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1. 先行文献研究:フィールドミュージアム構築における代替現実ゲーム「Ingress」の活用(白井暁彦・小瀬由樹・上石悠樹・長澤奏美・美濃部久美子・木村智之、2015年)|内田悠貴

第3章 先行文献研究

 先行文献研究においては、Ingressに限らず、他の位置情報ゲームを用いた観光振興の取り組みについての研究や自治体から発表された報告書を取り上げた。

1. 先行文献研究:フィールドミュージアム構築における代替現実ゲーム「Ingress」の活用(白井暁彦・小瀬由樹・上石悠樹・長澤奏美・美濃部久美子・木村智之、2015年)

<先行研究内容>
 市域をひとつのミュージアムと見立て、電気的・市民的ネットワークによって、市民が主体的に生きたミュージアムに関わる必要があり、ICT技術の活用も重要な要素である。神奈川工科大学白井研究室と相模原市立博物館は博物館ネットワーク事業「相模原どこでも博物館」を協働で実現すべく、「みんなでつくる相模原『知的探求散策アルバム』」として推進してきた。
 本先行研究は、アンケート調査で明らかになった「中高生に加えて、18歳〜39歳といった若者世代の来館者が他の世代と比べて少ない」という結果に対して、特に「博物に興味がない市民」に対して、Ingressを用いて、新しい来館者層に向けて行った、webサイト開発、デジタルサイネージシステム開発、ワークショップイベントの実施を通したフィールドミュージアムの新しい展開手法と結果についての報告である。
 Ingress内で起きている出来事は非Ingressプレイヤーに知る方法が無いなど、ゲームのみでは解決できない部分が課題として挙げられるが、ゲームの外部にこの課題を解決するICTサービスを展開することでフィールドミュージアムの開発が可能になると考えた。具体的には、「Webサイト開発」、「デジタルサイネージ開発」、「ワークショップイベントの実施」といった3手法による補完を試みた。
(1) Webサイト開発
 オープンソースのコンテンツマネジメントシステムであるWordPressを用いて、『部活動のような』というコンセプトでサイトサービス名「相模Ingress部」の設計を行った。また、ブログに用いる写真からEXIF情報(撮影した画像に記録される、撮影日時や機種、GPSなどのデータ)を取得し、地図生成を行うプラグインを開発した。
 コンテンツ展開のワークフローは、①「相模Ingress部」の投稿者AがTwitterに新しく発生したポータルの情報を投稿する。②博物担当スタッフである投稿者Bがキーワード・学術情報などの付加、地図の自動生成、学芸員の監修を経てWebサイトのコンテンツとして投稿する。③自動投稿が設定されているTwitter、Google+などのSNSへも投稿される。④IngressプレイヤーはTwitterやGoogle+の投稿を閲覧し、⑤非IngressプレイヤーはWebサイトのコンテンツに付与したキーワードの検索などからWebサイトにアクセスする。
Twitterでの反響:2014年11月13日から2015年1月20日の68日間において、主に地域のIngressの投稿490件行い、13.7万回の表示回数を得た。
(2) デジタルサイネージ開発
 実際に相模原市立博物館に来訪するにも関わらず、フィールドミュージアムの活動を知らない層に向けたアプローチとして、無料で利用できるクラウドストレージサービスであるDropboxとWindowsの壁紙機能を組み合わせたデジタルサイネージシステムを開発した。
(3) ワークショップイベントの実施
 Ingressプレイヤーにおいて、ゲームにしか興味がない層を市立博物館に来館させることを目的に、2015年1月4日にIngressを用いた街歩きイベント「ふちのべIngress初詣」を企画し、21名が参加した。参加者からは、Webフォームを用いて作成した事前アンケートとイベント後アンケートを取得した。
 取得したアンケートから、博物館へ初めて来館した参加者が38%いたことが分かった。一方で「月一回以上」など、本イベント以外でも博物館に来館していたことを意味する回答もあったことから、本イベントはこれまで博物館に来なかった層を来館させるだけの新たな価値を創出することができ、イベント以外でも博物館に来館している層との橋渡しを実現したと考えられる。特筆すべき点として、この参加者が、2015年2月7日の「春よ来い!相模原Ingress豆まき!」が開催される上で中心的役割を担い、同時にNiantic, Inc.公認の初心者向けイベント「First Saturday」の開催地にもなり、自主的なIngressプレイヤーの運営により開催され、63名が参加した。

<論文を受けて>
 相模原市立博物館へ若者世代の来館者が少ないというアンケート結果由来する地域社会課題の発見が、Ingressプレイヤーによる自主的な運営によるイベントの開催を展開するという新たな価値を生み出したという点で、Ingressの活用が、ゲームの要素を別の領域に応用して社会課題の解決を目指す"ゲーミフィケーション"を実現したと考えられる。

前の項目 ― 第2章 Ingressについて

目次

次の項目 ― 2. 先行文献研究:地域活性化におけるIngressの可能性(岩手県庁Ingress活用研究会報告、2015年)

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