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8. 先行文献研究:Webと実世界とをつなぐ宝探しゲーム「ジオキャッシング」の普及と地域振興への応用可能性(倉田陽平・池田拓生、2011年)|内田悠貴

<先行研究内容>
0. 概要
 ジオキャッシングはインターネット上の掲示板とGPSを利用したハイテク版宝探しゲームであり、全世界で 150 万人以上の参加者がいると言われる。このゲームにおいて「宝箱」は参加者自らが現実世界のどこかにひっそりと隠すが、その際に他の参加者に紹介したい場所に設置しようとする傾向があるため、穴場的な名所を広く知らせしめ、かつその名所に冒険的魅力を付加する効果が期待される。本先行研究では、ジオキャッシング公式サイトから収集したデータをもとに、日本において近年、ジオキャッシングが指数関数的な成長を遂げている現状を明らかにする。また、このようなジオキャッシングを地域振興に取り入れようとする式根島の事例を紹介し、ジオキャッシングの観光地域振興への応用可能性と課題点について議論する。

1. はじめに
 GPS を搭載した携帯電話やスマートフォンの普及によって、位置情報を使った様々なゲーム(位置ゲー)が登場してきた。その中では、例えば和歌山県北山村へ多数の来客を持たした『コロニーな生活☆PLUS』のように、過疎地へ人を呼び込むコンテンツとして機能しているものもある。
 ジオキャッシングは、インターネット上の掲示板とGPSを利用した「ハイテク版宝探しゲーム」である。2011年11月現在、全世界で150万個超の「キャッシュ」と呼ばれる宝箱の情報が登録されている。
 ジオキャッシングが通常の地域型ゲームと大きく異なるのは、ゲームが不特定多数の参加者によって作られるという点である。ジオキャッシングでは参加者の側が自ら相互に楽しむためにゲーム要素(キャッシュ)を設置する。このため、上手く行けば地域において自律的にゲームが進化し続ける可能性がある。
 またジオキャッシングにおいて、キャッシュは参加者が他人に紹介したいと思うような風光明媚な、あるいは何らかのゆかりのある場所に設置される傾向がある。このため、個々のキャッシュには、地域の隠れた観光名所を広く知らせしめる効果と、その名所に「宝探し」という冒険的価値を付加する効果とが期待できる。

2. 文献の中のジオキャッシング
 ジオキャッシングの急速な広がりを受け、「なぜ人はジオキャッシングを行うのか」という疑問に対する研究が行われてきた。例として、Chavezらのミネソタ州のジオキャッシング愛好家たちにアンケートを行い、彼らの動機を統計的に分析した事例を挙げる。その結果、「森林風景を楽しむ」「運動をする」「新しいことを経験する」「自然を経験する」「技術や能力を試す」「リクリエーションへの参加」「健康を感じる」「自然に接近する」「チャレンジする」「地域の自然史を学ぶ」といった動機について大多数の愛好家から賛同が得られたという。また、ジオキャッシングの教育現場における活用、社会人に対する教育的意義についての研究も見られるという。

3.5 日本における展開のプロセス
 2000年5月にアメリカ・オレゴン州でジオキャッシングが生まれた9ヶ月後の2001年2月3日、沖縄・真栄田岬に日本(東アジア)で最初のキャッシュが設置された。2008 年にはiPhoneが国内で発売となり、スマートフォンからジオキャッシングが楽しめる時代が到来する。この年、日本国内のキャッシュ数は1000を越え、東京では100件超の設置を記録したという。また、今までキャッシュの少なかった新潟・福岡・山梨に30を越えるキャッシュが大量設置される。そして2011年には日本国内の全都道府県にキャッシュが広がった。

4. 地域振興への利用:式根島の例
 年間21000人あまりの観光客を引きつけている。しかしながらその観光客は夏期に集中しており、需要の平準化が課題となっていて、また、観光客総数の減少や高齢化・過疎化も島にとっての大きな課題となっている。
 式根島にジオキャッシングが根付くのに大きな役割を果たしてきたのは、2009年以降、毎年開催されているCITO(Cache In, Trash Out)イベントである。これは、島外から参加したジオキャッシング愛好家と島の子供たちとが一緒になり、宝探しを楽しみながら同時にゴミ拾いを行っていくというイベントである、このイベントは、ジオキャッシング愛好家たちに式根島の名を知らしめるだけでなく、いくつかのメディアにも取り上げられた。また、地域の子供たちの参加や清掃活動を絡めてイベントを実施することにより、島民のジオキャッシングへの理解が進み、愛好家たちが島内で堂々と宝探しを楽しむ下地が形成された。
 式根島にジオキャッシングを導入する利点の一つは,ジオキャッシングというシステムが「無人の観光ガイド」として機能する点である。現在26 個あるキャッシュの多くは、島に点在する観光名所や絶景ポイントに設置されている。個々のキャッシュの情報を得るため公式サイトのページを開くと、そこには設置場所の観光案内やこぼれ話、さらに以前に訪れた人々の感想や耳より情報が投稿されており、非常に有益である。
 またもう一つの利点は、各名所に「宝探し」という冒険要素が付加されることによって、来訪価値の向上と滞在時間の延長とが期待できる点である。式根島は半日で歩き回れるほどの小さな島であるが、島に設置された26個のキャッシュ(2012年11月末現在)をすべて探索するには1泊2日ではとても足りない。

5. 地域振興への応用に向けた課題点
 式根島の例で見たように、ジオキャッシングは地域に人を呼び込むツールとして期待できる。しかし、それが持続的な地域振興につながるかまでは保証できない。そもそも観光資源の全くないところにキャッシュを設置し人を呼び込んでも、一過性で終わってしまう。また、有名観光地など既に人の多い地域では、ジオキャッシングを気兼ねなく楽しむことができない。したがって、おそらくジオキャッシングによって地域振興に成功する可能性があるのは「穴場的な観光地」ではないだろうか。なぜなら、参加者がキャッシュに導かれ、隠れた名所に出会うことができれば、そこでの発見の感動が他者へのクチコミ発信、あるいはリピート行動へとつながると考えられるからである。

<論文を受けて>
 Ingressにおいては、「穴場的な観光地が地域振興に成功する可能性」とは無関係かもしれない。ポータルの設置が同時に「その場所に観光資源がある」ことを示していると捉えることができるからである。また、Ingressにおけるポータルは現実世界に存在する寺社仏閣・史跡・芸術作品などが基になっているため、設置以降ユーザー自身の管理が必要なジオキャッシングのキャッシュに比べる(式根島では例外的に地元の商工会が島外者の管理を代行)と、Ingressプレイヤー自身が特別にポータルを管理する必要性はないため、プレイヤー全員がポータルを申請し、審査が通れば設置されるという申請における気軽さがある。

前の項目 ― 7. 先行文献研究:岩手県庁ゲームノミクス研究会中間報告書(岩手県庁ゲームノミクス研究会、2016年)

目次

次の項目 ― 9. 先行文献研究:ジオキャッシング:無名の人々がゲームを通じて発掘・拡張する観光価値(倉田陽平、2012年)

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