす3時間。
好きか嫌いかで言えば、私はわりと好きな映画かな!



さて以下は作品の内容に触れるのでネタバレあります。
かと言って深い考察はありませんよ!





あまり先入観を持たないように挑んだので、前情報としては「怖がりのボーのお母さんが死んだことをきっかけに不思議な旅に出る」みたいなことしか知らずに観たのだが、わりと素直にそういう話だった。

個人的な采配で場面を分けると

アパート…導入〜車に轢かれるまで
ロジャーの家…看病される〜少女たちに連れていかれ、トリップする
森…お芝居とおとぎ話的なやつ〜脱出
お母さんの家…葬式、幼馴染との再会
お母さんの家(2)…お母さんと色々
エンディング…屋根裏パニック〜家脱出〜船転覆

って感じなのだが、個人的には前半のアパートでのごちゃごちゃが好きで、
めちゃくちゃ嫌な街に住んでるのが気の毒だけど笑った。
輩に侵入されないように爆走しながらアパートの玄関に入るのほんとうに面白い。そんな街に住むなよ。
あと風呂場で上から落ちてきたおっさんと揉み合ってるシーンを観た時に、
「ああやっぱり観にきて良かった。こりゃ変な映画だぜヒュウ!」と思いました。

ロジャーの家の、小綺麗で整った善良そうな人たちの薄気味悪さは、なんかもう監督のお家芸って感じ。昼間なのに不穏。

私は、少女に連れていかれて何かやべーもん吸わされたあとは、ほとんど妄想か幻覚かなと解釈しており、実はお母さんが生きてる…!?とかも全然ただのフィクションだと思っているのだけど、どうなんだろうか。
まあそんなことを言い出すと冒頭から何もかも怪しいちゃあ怪しいけども。

ところで森のパートはうつらうつらしていたのでちょっと記憶が曖昧。
でも「性交したら相手が死ぬ」というトンデモ特異体質のところは目撃していたので、後々幼馴染がアーッ!となるのも薄々予想できて実に悲しい気持ちにさせられました。
たまにはボーにも良いことがあってくれ。(直前まで幸せだったろうけど)

屋根裏のでっかいアレが攻撃されている時は、人のもん(?)ながらイタタタと思った。

最後、ボーの乗る小舟は無情にも転覆。そしてまさかのエンディング。
あの急に手を離されて絶望的な気持ちでただ前を見るしかない感じ、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』を彷彿とさせる。
でも『ダンサ〜』の方が遥かに救いのない映画だし…、と思うけど、ボーも全然救いはないか……。

全体的には思ったよりお母さんの要素が強く、後半になるにつれ、むしろこれはお母さんの話なのか?とすら感じた。
お母さん、さらにその母(もしかしたらその前)から続く愛情の歪みがボーの今を作ってしまったのだから、ある意味「母」への問いを投げかける映画だったりして。
そんなボーのお母さんも、自分の母に愛されたかったんだもな、と思うとつくづく寂しい話。

ちなみに、奇妙な中にも緩急があり、3時間を退屈させない映画ではあったと思う。森は…、森は眠かったけど…!

ボー、全部夢だったらいいのにね。そんで、起きたらとりあえず引っ越しなよ!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?