斜陽(いちごの匂いつき)

 小さい頃よく、行きつけの本屋さんから会計の度に女子向け雑誌の付録だけをもらっていた。

 それはフレークシールとかラメペンなどといった、「ふろく その②」として本誌で紹介されていそうな、ささやかなものだった。このお店でも他のところでも、わたしはそういう雑誌を買ったことがなかったため、それぞれタッチの違うキャラクターたちが一体誰なのかが分からなかった。しかしせっかくのご厚意を無碍にはできなくて、というよりもわたしは、自分が優しくしてもらえたことが素直に嬉しくて、その証として「おまけ」を買い物の度に受け取っていた。日焼けした本がいつまでも並んでいる本屋だった。

 わたしはその中から『ブラック・ジャック』をパロディしたギャグ漫画を買った。家の本棚にあった『ブラック・ジャック』を全て読み終えたタイミングだったわたしの、人生二回目の衝動買いである。財布の中をたどたどしく探るさまを優しく見守られるのは少し恥ずかしい。おじさんはやっぱりおまけを付けてくれた。大きくなるにつれて少年漫画誌の付録を入れてもらえることも増えた。出版社のキャンペーン用のものも混ざっていたことがあったが、明らかに規定された量を超えていた。どうにもそれが、ずっとずっと嬉しかった。

 ぽつねんとした中学生では叶えられなかったが、いつかはあの、背表紙が褪せてもなお聳える『ハリー・ポッター』シリーズ全巻をお迎えにあがりたい。そう考えられるのは、ここが3年でコンビニがひとつ無くなるくせに、本屋は少なくとも20年は居座ってくれる、奇妙で愛すべき場所だからである。

(おそらく つづく)

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